銀無垢の高級品 C. シャルル作 《サント・バルブ  直径 18.4 mm》 天地を繋ぐ聖女のメダイ 柔らかな浮き彫りをマジュスキュル書体で囲んだ作例 フランス 二十世紀前半から中頃


突出部分を除く直径 18.4 mm   最大の厚さ 2.1 mm   重量 2.7 g




 二十世紀前半ないし中頃のフランスで制作された聖バルバラのメダイ。ニコメディアの聖バルバラ(Ἁγία Βαρβάρα της Νικομηδείας)はギリシアの植民市ニコメディアで生まれ、ヘリオポリス(レバノンの古代都市バールベク)で殉教したと伝えられる三世紀の聖女で、異教徒の父により塔に閉じ込められたという聖人伝で知られます。聖バルバラの祝日は12月4日です。





 メダイの表(おもて)面は聖バルバラの半身像を中央に大きく浮き彫りにし、サント・バルブ(仏 Sainte Barbe)の文字で囲んでいます。サント・バルブはフランス語で聖バルバラという意味です。サント・バルブの名を刻む大文字のフォント、マジュスキュル(仏 majuscules)が、中世初期の手稿を思わせます。

 バルバラは右手で小さな塔を捧げ持ち、左手で剣の柄に触れています。塔と剣は聖バルバラのハギオグラフィ(聖人伝)に基づくアトリビュート、すなわちこの聖女を象徴する持物(じぶつ)で、前者はバルバラが塔に閉じ込められていたとの伝承、後者はバルバラが斬首されて殉教したとの伝承に基づきます。





 バルバラが幽閉された塔には二つの窓がありました。この塔は魂を救われるべきバルバラを、あるいは救われるべきバルバラの魂を閉じ込めていました。それゆえバルバラの塔とは、肉体の暗喩に他ならないと考えられます。塔に初めから備わっていた二つの窓とは、蓋(けだ)し肉体に光を取り入れる二つの眼のことでしょう。プラトンは「ゴルギアス」493aにおいて「肉体は[魂の]墓である」(希 σῶμα σῆμα)と言いました。バルバラを幽閉する塔には二つの窓を通して自然の光が入ってきましたが、バルバラにとってこの塔はセーマ(希 σῆμα 墓標、墓)に他ならなかったのです。

 聖人伝によると、洗礼を受けたバルバラは塔に三つめの窓を開け、三つの窓を三位一体の象(かたど)りとしました。これは人がパンのみにて生きるのではないのと同様に、人は眼から取り入れる自然の光のみで生きるのではないこと、すなわち人が生きるためには神の光が必要であること、あるいは「ヨハネによる福音書」一章四節と五節が説くように、まことの光であるキリストが必要であることを示しています。





 聖バルバラの定型的図像において、聖女とともに描かれる塔は三つの窓を有します。しかるに本品の浮き彫りにおいて、バルバラが左手に持つ塔には、窓がふたつしかありません。この塔は地上の肉体を表しています。伝承によるとバルバラは地上における男性との結婚を拒み、自身をキリストに捧げて殉教を遂げました。

 本品の浮き彫りにおいてバルバラは魂を閉じ込める肉体と地上の命をキリストに捧げ、いまや地上を離脱して天上の光に包まれています。フランス製メダイユの浮き彫りは精緻で写実的な作品が多いですが、本品の浮き彫りは写実的である一方で聖女の姿がたいへん柔らかく、地上の重力からようやく逃れた聖女の魂が、光の内に溶け込むかのように見えます。





 本品のバルバラはメダイユの天地いっぱいに彫られ、聖女の頭頂は円形メダイの上端に接しています。この構図はバルバラが天地を繋ぐ聖人であることを表しています。

 伝承によると、娘を自らの手で斬首したバルバラの父は立ちどころに天罰を受け、稲妻に撃たれて死にました。それゆえバルバラは稲妻に関連付けられ、落雷から守ってくれる守護聖人ともされます。

