すべて労する者、重荷を負う者、われに来たれ。われ汝らを休ません。 (ボナミ #32)

  VENEZ À MOI, ô vous tous qui travaillez et qui êtes fatigués. VENEZ. et je vous soulagerai. St. Matthieu 11. 28., Bonamy, pl. 32


120 x 80 mm

フランス  19世紀中頃



 聖心と手の釘痕を示して罪びとに語りかけるイエズス・キリストを、緻密なグラヴュール(エングレーヴィング)によって写真のようにリアルに描き出したカニヴェ。19世紀のフランスで製作された数々の宗教版画のなかでも、とりわけ素晴らしい出来栄えの佳品です。





 カニヴェの表(おもて)面は金色の枠で囲まれ、その上部に次の言葉がフランス語で書かれています。

  VENEZ À MOI, ô vous tous qui travaillez et qui êtes fatigués. VENEZ. et je vous soulagerai. St. Matthieu 11. 28.

  われに来たれ、すべて労する者、重荷を負う者よ。来たれ。われ汝らを休ません。(マタイによる聖福音書 11章28節)



 これはマタイによる福音書からの引用ですが、冒頭の「われに来たれ」(VENEZ A MOI) を大文字にし、さらに後ろの部分でふたたび大文字を使って、福音書の原文には無い二度目の「来たれ」を挿入することにより、罪びとを救いへと招くイエズス・キリストの限りなき愛を強調しています。


 聖画には、フランス人になじみ深い田舎の風景のなか、聖心と手の釘痕を示して罪びとに語りかけるイエズス・キリストを描きます。寛衣を身に着けたイエズスは、片脚で体重を支えるコントラポストの姿勢を取り、写真のように緻密な描写と相俟って、あたかも見る者の目の前に立っておられるかのように活き活きと動的な印象を与えます。

 両手には大きく痛々しい孔が開き、心臓も荊冠に取り巻かれて血を流し、さらに裸足の両足で太い茨を踏んでおられるにもかかわらず、イエズスの表情はあくまでも穏やかで、柔和な眼差しには慈(いつく)しみが溢れています。聖心には愛の炎が燃え、両手の釘痕とともに慈愛の光に輝いています。
 イエズスの後光には "IHC" と "XPC" の文字が浮かんでいますが、これはそれぞれギリシア語の「イエースース」(IHCOYC)、「クリストス」(XPICTOC) を意味します。(註1)

 イエズスの衣と背景の空はグラヴュール(エングレーヴィング)、顔と手足、背景の山野、川面、足下の草はオー・フォルト(エッチング)で、それぞれ製作されています。オー・フォルトはグラヴュールに比べて緻密さに劣る場合がありますが、カニヴェは画面が小さいので、たとえオー・フォルトであってもグラヴュールと同等のきめの細かさとなります。特にこのカニヴェの聖画はグラヴュールで製作された部分の面積が大きいために、あたかも写真のように緻密でくっきりとした描写を実現しています。





 上の写真は実物の面積を 100倍、下の写真は実物の面積を60倍に拡大しています。定規のひと目盛は 1ミリメートルです。カニヴェの実物を見ても写真のようにしか見えませんが、強力なルーペか顕微鏡で拡大すると、版画家がいかに高水準の仕事をしているかがわかります。





 聖画の左下には版元の所在地と名前が「ポワチエ、ボナミ書店」(Bonamy Editeur, Poitiers) と刻まれています。聖画の右下には、「ビュランが(版を)彫った」(Buland sc.) と刻まれています。"sc" は、ラテン語で「彫った」を表す "SCULPSIT" の略記です。19世紀のグラヴュールにおいては "________ sc." "________ SCULPt" 等の形で画面の右下に版画家の名前を表示する習慣になっています。

 この聖画の作者、ジャン=エミール・ビュラン (Jean-Émile Buland, 1857 - 1938) は1880年にローマ賞を受賞したフランスの高名なエングレーヴァーで、画家ジャン=ウジェーヌ・ビュラン (Jean-Eugene Buland, 1852 - 1926) の弟です。

 表(おもて)面の最下部には、次の言葉が流麗な字体のフランス語で刻まれています。

  Je conduirai l'âme dans la solitude, et je lui parlerai au Cœur. Os. II. 14.  それゆえ、わたしは彼女をいざなって荒れ野に導き、そのに語りかけよう。(ホセア書 2: 16より)

  Ô la douce conversation! qu'elle vous apprendra d'admirables secrets! Je dormirai, et je me reposerai en paix dans votre Cœur, O Jesus. Ps. 4. 9.  素晴らしき秘密を教えてくれるとは、その対話の何と甘美であることであろう。おお、イエズスよ、あなたの聖心のうちにあって、わたしは眠り、平和に安らいます。(詩篇 4:9より)



 上のふたつの文章のうち、最初のものはホセア書の聖句をそのまま引用しています。ただし新共同訳において、この聖句は 2章14節ではなく、2章16節になっています。日本語の訳文は新共同訳に拠りました。

 二番目の文章はその一部が詩篇 4篇9節に基づいています。日本語の訳文は私がフランス語をそのまま訳しました。なお詩篇 4篇9節の聖句は次の通りです。

  平和のうちに身を横たえ、わたしは眠ります。主よ、あなただけが、確かにわたしをここに住まわせてくださるのです。(新共同訳)





