十七世紀のブロンズ製メダイ 《ピエタ》 《マグダラのマリア》 新生を象る八角形の作例 22.3 x 19.5 mm


縦 22.3 x 横 19.5 mm



 十七世紀、すなわち三百数十年前に、ブロンズを使って鋳造されたメダイ。一方の面にはキリストの遺体を抱いて嘆く聖母マリアを、もう一方の面には神と対話するマグダラのマリアを、それぞれ浮き彫りになています。本品が有する八角形の輪郭は、救世主が世の人々に与え給うた新生、永生を象(かたど)ります。





 一方の面にはピエタ(伊 la pietà)、すなわち十字架から取り降ろしたイエスの遺体を抱く悲しみの聖母が浮き彫りにされています。悲しみのヴェールで髪を隠した聖母は、座った両ひざの間にイエスの亡骸を抱き、イエスの頭部を右腕で支え、左腕を横に伸ばして悲歎に暮れています。十字架上に事切れたイエスの首は力無く捩じれ、顔はこちらを向いています。





 聖母子の両側にはシエルジュ(仏 cierges 大ろうそく)が灯され、頭上には三つの聖心が愛の炎を噴き上げています。素朴な浮彫りであるうえに表面が摩滅しているため、三つの聖心は形による弁別が困難ですが、中心にあるのがキリストの聖心、その左右にあるのがヨセフの聖心とマリアの聖心です。





 カトリックの教えによると、世界中の教会や修道院、人が集まるところで行われるミサは、象徴性においてではなく実体において繰り返されるキリストの受難です。ミサの際に信徒が享けるホスチア(羅 HOSTIA 聖餅)は、象徴性においてではなく実体において、コルプス・クリスティ(羅 CORPUS CHRISTI キリストの御体)に他なりません。

 本品に浮き彫りにされた聖母は、両側に大蝋燭が灯っているせいで、布を掛けられた祭壇、あるいは聖体顕示台のように見えます。イエスの御体は、祭壇上のホスチアに比することができます。それゆえ本品のピエタ像は、歴史的出来事としての救世主の受難を表すとともに、救世主の受難を日々再現するミサのミステリウムをも可視化しています。





 ほとんどのメダイは円形または楕円形ですが、本品は八角形の輪郭を有する珍しい作例です。

 キリスト教では神が天地創造に要し給うた日の数である七を、完全数、すなわち物事の完結性、完全性を象徴する数と考えます。八は七の次の数であるゆえに、物事の新たな始まり、新生、生まれ変わり、新しい命の象徴とされます。全身を水中に浸す洗礼が行われていた時代に、洗礼堂が八角形のプランで建てられていたのも、八が有するこの象徴性ゆえです。

 したがって八角形の中央に聖母子を配した本品の意匠は、キリストによって十字架上で成し遂げられた救世を表すとともに、聖体が齎(もたら)す新しい生命を形象化したものでもあります。





 もう一方の面には、クルシフィクスの前で瞑想に耽るマグダラのマリアの上半身を、大胆な浮き彫りで表しています。マリアの胸の前には、交差した両手が見えます。マリアは両方の前腕を交差させ、胸の前に当てているのです。これは古代から近世にかけて行われた祈りの姿勢であり、マリアがキリストとの対話に沈潜していることがわかります。





 マリアの横顔は美しく整い、ウェイヴを描いて流れる豊かな髪は、男性たちを虜にした輝きをかつてのままに保っています。しかしながら彼女の心と眼差しは、いまやキリストのみに向けられています。

 聖女の横顔を囲むように、七つの文字(S MAR MAG)が刻まれています。これら七文字は「サンクタ・マリア・マグダレーナ」(羅 SANCTA MARIA MAGDALENA)の略記で、ラテン語で「マグダラの聖マリア」という意味です。





 十字架は死刑の形具であるゆえに、クルシフィクスは本来であれば死を象徴するはずです。しかるに救世主は十字架上で救世を達成し給うたゆえに、クルシフィクスの象徴性は劇的に転回し、いまや永遠の生命の希望となりました。

 一方、クルシフィクスの下に置かれた髑髏(どくろ 頭骨)は、メメントー・モリー(羅 MEMENTO MORI)すなわち地上における死の形象化に他なりません。メダイに刻まれたマリアはまだ生きていますが、その魂は既に地上を離れ、イエスとともに天上にあることがわかります。





 中世以来の伝承によると、イエスに出会う前のマグダラのマリアは悪魔に憑かれていたとされます。またイエスの足にナルドの香油を注いだ罪深い女(売春婦)は、このマリアであったとされています。しかしながら地上におけるマリアの生は、イエスと出会うことで一新されました。イエスによって救われたマリアの生は、未だ地上にありながら、むしろ天上における永生と継ぎ目なく一体のものとなったのです。

 それゆえメダイが有する八角形の輪郭は、救われたマリアの新生をも表していることがわかります。





 上の写真は本品を男性店主の手に載せて撮影しています。女性が本品の実物をご覧になれば、写真よりもひと回り大きなサイズに感じられます。





 本品は貧しい一般の人々が、おそらく巡礼した際に手に入れたメダイです。十七世紀の人々は金や銀の精巧なチェーンなどは持っておらず、本品のようなメダイは紐(ひも)で頸に掛けていました。当時のメダイには上部に棒状の突起があり、突起の先端近くに横向きの穴が開けられていました。メダイを首に懸けるための紐は、孔に直接通していました。

 本品はおそらく孔が破損したために突起が切除され、メダイ本体の上部二箇所に、新たに孔が開けられています。孔が二つあるのは、本品を紐に取り付ける際、二本の糸で括(くく)りつけたからでしょう。二箇所のうち一方の糸が切れてもメダイが落下・紛失しないように、二箇所を別々の糸で括りつけたのです。三百数十年前の人々にとって、本品のようなメダイが如何に大切なものであったかがよくわかります。





 本品は突出部分を取り除いてあるゆえに、孔は本来の方向と九十度ずれて開けられています。それゆえ着用時にメダイが横向きにならないように、本品には金属製の環を付加しました。環が二個必要な場合、お申し出いただければ二個目の環を無料で追加します。

 本品は金属のチェーンと組み合わせることもできますが、上の写真では革紐を使用しています。革紐は留め金を取り付けず、後ろで括(くく)っています。革紐はメダイの価格に含まれませんが、お申し出いただければ実費で安価にお分けいたします。


 十九世紀後半から二十世紀にかけて、特にフランスで制作されたメダイは美的に洗練され、ミニアチュール彫刻作品としての完成度を高めてゆきます。しかるに十七世紀の作品である本品は、美術工芸品である以前に信心具であり、神への信仰が素朴な浮き彫りのうちに結晶化しています。

 突出部分の摩滅と均一なパティナ(古色)は、真正のアンティーク品ならではの美です。幾星霜の祈りを吸い込んで磨滅した聖母子とマグダラのマリアは、同じく長い歳月をかけて獲得された古色を背景に、恩寵の光に照らされて輝くように見えます。





26,800円

電話 (078-855-2502) またはメール(procyon_cum_felibus@yahoo.co.jp)にてご注文くださいませ。




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