19世紀メダイユ芸術の佳品 アッシジの聖フランチェスコと、パドヴァの聖アントニウス フランスのブロンズ製大型メダイ 43.6 x 31.3 mm


突出部分を含むサイズ 縦 43.6 x 横 31.3 mm  最大の厚さ 3 mm  重量 14.2 g

フランス  19世紀後半



 19世紀中頃、または後半にフランスで制作されたブロンズ製メダイ。フランチェスコ会の修道服に身を包んだふたりの聖人、アッシジの聖フランチェスコパドヴァの聖アントニウスを浅浮き彫りにした大型の浮き彫り作品で、3ミリメートル近い厚み、500円硬貨二枚分強の重量があります。





 一方の面には、交差した両腕を胸に当てて祈るアッシジの聖フランチェスコが浮き彫りで表されています。フランチェスコの前にはクルシフィクスが立てられています。この世に身を置きながらも天に憧れるフランチェスコは、神を慕う優しい表情を浮かべ、上体をわずかに前に屈めて、クルシフィクスに身を近寄せています。ひたすらに神のみを愛し、神におのずから親しく寄り添う聖人の姿勢は、会堂や往来で祈るパリサイ人の大げさな身ぶり(マタイ 6: 5 ff.) と、どれほど大きく異なることでしょうか。

 クルシフィクスの傍らには、現代のシャプレ・ド・ラ・サント・ヴィエルジュ(chapelet de la Sainte Vierge 「聖母の数珠」)と同様の五連のロザリオが置かれています。ロザリオが使われ始めた年代には諸説がありますが、フランチェスコの時代には、祈りの際、糸に通した珠を爪繰る信心具が、既に存在したようです。ただし本品の浮き彫りにシャプレ・ド・ラ・サント・ヴィエルジュが表されているのは、史実の描写ではなく、主の祈りと天使祝詞と栄唱を捧げ続けるフランチェスコの魂を形象化したものです。

 クルシフィクスとロザリオが立てられ、置かれているのは、ごつごつした岩の上です。本品を制作したメダイ彫刻家は、クルシフィクスを岩の上に立てることにより、イエズスが世の人々の拒絶され受難し給うたこと(ヨハネ 1: 10 - 11)を表すとともに、クルシフィクスとロザリオを岩の上に置くことにより、フランチェスコの信仰の堅固さを表しています。ごつごつした岩の描写は、サント・ボームで隠修の生活をしたと伝えられる聖マドレーヌ(マグダラのマリア)のメダイと共通します。

(下・参考写真) 荒野で祈る聖マドレーヌ 1914年のメダイに見られる浮き彫り 当店の商品




 聖フランチェスコに執り成しを求める祈りが、周囲にラテン語で書かれています。

  SANCTUS FRANCISCUS, ORA PRO NOBIS.  聖フランチェスコよ、我らのために祈り給え。






 もう片面には祈祷の際に幼子イエズスの幻視を体験するパドヴァの聖アントニウスが、浮き彫りで表されています。祈祷書から現れた幼子イエズスは親しげに身を屈めて聖アントニウスのほうに腕を差し伸べ、聖アントニウスは右腕を伸ばして、わが子を慈しむかのように幼子を抱き寄せています。

 聖フランチェスコは心のたいへん優しい人で、小鳥に説教し、町の人々に恐れられ嫌われた狼の立場に立って人々と狼の仲立ちをしたと伝えられていますが、聖フランチェスコを慕った聖アントニウスも同様に優しく、生き物を愛し、魚に説教したと言われています。このメダイに刻まれた聖アントニウスの表情にも、神の愛の反映、限りなく優しい愛情を読み取ることができます。

 アントニウスは1231年6月13日にパドヴァ近郊アルチェッラ (Arcella) の聖クララ会修道院で亡くなりました。この日、町の子供たちは泣き、聖人ために地上に降りた天使たちによって、町のすべての教会の鐘がひとりでに鳴ったと伝えられています。聖アントニウスが死んだとき、パドヴァとアルチェッラのすべての教会の鐘は天使によらずとも鳴ったでしょうし、子供たちが優しいアントニウスとの別れを悲しんで泣いたのも事実でしょう。メダイの周囲には、聖アントニウスに執り成しを求める祈りがラテン語で書かれています。

  SANCTUS ANTONI DE PADOUA, ORA PRO NOBIS.  パドヴァの聖アントニウスよ、我らのために祈り給え。

 「アントニー」(ANTONI) は「アントニウス」(ANTONIUS) の呼格(vocative アントニウスよ、と呼び掛ける際に使う語形)です。


 本品を同時代の他のメダイと比べると、サイズが非常に大きいのみならず、浮き彫りに厚みがあり、メダイ全体が格段に丁寧かつ精巧に制作されていることが分かります。これは本品が打刻ではなく鋳造によって作られているからです。19世紀のメダイは、そのほとんどがスクリュー・プレスで打刻して作られています。スクリュー・プレスによる打刻は硬貨の製造にも使われた方法で、作業効率は上がりますが、立体的な作品を作ることはできません。一方、メダイユを鋳造する場合、融解した金属を鋳型に流し込むときにも高度な技術が必要ですし、冷却を待って鋳型から取り出した後も、やすりがけや表面処理が必要です。作業効率の点で、鋳造は打刻に大きく劣りますが、鋳造によって産み出される作品の芸術性は非常に優れています。

 下の写真は、同時代にフランスで作られた通常の大きさのブロンズ製メダイと、本品を比較したものです。この時代のフランスのメダイはほぼすべてが打刻によるもので、下の写真に写っている本品以外のメダイも例外ではありません。本品をそれらと比べると、サイズが立派なだけではなく、鋳造された浮き彫り彫刻が立体性、迫真性において格段に優れていることがよくわかります。


(下) 左端は本品。右上段は左から右に、ルルドのメダイ聖ベネディクトのメダイ聖マルタンのメダイ。下段は左から右に、サンタンヌ・ドーレのメダイ不思議のメダイノートル=ダム・ド・フルヴィエールのメダイ。







(下) 本品の上に不思議のメダイを重ねた写真。上に載っている「不思議のメダイ」は、19世紀フランスにおいて標準的な厚さです。




 鋳造によって制作された本品は、19世紀フランスのメダイユのなかでも例外的に立派な作品です。サイズが大きいだけではなく、フランスにおいて19世紀に開花したメダイユ芸術が産み出した芸術品として、高く評価できる佳品です。保存状態の点でもたいへん優れており、細部までよく残っています。突出部分のわずかな磨滅が、真正のアンティーク工芸品ならではの丸みを帯びた優しい表情を与えています。





本体価格 34,800円 販売終了 SOLD

電話 (078-855-2502) またはメール(procyon_cum_felibus@yahoo.co.jp)にてご注文くださいませ。




アッシジの聖フランチェスコのメダイ 商品種別表示インデックスに戻る

天使と諸聖人のメダイ 一覧表示インデックスに戻る


天使と諸聖人のメダイ 商品種別表示インデックスに移動する

メダイ 商品種別表示インデックスに移動する


キリスト教関連品 商品種別表示インデックスに移動する



アンティークアナスタシア ウェブサイトのトップページに移動する




Ἀναστασία ἡ Οὐτοπία τῶν αἰλούρων ANASTASIA KOBENSIS, ANTIQUARUM RERUM LOCUS NON INVENIENDUS