 しかしながら筆者(広川)が考えるに、稲妻はオーディン、ゼウス、ユピテルをはじめとする天空神の顕現であり、民間信仰においてバルバラが天空に関連付けられるのは、バルバラが天地を繋ぐ聖女であるゆえに他なりません。本品においてメダイの天地いっぱいに浮き彫りにされているバルバラは、天地を繋ぐ聖人の役割を目に見える形で表現しています。





 上の写真に写っている定規のひと目盛りは、一ミリメートルです。バルバラの顔の高さは三ミリメートルないし四ミリメートル、手の長さは二ミリメートルほどですが、聖女の横顔は美しく整い、手の形は自然です。天上の光に包まれる柔和な表情からは、暴力的に奪われた地上の生が完全に忘れ去られ、いまや聖女は永遠の至福に生きていることがわかります。

 バルバラの左肩の後ろには、シャルル(Charl)の署名が彫られています。シャルルは二十世紀前半から中頃のフランスで活躍したメダユール(仏 un médailleur メダイユ彫刻家)で、聖母をはじめとする聖女を側面から捉えた美しい作品群で知られています。


 上の写真では定規に隠れて見えませんが、メダイ上部に突出し環状部分には、フランスのメダイユ工房を表す菱形のマークと、純度八百パーミル(800/1000, 八十パーセント)の銀を表す検質印が刻印されています。

 純度八百パーミルの銀にはテト・ド・サングリエ(仏 la tête de sanglier イノシシの頭)とクラブ(仏 le crabe 蟹)の二種類があり、イノシシの頭はモネ・ド・パリ(仏 la Monnaie de Paris パリ造幣局)で、蟹の検質印はパリ以外の検質所で、それぞれ検質されたことを示します。本品の刻印はテト・ド・サングリエ(イノシシの頭)ですので、モネ・ド・パリにて検質されたことがわかります。





 メダイユの裏面には美しく咲き誇る百合と薔薇が浮き彫りにされています。

 百合が純潔の象徴であることはよく知られていますが、同時に百合は神の摂理を信頼する揺るぎなき信仰の象(かたど)り、並びに神による選びの象徴でもあります。聖バルバラは地上の結婚を拒んでキリストに仕えることを望み、いくら説得されてもその信仰は揺るがず、遂には殉教者の列に加わりました。このようなバルバラにとって、三輪の百合はこの上なく相応しい花といえます。

 薔薇はアフロディーテー(ウェヌス)の花であり、もともと性愛を象徴しました。しかるに深紅の薔薇は五枚の花弁がキリストの五つの傷、すなわち両手、両足、脇腹の傷を思い起こさせるゆえに、中世のヨーロッパにおいて、薔薇は神の愛を象徴する花となりました。さらに十字軍が東方から持ち帰ったダマスク・ローズは、花弁を大きく開く形が伝説の聖杯、すなわちキリストの血を受けたと伝えられる聖杯を思わせるゆえに、神の愛の象徴性をいっそう強めました。本品に彫られた二輪の薔薇は、神がバルバラを愛する愛を可視化するとともに、バルバラが地上の生命を捨てて貫いた神への愛をも表しています。





 本品裏面の百合と薔薇は、表面の聖女に劣らず写実的です。装飾美術の題材、とりわけ植物における自然主義的表現は日本美術の影響であり、日本美術がフランスで産み出したアール・ヌーヴォー(仏 l'Art Nouveau)の残響でもあります。本品の浮き彫りを注意深く観察すると、左右に垂れ下がる薔薇は上部中央の百合と同じところから伸びており、類を見ないユニークな作例となっています。







 本品はおよそ六十年ないし九十年前のフランスで制作された真正のアンティーク品ですが、いずれの面の浮き彫りにも摩滅はまったく見られず、新品時の状態を保っています。突出部分を除くサイズは直径十八ミリメートル強とペンダントに好適で、どのような服装にも合わせやすく、お買い上げいただいた方には必ずご満足いただけます。





本体価格 21,800円

電話 (078-855-2502) またはメール(procyon_cum_felibus@yahoo.co.jp)にてご注文くださいませ。




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