 カニヴェの裏面にはイエズスの聖心に対する次の祈りの言葉がフランス語で記されています。

    Le sacré Cœur de Jésus イエズスの聖心
     
     Sacré Cœur de Jésus, source de vie et lumière du monde, ornement de la cour angelique et délices des âmes purs, je vous salue, je vous adore et je vous aime!    イエズスの聖心よ、命のにして世の光、天使たちの誉れにして心清き者たちの悦びよ。私は御身を敬います。お慕いします。愛します。
     Je vous salue, très-doux Cœur de Jésus! Vous êtes l'écrin merveilleux dans lequel sont renfermes tous les trésors d'amour de la très-sainte Trinité.    尊き御方、いとも優しきイエズスの聖心よ。御身は素晴らしい宝石箱であらせられます。御身の内には至聖なる三位一体の愛のあらゆる宝が入っています。
     Vous êtes la harpe melodieuse dont les suaves harmonies enivrent de joie les elus qui vous contemplent et les cœurs qui vous aiment.    御身は美しき音(ね)の竪琴です。御身を瞑想して御身を愛する選ばれた者たちは、御身の妙なる調べに喜び、酔い痴れます。
     Cœur de Jesus, plus blanc que le lis, mieux empourpré que les roses, vous êtes le plus riche sanctuaire des âmes virginales, le tabernacle d'or ou s'abritent l'innocence et la vertu.    白百合にまして白く、薔薇にもまして紅きイエズスの聖心よ。御身は純潔を守る魂のいとも豊かなる神殿にして、無垢と徳の隠れ家なる黄金の幕屋であらせられます。
     - Ô Cœur sacré, vous êtes par excellence le refuge assuré des pauvres pécheurs; c'est votre sang empourpré qui les lave de toutes leurs souillures et qui les rend éclatants comme la neige.   ―おお、聖なる御心よ。御身こそは頼る者無き罪びとの確かな避け所です。御身の深紅の御血によりてこそ、罪びとのすべての汚れは洗われ、罪びとは雪のように輝きます。
     - Cœur de Jésus, brisé par la douleur, vous êtes la consolation du malade, l'esperance de l'infirme, le soutien du moribond.   ―イエズスの聖心よ。苦しみを受け給うた御身こそ、病める者の慰め、弱き者の希望、死にゆく者の支えです。
   
     
     Ô Jésus! ô amour! ô Cœur, mon espérance et ma fin, ma richesse et ma joie, ma vie et mon bonheur! Cœur divin, si aimable et si peu aime! Cœur si tendre et si délaissé! Cœur si bon, si paternel, et si cruellement déchiré, persecuté!    おお、イエズスよ。愛よ。御心よ。我が希(のぞ)み、行くべきところ、我が命にして幸福よ。かくも愛に値しつつ、愛されることのかくも少なき神の御心よ。かくも柔和なれども見向きもされざる御心よ。かくも優しく、父の如くに子を想えども、かくも非道なる苦しみを受け、虐げられ給える御心よ。
     Oh! ayez pitié de nous, ayez pitié de moi! Nous sommes des enfants, hélas! trop souvent ingrats; mais, o Cœur de Jesus, ne nous traitez pas selon la mesure de nos iniquités; oubliez nos offenses, et daignez encore, daignez toujours nous bénir.   我らを憐れみたまえ。我を憐れみたまえ。悲しいことに、私どもは愛情に報いることを忘れがちな子供です。しかしながら、おお、イエズスの御心よ、我らをその罪によって遇し給わず、我らの咎(とが)を憶え給わず、ふたたび我らに、常に我らに、祝福を与え給え。



 裏面最下部には版元ボナミの社名と所在地、及び図版番号を表す数字 32が書かれています。





 このカニヴェは150年以上も前のものですが、それほどまでに古いものとは俄かに信じがたいほど綺麗な状態で、稀少な完品です。上の写真は特注品の額縁を使用し、聖心の聖母のカニヴェとともに額装した例です。この額装を施した場合の価格は 68,400円(カニヴェ二点、額、ヴェルヴェット、マット、工賃、税、すべて込み)です。





カニヴェの価格 25,200円 販売終了 SOLD 




電話 (078-855-2502) またはメール(procyon_cum_felibus@yahoo.co.jp)にてご注文くださいませ。



註1 ラテン文字のC(ケー)は、ギリシア文字のガンマに由来します。したがって古いラテン語においてCは[g]の音を表しており、その名残は人名ガーイウスの略記Cに見ることができます。Gの文字は、Cが[k]の音を表すようになって以降に新しく作られたものです。

 しかるにCはまたギリシア文字シグマの代用として使われることもあります。ビザンティン美術やルネサンス期以前のイタリア美術において、クリストス・パントクラトール(全能者キリスト)のイコンに描かれたキリストの頭部の左右に、ティルデ (~) を戴いた "IC"、"XC" の文字が書かれますが、これはそれぞれ "IHCOYC"(Iesous イエースース)、"XPICTOC"(Christos クリストス)を表しています。





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