マルグリット・カルヴェ=ロニア作 「すべてのいきものが、おさなごイエスをたたえます」 幼き者のための石版画 (ブアス=ジューヌ No. 2721)

"Toutes les créatures louent l'Enfant Jésus", Bouasse-Jeune, No. 2721


折りたたんだ状態のサイズ 106 x 66 mm

商品写真に写っている額のサイズ  164 x 207 mm  奥行 33 mm


フランス   1944年



 フランスの挿絵画家マルグリット・カルヴェ=ロニアによる小聖画。幼子イエスを慕って取り囲む動物たちを美しい石版画で描き、幼い子供にも親しみやすい「目で見る讃美歌」として制作されています。第二次世界大戦中の 1944年頃、ドイツに占領されたフランスで刷られたものです。





 聖画の中心には、八、九歳くらいに見える少年イエスが描かれています。純白の衣を着たイエスは裸足で、瑞々しい草を踏みながら森の中を歩いています。イエスの足下にはうさぎとりすが駆け寄っています。小鳥たちは、あるいは地面に降り立ち、あるいは空中を飛びながら、イエスを讃えるように囀(さえず)っています。一羽の小鳥はイエスの指に留まり、親しく話をしています。イエスの足下には牝鹿がぴったりと寄り添っています。聖画左下の隅には、「カルヴェ=ロニア」(Calvet-Rogniat)と署名されています。

 マルグリット・カルヴェ=ロニア(Marguerite Calvet-Rogniat)は、南フランスのアヴェロン(l'Aveyron ラングドック=ルシヨン=ミディ=ピレネー地域圏)に生まれたフランスの女性挿絵画家です。学校で成績が良い子に与えられる色刷りの小さな絵をはじめ、子供たちが親しみ易い美しい色彩を使い、精緻なミニアチュール作品群を残しています。ピレネー山中に位置するアヴェロンは、古くはルエルグ地方(Rouergue)と呼ばれ、聖地コンク(Conques)で知られる風光明媚なところです。本品をはじめ、マルグリット・カルヴェ=ロニアが描く作品の優しく繊細な色遣いは、「コンクの小さな聖人」サント・フォワのイメージと重なって、見る者の心を和ませます。

 聖画の下には美しい字体のフランス語で次の言葉が記されています。

  Toutes les créatures louent l'Enfant Jésus  すべてのいきものが、おさなごイエスをたたえます。






 本品は横長の紙を二つに折って冊子のように作ってあります。二つ折りにしたサイズは、横 106ミリメートル、縦 66ミリメートルです。冊子を開くと、幼い子供たちのために書かれた可愛らしい詩がフランス語で記されています。内容は次の通りです。


     Quand Jésus vient dans la forêt
Tous les animaux lui font fête.
     もりでおさんぽ、イエスさま。
どうぶつたちは、おおよろこび。
           
         Jésus, dans mon cœur venez,
Toujours, je vous aimerai !
     
   イエスさま。わたしのこころにおこしください。
イエスさま。これからずっとだいすきです。
               
     Les petits lapins font des cabrioles
Et les écureuils leurs plus jolis sauts.
Les petites fleurs ouvrent leur corolles.
     ちいさなうさぎは、ちゅうがえり。
りすもきれいに、ぴょんぴょんはねる。
おはなは、ちいさなかんむりみたい。
           
         Jésus, je vous offre mes jeux,          イエスさま。わたしのあそびをささげます。
               
     Les petits oiseaux gazouillent gaiement
Et même l'un d'eux s'est posé, tout tendre
Sur son doigt menu.
     ことりもたのしくうたってる。
いちわが、そっと、イエスさまの
ほそいゆびにとまったよ。
           
         Jésus, pour vous je vuex chanter !          イエスさま。おうたをおきかせいたします。
               
     La petite biche, timide et douce
S'attache à ses pas, ne le quitte plus.
     やさしいしかのおんなのこ、こわがりやさんもやってきた。
イエスさまにくっついて、はなれない。
           
         Jésus, toujours je veux vous suivre,
Toujours, je vous aimerai.
         イエスさま。これからずっといっしょです。
ずっとずっと、だいすきです。


 幼い子供たちがイエスに捧げることができるのは、金品ではなく、歌や遊びです。「歌や遊びを捧げる」のは、一見したところ他愛ない児戯のようにも思われます。しかしながら幼い子供たちにとって、歌や遊びは生の喜びそのものです。したがって「歌や遊びを捧げる」とは、自分のすべてをイエスに捧げ、自分の全てを以てイエスのなかに生き、そのことを喜ぶ、という意味に他なりません。




(上) P. マテイ、ジルウ作 「幼子らの我に来(きた)るを禁ずることなかれ」 十九世紀フランスの石膏彫刻 当店の商品です。


 大人の自我は鎧のように肥厚した外被をまとい、身軽さを失って、ひとつの場所から動くことができません。巨大な重力にも比すべき自我に縛られて、大人の心はこの一点から脱出することができません。それゆえ大人は常に自分自身を支点にして物事を考え、ときに思い煩い、ときに驕り高ぶります。他方、子供たちの幼い心は、小鳥のような軽やかさゆえに、明日を思い煩わず、大人のような私心を持たず、たとえば傷ついた小鳥や子猫にためらうことなく手を差し伸べます。

