19世紀フランスのブロンズ製メダイ 「かの人、我らがために死にたまえり」「悲しみの聖母よ、我らがために祈りたまえ」 24.0 x 17.2 mm


突出部分を含むサイズ 縦 24.0 x 横 17.2 mm

フランス  19世紀



 ブロンズを打刻して制作された19世紀フランスのメダイ。七つの悲しみの聖母のロザリオに使われるメダイの類品ですので、もともとロザリオを構成していたものを独立させたものかもしれません。





 一方の面にはゴルゴタの丘におけるキリストの受難が表されています。イエズスの十字架は天地を繋ぐ中心軸のように、メダイの中心軸の上下いっぱいに描かれています。遠景にはエルサレム市街の建物、十字架の後ろにはオリーヴらしき木が見えます。受難の光景を取り囲むように、次の言葉がフランス語で記されています。

 Il est mort pour nous.  イエズス死に給うは、我らがため。


 イエズスの足元で十字架にすがりつき、イエズスを見上げている女性は、マグダラのマリアです。キリスト教図像において、聖女は必ずヴェールで髪を隠して表されます。しかしながらマグダラのマリアだけは例外で、美しく長い髪をヴェールで隠さず、女性としての魅力を誇示する姿で表されます。まれにヴェールを被っている場合でも、ヴェールは髪全体を覆わず、長い髪が見えています。


【下・参考画像】 「十字架上のキリストと三人のマリア 受難のタピスリ」より、マグダラのマリア フランス 20世紀初頭 当店の商品です。




 十字架の基部には髑髏(どくろ)が見えます。髑髏は「ゴルゴタ」という地名を表し、またゴルゴタが刑場であったことを表すとともに、キリストの足元に置かれることにより、死に対するキリストの勝利をも象徴しています。





 パリのビブリオテーク・ナシオナル・ド・フランス(フランス国立図書館)には、「フランス語写本 No. 1036」が収蔵されていなす。この写本に記録された伝承によると、人祖アダムの息子セトは死期が迫った父アダムのために救いの聖油を手に入れようと楽園(エデン)を訪れます。楽園を守るケルブ(智天使)は、聖油の代わりに、生命の樹の種三粒をセトに与えます。セトはこの種を持ち帰り、間もなく亡くなった父の口に含ませて埋葬しました。三粒の種からは三本の木が生えて、モーセとダヴィデのもとで数々の奇蹟を惹き起こします。ダヴィデ王の時代、三本の木は互いに癒着して、一本の大木になりました。

 ソロモンはこの聖なる木をエルサレム神殿の梁にしようと考えて製材しますが、いざ使おうとすると長すぎたり短すぎたりしてうまくいきません。邪悪なユダヤ人たちはこの梁を川に渡して橋にし、罪深い人々の足で踏まれるようにしました。

 あるときシバの女王がソロモンの知恵の言葉を聴きにエルサレムを訪れましたが、道中の橋で聖なる梁に気付いた女王は、橋を使わず裸足になって川を渡りました。女王は跪いて梁を礼拝し、「この木は尊き血によってふたたび緑になるであろう」と言いました。

 梁はイエズスの受難のときまで同じ場所に横たわっていました。ユダヤ人たちはこの梁から十字架を作り、イエズスを磔(はりつけ)にしました。




【上・参考画像】 ソロモンに会いに行く途中で、聖なる梁を礼拝するシバの女王。イタリア中部アレッツォ(Arezzo トスカナ州アレッツォ県)のサン・フランチェスコ聖堂にあるピエロ・デッラ・フランチェスカのフレスコ画連作「聖十字架の物語」("Le Storie della Vera Croce", 1452 - 66) より、「十字架の礼拝」。 Piero della Francesca, "Adorazione della Croce" (dettaglio), 1452 - 66, affresco, la cappella maggiore della basilica di San Francesco, Arezzo


 このメダイにおいてイエズスの足元、十字架の基部にある髑髏は、「フランス語写本 No. 1036」が記録する伝承にしたがって解釈するならば、人祖アダムの骨に他なりません。アダムは生命の樹の種を口に含んで埋葬されたのですが、十字架はこの種から生え出でた生命の樹の子株なのです。アダムの罪ゆえに枯れた生命の樹は、キリストが十字架上で救世を達成したことにより、再び生命を与えられました。メダイの最下部、十字架の根元に彫られた髑髏は、そのことを表しています。





 もう一方の面には悲しみの聖母が表されています。イエズスと神への愛に燃える聖母の聖心は七本の剣に刺し貫かれています。この図像を囲むように、聖母に執り成しを求めるラテン語の祈りが記されています。

 MATER DOLOROSA, ORA PRO NOBIS.  マーテル・ドローローサ(悲しみの聖母)、われらのために祈り給え。


 新生児イエズスとともにエルサレム神殿を訪れたヨセフとマリアに対し、預言者シメオンは次のように語りました。

 シメオンは彼らを祝福し、母親のマリアに言った。「御覧なさい。この子は、イスラエルの多くの人を倒したり立ち上がらせたりするためにと定められ、また、反対を受けるしるしとして定められています。-あなた自身も剣で心を刺し貫かれます-多くの人の心にある思いがあらわにされるためです。」(「ルカによる福音書」 2章34 - 35節 新共同訳)

【下・参考画像】 Rembrandt Harmenszoon van Rijn, "Simeon in the Temple" (details), 1631, Mauritshuis Royal Picture Gallery, The Hague




 一本目の剣が聖母の心を貫いたのはこのときですが、いま、イエズスの受難により、最後の四本の剣が相次いで聖母の心に突き刺さりました。ヴェールを深く被って悲しむ聖母はが、それでもまっすぐに前を見る姿は、受胎告知の際から一貫して神の経綸を信じ受け入れる信仰を表しています。





 本品は百数十年前のフランスで制作されたメダイですが、磨滅した部分はまったく無く、制作当時のままの驚くべき保存状態です。浅浮き彫りにもかかわらず、細部まで完全な形で残っています。真正のアンティーク品ならではの古色が深い趣を醸しています。





本体価格 14,800円 販売終了 SOLD

電話 (078-855-2502) またはメール(procyon_cum_felibus@yahoo.co.jp)にてご注文くださいませ。




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