極稀少品 ミシェル・セラ作 《ルルドの無原罪の御宿り》 フランス現代美術によるメダイユ 重厚な作例 29.8 x 24.4 mm フランス 1960年代


重量 8.7 g

突出部分を含むサイズ 縦 29.8 x 横 24.4 mm  厚さ 3.0 mm



 ノートル=ダム・ド・ルルド(仏 Notre-Dame de Lourdes ルルドの聖母)を主題に、現代的な意匠で制作された重厚なプラケット。プラケット(仏 une plaquette)とは四角い浮き彫り作品のことで、広義のメダイユ(メダイ)に含まれます。

 本品はパリ生まれのメダユール(仏 médailleur メダイユ彫刻家)、ミシェル・セラ(Michel Serraz, 1925 -)が 1960年代頃に制作した作品で、打刻ではなく鋳造による本格的な美術品です。ひざまずくベルナデットの足付近に署名(SERRAZ)が刻まれています。聖母の背後、ペ(P)とテ(T)の間に見える組み合わせ文字は、ソミュールのメダイユ工房ジャン・バルム(Jean Balme)のマークです。 8.7グラムの重量は五百円硬貨よりもずっと大きく、手に取ると心地よい重みを感じます。





 ルルドを貫流するポー川(le gave de Pau)の岸辺に、現地で話されるガスコーニュ語ビゴール方言でマサビエラ(massavielha 古い岩塊、の意)と呼ばれる高さ二十七メートルの岩場があります。この岩場は巨大な石灰岩の塊で、基部にポー川の浸食を受けて、高さ 3.80メートル、奥行 9.5メートル、幅 9.85メートルのグロット(仏 grotte 洞穴、岩に開いた大きな横穴)を生じています。洞穴に向かって立つと右上方に縦長の開口部があって、開口部の奥は下の洞穴に繋がっています。ベルナデット・スビルーが幻視した少女マリアは、この開口部に立っていました。若き聖母に指示されたベルナデットが、洞穴内の土を手で掘ったところ泉が湧き出して、多数の病人に奇跡的な治癒効果を発揮しました。





 本品は向かって右に聖母マリアを、左にベルナデット・スビルーを浮き彫りにしています。背景にはグロットの入り口二か所が彫りくぼめられています。左側の洞窟からは病者を癒す水が湧き出し、大きな流れとなっています。聖母の足元には幾つかの三角形が彫られています。この尖った図形は茨の棘を様式化したものです。聖母の前には信仰のしるしである蠟燭が何本も立ててあります。これらの浮き彫りを取り囲むように、次の言葉がイール=ド=フランス方言(標準フランス語)で刻まれています。

  Je suis l'Immaculée Conception.  我は無原罪の御宿りなり。





 西洋の伝統的宗教画において、聖母は優れた徳ゆえに背が高く大きな姿で描かれる一方、常人はあたかも徳の卑小さを可視化するかのように、小さな姿で描かれます。本品においてもベルナデットが跪いているのに対し、聖母はすっくと立った姿で、聖母の頭はメダイの頂部を突き抜けるばかりの高い位置にあります。しかしながらベルナデットは跪いてはいますが矮小化されてはおらず、もしも立ち上がった場合は聖母よりもむしろ大きく表されている事に気づきます。

 ベルナデットの方がむしろ大きく表現されている理由は、ひとまずは空間的な距離を反映した遠近法のためと考えられます。マサビエルの岩場に聖母が出現し給うたとき、幻視するベルナデットとの間には数十メートルの距離がありました。それゆえベルナデット寄りの場所に視点を置いて聖母を仰ぎ見るならば、聖母よりもベルナデットの方が大きく見えることになります。





 常人である我々は、ベルナデットとともに聖母を仰ぎ見る立場にいます。このことを考えれば、本品の浮き彫りがベルナデット寄りの視点で画面を構成しているのも当然のことと思えます。しかしながら数あるルルドのメダイを見ると、他の作品はみな聖母の方を大きく表現しています。聖母を大きく表現するのは伝統的な作法に則った描法ですが、これに対して本品の彫刻家であるミシェル・セラは、伝統的な約束事に縛られない描写をおこなっていることがわかります。





 聖母よりもベルナデットを大きく表現している理由について、さきほど筆者(広川)は遠近法という言葉を使いました。しかしながら本品における遠近法は単なる物理空間の広がりを表しているのではありません。そもそもルルドの聖母は物体化して出現し給うたのではなく、ベルナデットただ一人の心眼に影向し給うたのです。ベルナデットの噂を聞いて周囲には多数の人々が集まりましたが、誰一人として聖母を見たものはありませんでした。

 それゆえ筆者が言う遠近法とは、むしろ精神的あるいは宗教的な意味です。常人であるわれわれはベルナデットと同じ位置、同じ次元にいます。この意味で我々の近くにいるベルナデットは、本品浮き彫りにおいて大きく表されています。一方常人であるわれわれは、いわばベルナデットの心眼を借りて、聖母を遠く仰ぎ見ています。それゆえ本来は大きな存在である聖母は、遠く仰ぎ見られる存在として、むしろ控えめな大きさで表現されているのです。





 聖母を遠くに仰ぎ見るといっても、それは聖母が我々に無縁の存在であるという意味ではありません。聖母は女神ではなく、地上に生きた一人の女性であって、その両足はマサビエルの岩場に着いています。聖母は地上の苦しみに耳を傾け、癒し給います。本品浮き彫りにおいて、洞穴の泉から流れ出した一筋の水は、大きな流れとなっています。これは聖母が数えきれない人々の心身を癒し給うたことの象徴的表現であり、ひいては地上の人々を憐れみ給う聖母の愛と働きの可視化です。これに対して聖母の足元に灯る蝋燭は、人々が聖母に捧げる愛と感謝を表しています。

 聖母は無原罪であるゆえに、素足を傷つけることなく茨の上に立っておられます。聖母の無原罪性は世界軸性に結びつきます。本品プラケット(メダイ)において、世界軸としての聖母の働きは、プラケットの上辺を突き抜けようとする柱状の立ち姿によって表現されています。





 上の写真は本品を男性店主の手に載せて撮影しています。女性が本品の実物をご覧になれば、写真で見るよりも一回り大きなサイズに感じられます。

 ミシェル・セラはキリスト教をテーマにした数点のメダイユを制作していますが、いずれも点数が少なく、めったに手に入りません。1979年6月から9月にかけて、パリ造幣局美術館で「ランヴィジーブル・ダン・ラ・メダイユ」(仏 L'Invisible dans la Médaille メダイユ芸術と宗教)という大規模な展覧会が開かれたのですが、本品はそのときのカタログにも載っておらず、珍しい作品であることがわかります。





 本品はおよそ六十年前のフランスで制作された真正のヴィンテージ品(アンティーク品)ですが、見本としてメダイユ店に残っていた未販売品です。保存状態は極めて良好で、突出部分にも摩耗はまったく見られません。

 下記は本体価格です。当店の商品は現金一括払い、ご来店時のクレジットカード払いのほか、現金の分割払い(二回払い、三回払い、四回払いなど。利息手数料なし)でもご購入いただけます。当店ではお客様のご希望に出来る限り柔軟に対応しております。ご遠慮なくご相談くださいませ。





本体価格 35,800円

電話 (078-855-2502) またはメール(procyon_cum_felibus@yahoo.co.jp)にてご注文くださいませ。




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