 「幼児は何もできない」というのは間違いです。何もできなくなっているのは、子供ではなくて、大人のほうです。その証拠に、子供は歌や遊びを、つまり自分の持っているものすべてを、易々と神に捧げます。しかるに大人がすべてを神に捧げるのは、なんと難しいことでしょうか。「子供たちをわたしのところに来させなさい。妨げてはならない。神の国はこのような者たちのものである」(「マルコによる福音書」 10章 14節)というイエスの言葉が思い起こされます。


 聖画と詩に登場する動物たちは、子供が身近に感じる生き物であるとともに、それぞれ象徴的意味を有します。小鳥はキリスト教以前の古代から魂の象徴とされています。花が咲き乱れ、小鳥がさえずる光景は、古代地中海地域の墓室壁画における楽園の描写を強く想起させます。西ヨーロッパのキリスト教美術において、鹿はキリストを求める魂の象徴と考えられています。


 二つ折り冊子の裏表紙に当たる部分には、次の言葉が下端に刷られています。

  Bouasse-Jeune Imprimé en France 2721  ブアス=ジューヌ フランスで印刷 図版番号 2721

 ブアス=ジューヌ(Bouasse-Jeune)は、ブアス=ルベル(Bouasse-Lebel)から分かれたパリの版元で、多色刷り石版による数多くの美しいカトリック聖画で知られています。

 この面の左上には、次の言葉が青色インクで書き込まれています。

  À ma chère petite Denise de son cousin Jacques, 4 juillet 1944  かわいいちいさなドニーズへ。いとこのジャックより。1944年7月4日

 第二次世界大戦中のフランスは、戦争が始まってすぐにドイツに降伏し、フランス全土がドイツ及びドイツの傀儡(かいらい 操り人形)であるヴィシー政権の支配下にありました。特に 1943年十月以降、フランスの全土はドイツによって直接占領されていました。しかし 1944年6月6日、史上空前の規模の連合軍上陸部隊がノルマンディー海岸に侵攻し、本品に日付が書き込まれた翌月、すなわち1944年8月には、ノルマンディーから南進した連合国軍によって南フランスが解放され、8月25日にはパリも解放されます。戦争はまもなく終わります。ドニーズのパパは無事に戻ってきたでしょうか。ようやく平和が戻ったフランスで、幼い女の子ドニーズは、両親と祖父母、いとこのおにいさん、おねえさんたちに見守られ、優しい女性へと成長してゆくことでしょう。





 カニヴェをはじめとするフランスの小聖画は、十九世紀にはおおむねインタリオで制作されました。しかしながら 1880年代頃には多色刷り石版による小聖画が多く刷られるようになります。縁に切り紙細工のあるカニヴェは二十世紀初頭まで作られましたが、最終世代に当たる二十世紀初頭のカニヴェは、切り紙細工が無い小聖画と同様に、すべて石版で刷られています。





 インタリオから石版画への移行は版画技法の変化に過ぎませんが、二十世紀半ばになると、小聖画の社会的役割にも大きな変化が生まれます。二十世紀前半までのフランスでは、カトリック信仰が市民生活に深い影響を及ぼしていました。教会をはじめとする宗教教育の場では、子供たちの日常生活に信仰を浸透させるため、教理問答のご褒美等に小さな聖画が与えられ、祈祷書の栞(しおり)に使用されて、宗教心の涵養が目指されました。しかしながら第二次世界大戦後には社会の世俗化が急速に進み、かつて子供たちの日常生活に浸透していた小聖画は姿を消しました。二十世紀半ば以降の小聖画には、日常生活と信仰をテーマにした作品はほとんど見られなくなり、ノエル(クリスマス)や誕生日、洗礼や初聖体など、特別な機会を記念するものに限られるようになりました。

 フランスにおける聖画制作の最大手であったブアス=ルベル、ブアス=ジューヌも、フランス社会の世俗化の波に翻弄され、業績が悪化しました。1960年代に入ると、両社は操業を停止します。本品はフランス社会が本格的に世俗化しはじめた頃に刷られた聖画であり、日常の信仰生活を主題にした子供向け聖画としては最後の世代に属する作例です。






 本品は七十年以上前のフランスで制作された真正のアンティーク品ですが、古い年代にもかかわらず、保存状態は極めて良好です。破れ目や折り目、目立つ汚れなど、特筆すべき問題は何もありません。良質の中性紙に刷られているため、酸性紙のような劣化は今後も起こりません。

 下記の商品価格には、聖画、額、マット、ベルベット、工賃、税をすべて含みます。写真に写っている額は注文制作による一点物で、絵画用額縁制作に使う高級な木製棹(さお フレームの素材)を使用し、日本国内の職人が手作りしたものです。この額のサイズは 164 x 207ミリメートルです。壁掛け用金具と紐が付属していますが、縁の周囲が平坦で、33ミリメートルの奥行きがあるので、自立させても安定しています。マットに張ったベルベットのワイン・レッドはミサによって聖変化するキリストの御血の色であり、愛を象徴します。他の色やデザインの額をご希望の場合、またはご注文をいただいた時点で写真の額が在庫していない場合、お好みに合う同等クラスの他の額をご用意いたします。マットの色は追加料金無しで変更できます。なお商品写真は反射を防ぐために、ガラスまたはアクリル(プレクシグラス)を取り外して撮影しています。





18,900円 (聖画、額込み)

電話 (078-855-2502) またはメールにてご注文くださいませ。




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