アンティークアナスタシア　神戸北野町　フランスで崇敬される聖母のアンティーク小聖画　ノートル＝ダム・ド・シオン　シオンの聖母　Notre-Dame de Sion, à la basilique Notre-Dame de Sion, Saxon-Sion, Lorraine

小メダイ付聖画　「ノートル＝ダム・ドシオン」　ロレーヌの守護聖女　セルロースに小聖画を貼付　手描きの花とメッセージ

J'ai invoqué pour vous Notre-Dame de Sion

薄板のサイズ　93 x 30 mm　　突出部分を含むメダイのサイズ　13.2 x 8.5 mm

1880年代後半から20世紀初頭

　フランス東部、グラン・テスト地域圏ムルト＝エ＝モーゼル県の小村サクソン＝シオン (Saxon-Sion) のバシリカに安置されているロレーヌの守護聖女、「ノートル＝ダム・ド・シオン」（Notre-Dame de Sion　シオンの聖母）の聖画。

　古い時代のセルロース系樹脂を縦長に切った薄板の上部に、ノートル＝ダム・ド・シオンを描いたモノクロームの細密画を貼り付け、その下に青い可憐な野の花とフランス語のメッセージを手書きしています。最下部には小さなメダイが取り付けられています。

　細密画はグラヴュール（エングレーヴィング）による小聖画を写真撮影しています。聖母子は戴冠し、聖母は鳥を手に抱いています。「ノートル＝ダム・ド・シオン」が戴冠したのは1873年9月10日ですので、聖画はこれよりも新しい年代に属します。プリントの表面に凹凸がありますが、アルブミン・プリントほどの亀裂は無く、また暗部に軽度のシルヴァリングが起きていることから、ゼラチン・シルバー・プリントであることが分かります。ゼラチン・シルバー・プリントは1880年頃から普及し始め、20世紀初頭までアルブミン・プリントと併存していました。

　「ノートル＝ダム・ド・シオン」の小聖画の下には、野の花が手描きされています。花の種類は定かではありませんが、青と黄色はすみれを連想させます。百合、薔薇と並んで、すみれはマリアを象徴する花とされています。なぜならすみれは丈が低く、地表近くに這うように育つゆえに、謙譲、あるいは自己を無にする信仰の象徴であり、それゆえに、受胎告知の際、神に全てを委ねて、「お言葉どおり、この身に成りますように」(fiat mihi secundum verbum tuum.) とガブリエルに答えたマリアの信仰を表すからです。

　花の下には丁寧な手描き文字で次の言葉が書かれています。言語はフランス語です。

　　J'ai invoqué pour vous Notre-Dame de Sion.　　あなたのためにノートル＝ダム・ド・シオンに祈りました。

　「ノートル＝ダム・ド・シオン」に巡礼した人が、現地の聖母像の前であなたのために執り成しを願ってきた、あなたの願いがかなうように現地の聖母像の前で祈ってきた、との意味です。

　薄板最下部の孔にリボンを通し、戴冠した聖母子像「ノートル＝ダム・ド・シオン」のアルミニウム製小メダイを取り付けています。メダイの裏側にはフランス語で「巡礼記念」(souvenir de pèlerinage) と書かれています。

　手描き、手書きの小聖画が盛んに作られたのは、第一次世界大戦よりも以前のベル・エポック期です。またセルロース系プラスチックの産業的生産が始まり、ゼラチン・シルバー・プリントが普及し始め、金よりも高価であったアルミニウムの価格が下落したのは、いずれも1880年代です。したがって本品の制作年代は、1880年代後半から20世紀初頭頃までの間とみて間違いないでしょう。

（上・参考画像）　エマニュエル・アノー作　「メス（メッツ）を解放するマリアンヌ」　1918年のブロンズ製メダイユ　当店の商品です。

　普仏戦争（1870年）の敗戦により、フランスはプロイセンにアルザス、及びロレーヌの一部をプロイセンに割譲しました。本品が制作されたとき、ノートル＝ダム・ド・シオンのバシリカがある「シオン山」(la colline de Sion) から、わずか20キロメートルほどの地点よりも先は、プロイセン領に変わっていました。「ロレーヌの守護聖女」であるノートル＝ダム・ド・シオンに、聖画の贈り主は何を祈ったのでしょうか。

　本品は百年、あるいはそれ以上前のフランスで制作された真正のアンティーク品ですが、たいへん良好な保存状態です。特筆すべき瑕疵は一切ありません。保存上の注意点としては、決して水洗しないでください。水洗するとプラスチック部分が生八つ橋のようにぐにゃぐにゃになり、乾燥すると数分の一の面積に縮小して、元に戻りません。