リヨン、ノートル=ダム・ド・フルヴィエールのバシリカ
La Basilique Notre-Dame de Fourvière




(上) ノートル=ダム・ド・フルヴィエールのバシリカ


 ノートル=ダム・ド・フルヴィエールのバシリカは、フルヴィエールの丘と呼ばれるリヨンを見渡す高台に建つバシリカです。1870年のリヨン・コミューンにおける社会主義的価値観に対して、キリスト教が勝利をおさめた象徴として、1872年から1896年にかけて建設されたもので、この点モンマルトルのサクレ・クールのバシリカに似ています。


【鐘楼上にある金色の聖母】

 フルヴィエールの丘はトラヤヌス帝時代にはフォルム(広場)であった場所で、現在の名称はラテン語で「古いフォルム」を表すフォルム・ウェトゥス (FORUM VETUS) に由来します。

 1643年にリヨン周辺で黒死病(ペスト)が猛威を振るいました。聖母マリアがリヨンを守ってくれるように女性たちが祈りをささげ、黒死病の流行が奇跡的に収まったとき、リヨンの市民たちは聖母に感謝してフルヴィエールの丘の上に小さな聖堂を建てました。

 メメントー・モリー ※リヨンのものではありません。


 1830年、この聖堂の鐘楼は老朽化のため取り壊されました。新しい鐘楼の頂上には聖母像を据えることになり、選考の結果、リヨンで活躍する彫刻家ジョゼフ=ユーグ・ファビシュ (Joseph-Hugues Fabisch, 1812 - 1886 註1) の作品が選ばれました。

 こうしてファビシュの手により高さ 5.6メートルの金色の聖母像が製作されましたが、豪雨で彫刻家の作業場が水浸しになったせいで完成が遅れ、1852年9月8日、聖母生誕の祝日に予定されていた祝別式に間に合わなくなったため、式は同年12月8日に延期されました。




(上) 鐘楼上に据えられた金色の聖母像。コロタイプによる古い絵葉書。当店の商品です。


 その後聖母像は鐘楼の頂上に運び上げられ、高さ3メートルの台座上に無事据え付けられましたが、祝別式当日の12月8日も雨で、祝典に花火を使うことができませんでした。そこでリヨンの市民たちは各自の家の窓際にランプを置いて、祝典の花火の代わりとしました。それ以来、リヨンでは毎年12月8日に「光の祭典」 (la Fete des Lumiere) と呼ばれる祝祭が開かれています。



【ノートル=ダム・ド・フルヴィエールのバシリカ】

 1870年に普仏戦争が起こり、パリを包囲したプロイセンはさらに南下を始めました。プロイセン軍がリヨンを首府とするローヌ=アルプの北隣、ブルゴーニュにまで迫り、女性たちがふたたびリヨンを救ってくださるようにと聖母に祈り始めると、プロイセン軍は退却を始めました。リヨンの市民たちはこのことに感謝し、またリヨン・コミューンが神に対して犯した罪を償うために寄付金を集め、1872年に聖堂の建設が始まりました。

 バシリカを設計したのは教会建築を専門とするリヨンの建築家ピエール・ボサン (Pierre Bossan, 1814 - 1888) で、当時一般的であったゴシック様式ではなく、聖堂を上下二層に分割し、ロマネスクとネオ・ピザンティン様式を採用した珍しいデザインです。四基の塔、一基の鐘楼、聖ヨセフに捧げた地下礼拝堂を備え、鐘楼の頂上には金色の聖母マリア像が据えられています。また精緻なモザイクと美麗なステンド・グラスを有します。

 聖堂は1896年に献堂されましたが、ステンドグラス、モザイク、彫刻等、聖堂内部が完成したのは1964年でした。



(上) ノートル=ダム・ド・フルヴィエールのステンドグラス


 また、ノートル=ダム・ド・フルヴィエールは 1906年のサンフランシスコ大地震後、1915年に再建されたフレンチ・クォーターのノートル=ダム・デ・ヴィクトワール教会のモデルになっています。

(下) サンフランシスコのノートル=ダム・デ・ヴィクトワール教会 (Eglise Notre-Dame des Victoires)





註1 ジョゼフ=ユーグ・ファビシュはリヨンにある国立美術学校 (L'École nationale des beaux-arts) の教授で、リヨン大司教区の指名を受けた彫刻家 (sculpteur officiel) でした。1852年にリヨンの金色の聖母を製作したほか、1863年9月15日から19日までルルドを訪ね、聖母の姿についてベルナデット・スビルーから聴き取りを行って、カラーラ産大理石を使用した高さ 183センチメートルの聖母像を製作しました。この像はルルドに運ばれて無原罪の御宿りのバシリカの地下聖堂に据えられ、1864年4月4日に二万人が出席した式典で祝別されました。ルルドの聖母像はリヨンの聖母像とならんでファビシュの代表作です。



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