ジャンヌ・ダルクとロレーヌ十字、フルール・ド・リス 金色の大型メダイ 直径 32.5 mm


突出部分を除く直径 32.5 mm  重量 

フランス  1922年頃



 ジャンヌ・ダルク (Jeanne d'Arc, c. 1412 - 1431) の横顔を大きく浮き彫りにした金色のメダイ。32.5ミリメートルの直径があり、大きなサイズのペンダントがお好きな方に使い易いサイズです。





 本品の浮き彫りにおいて、ジャンヌは肩と腋を板金で補強したチェーンメイル(鎖帷子)を着ています。メダイに彫られたチェーンメイルの首元には数個の円いくぼみがあり、必要に応じてストラスかエマイユで飾れるようになっていますが、現状では装飾がありません。同じ鋳型から作られたメダイには装飾付きのものがあるのでしょうが、本品は元々施されていた装飾が剥落したようには見えませんので、過剰な装飾を意図的に排して制作されていることがわかります。本品において、騎士姿のジャンヌを飾るのは、神とキリストへの愛と信仰のみです。

 中世西ヨーロッパにおいて、騎乗槍試合に使うような板金鎧は非常に高価であり、装飾が施されることもありました。しかしながらチェーンメイルは実用品であって、紋章等の装飾は施されません。本品を制作したメダイユ彫刻家は、チェーンメイル胸部のちょうど心臓がある高さに、十字架のある盾形を刻んでいます。心臓は愛と生命の象徴、十字架は信仰の象徴です。したがって十字架を刻んだこの小さな盾は、ジャンヌの心と魂が神への愛と信仰に守られていることを可視化するシンボルです。





 本品に彫られたジャンヌは兜を脱ぎ、美しく整った横顔を見せています。口を結び、まっすぐに前を見つめる表情には、ただ神の声のみに耳を澄ませてその命に従おうとする強い意志が表れています。背景にはフルール・ド・リスとロレーヌ十字が見えます。ロレーヌ十字と重なるように、オリーヴの枝が彫られています。

 フルール・ド・リス(fleur de lys 百合の花)は古代エジプト及び古代オリエントに起源を有すると考えられる装飾意匠で、ビザンティン帝国を介して西ヨーロッパに伝わりました。フランク王国に関しては、メロヴィング時代に伝わっていた可能性も十分にあり、カロリング時代には既に王権に結びついた象徴的意匠として機能していたと考えられます。後代の伝説によると、499年にクローヴィス(Clovis 1er, c. 466 - 511)が受洗したとき、天使が王に命じて、三位一体の象徴であるフルール・ド・リスをその紋章とさせました。西ヨーロッパで紋章が使われ始めるのは十二世紀ですから、クローヴィスの話は明らかなアナクロニスムですが、神による是認と祝福の目に見える印を必要としたフランス王権が、フルール・ド・リスをその理想的な象徴と考えたことがよくわかります。かくてフランス王権の象徴となったフルール・ド・リスは、近代以降も政体のあり方に関係なく、「フランスの象徴」であり続けることになります。





 ジャンヌは1909年4月18日、教皇ピウス十世により、パリ司教座聖堂ノートル=ダム(ノートル=ダム・ド・パリ)で列福され、十一年後の1920年5月30日、教皇ベネディクトゥス十五世により、ヴァティカンのサン=ピエトロ聖堂で列聖されました。また1922年には教皇ピウス十一世によって、トゥールの聖マルタンリジューの聖テレーズルイ九世等と並ぶフランスの守護聖人 (une patronne secondaire) とされました。

 本品が制作されたのはジャンヌがフランスの守護聖人とされた 1922年頃です。第一次大戦の傷と記憶もまだ生々しいこの時代、ドイツに対するフランスの国民感情は未だ険しいものがありました。1923年、フランスとベルギーはドイツの賠償不履行を理由にドイツ産業の心臓部ともいえるルール地方に進駐し、ドイツでは一兆倍に達するハイパーインフレーションの中、同年十一月、ヒトラーによるミュンヘン一揆が発生します。1933年にはヒトラ―内閣が成立し、1935年、ナチス・ドイツは再軍備を宣言します。この時代の流れを思うとき、フランスで制作された本品がフランスの愛国心を強調した意匠となるのは、半ば必然の成り行きであったことがわかります。「ドイツに対抗するフランスのメダイ」という本品の特性は、フルール・ド・リスに加えて、ロレーヌ十字にも色濃く表れています。

 しかしながらキリスト教に基づくメダイユである本品には、愛国心の対極にある「愛と赦し」の象徴物も表現されています。ロレーヌ十字の背後にありながらも大きく表されたオリーヴの枝は、旧約時代以来、愛と赦しの象徴です。

 「創世記」八章の記述によると、神の怒りで惹き起された洪水の豪雨が治まった後、ノアは最初に烏(からす)、次にを箱舟から放ちますが、大地が水に被われていて降りる地面が無かったので、いずれもすぐに箱舟に戻ってきました。その七日後、ノアが二度目に鳩を放つと、鳩は夕方になって箱舟に戻りました。鳩は嘴(くちばし)にはオリーヴの葉を咥(くわ)えていたので、水が引き、地面が顔を出し始めたことがわかったのでした。この故事のゆえに、オリーヴは神との平和、和解、神の祝福を表します。「創世記」の該当個所を、新共同訳により引用します。

     ノアは鳩を彼のもとから放して、地の面から水がひいたかどうかを確かめようとした。しかし、鳩は止まる所が見つからなかったので、箱舟のノアのもとに帰って来た。水がまだ全地の面を覆っていたからである。ノアは手を差し伸べて鳩を捕らえ、箱舟の自分のもとに戻した。 更に七日待って、彼は再び鳩を箱舟から放した。鳩は夕方になってノアのもとに帰って来た。見よ、鳩はくちばしにオリーヴの葉をくわえていた。ノアは水が地上からひいたことを知った。彼は更に七日待って、鳩を放した。鳩はもはやノアのもとに帰って来なかった。 (「創世記」 8章8節から12節 新共同訳)


 「神による赦し」「神との和解」は、「隣人を赦すこと」「隣人と和解すること」に直結します。本品に彫られたジャンヌ・ダルクは凛々しく整った顔立ちですが、その表情に険しさはありません。筆者(広川)には、本品に彫られたジャンヌの優しい表樹が、メダイユ彫刻家をはじめとするフランスの人々が、ドイツを赦そうとしている宗教心の表れであるようにも思えます。





 メダイを裏返すと、表(おもて)面の起伏をなぞるようにくぼんでいることがわかります。裏面が窪んでいるメダイは、ごく薄い金属板を打ち出して作られている場合がほとんどですが、本品はたいへん厚みがあり、薄板を打ち出して作ったものではありません。本品は直径32ミリメートルを超す大型の作例で、表(おもて)面のジャンヌ像も立体的に彫られていますので、通常の作り方ではかなり重くなります。裏側がくぼんでいるのは、重量を軽減して身に着けやすくするためです。





 本品はおよそ九十年前にフランスで制作された真正のアンティーク品ですが、保存状態はきわめて良好です。金の層が厚いため、突出部分の金めっきも剥がれはありません。浮き彫りのジャンヌはあたかも生身の女性を眼前に見るかのように写実的でありつつ、不可視の価値である「神への愛と信仰」、「隣人への愛と赦し」を、情愛深い表情のうちに見事に形象化しています。





16,800円

電話 (078-855-2502) またはメール(procyon_cum_felibus@yahoo.co.jp)にてご注文くださいませ。




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