下の二枚は一方の面の写真です。





下に二枚はもう一方の面の写真です。













重なり合う十字とハート 《愛のクロワ・ユグノト 36.7 x 21.0 mm》 歴史を刻むアンティーク品 大き目の作例 フランス 1920 - 30年代


自然に吊り下げたときのサイズ  36.7 x 21.0 mm  ※ マルタ十字上部に取り付けた可動式の環を除く。



 八十年ないし九十年前のフランスで制作された改革派教会の十字架、クロワ・ユグノト(ユグノー十字)のペンダント。ブロンズまたは真鍮に金張りを施した品物で、マルタ十字上部に取り付けた可動式の環にメーカーのマークがあります。





 クロワ・ユグノト上部にはマルタ十字があり、十字架の交差部及び各腕木の末端には小さな円盤が付いています。円は二次元の平面における完全図形であるゆえに、神、あるいは神のいます天上界を象徴します。このような象徴性を有する円はフランスのクロワ・ド・クゥ(仏 une croix de cou 十字架型ペンダント)において愛好され、特に末端において円形装飾が多用されます。本品をはじめとするクロワ・ユグノトもそのような意匠の一例です。

 クロワ・ユグノト上部のマルタ十字は、各腕木の先端部に二個ずつ、十字架全体で八個の玉(小円盤)が付きます。「創世記」の冒頭には神が六日間で天地を創造し給うた故事が記録されています。ヒッポのアウグスティヌスは、六日間の「六」が被造的世界の完全性を象徴すると考えました。六は数学的完全数ですが、一方で、ユダヤ教、キリスト教においては、神が休まれた日を含めた七もまたひとつのユニットあるいはサイクルを為す完全数と考えられてきました。八は七の次に来る数、新たなサイクルが始まる数であるゆえに、ユダヤ教、キリスト教において再生を象徴します。

 八は「マタイによる福音書」五章三節から十節で説かれている八つの幸福の象徴でもあります。イエスはこの説教で「神に頼る人、悲しむ人、義に飢え渇き、義のために迫害される人は幸いである」と説き給いました。クロワ・ユグノトは、ニームの金細工師が、迫害に遭っていたユグノーたちのために考案したと伝えられます。イエスがここで語り給うた言葉は、ユグノーたちの心に強く響いたに違いありません。





 クロワ・ユグノトにおいて、マルタ十字の腕木と腕木の間にはフルール・ド・リス(fleurs de lys 百合文またはアヤメ文)が置かれます。本品のフルール・ド・リスは横に引き伸ばされた形状になっています。三つの花弁を有するフルール・ド・リスは三位一体の象徴であるとともに、フランスの象徴でもあります。

 四つのフルール・ド・リスの花弁を合わせると十二枚になりますが、これは不思議のメダイにおける十二の星と同様に、十二使徒、及び十二使徒によって代表される全キリスト教徒を象徴します。さらに四つのフルール・ド・リスが形作る環は茨の冠を象ったものと見ることができ、終わり(端)の無い環形は無限にして永遠なる神の愛を表しています。本品のフルール・ド・リスは横に引き伸ばされた形状であるゆえに、これが形作る環は茨の冠にいっそう似ており、神の愛を強く表現した作例となっています。





 クロワ・ユグノトは大まかな様式が決まっていますが、各部の形状は或る程度自由であり、細部の造形は制作者の裁量に委ねられています。本品を一見してわかる特徴は、マルタ十字の穴開き部分が綺麗な心臓型(ハート型)になっていることです。

 十字架と茨の冠はいずれも至高の愛の現れです。また仲睦まじく嘴を交わす鳩は細やかな情愛の象徴であり、古典古代の地中海文明圏においてアフロディーテーの鳥とされました。キリスト教ではイエスの洗礼の故事に基づき、鳩は聖霊の象りとされます。しかるにヒッポの聖アウグスティヌスはその三位一体論において、聖霊は父と子の間に生じる愛であると論じました。それゆえキリスト教においても、鳩は愛を象徴しています。


 このようにクロワ・ユグノトにおいては、愛を形象化した幾つかの意匠(十字架、茨の冠、鳩)が重層的に組み合わされているわけですが、これに加えて本品では、マルタ十字が四つの明瞭な心臓形(ハート形)を抱いています。

 古来生命の座とされてきた心臓は、愛の座でもあります。恋人たちが左手の薬指に指輪を嵌めるのも、心臓が愛の座であるからです。すなわちヨーロッパ中世の医学では、愛の座である心臓と左手の薬指はウェーナ・アモーリス(羅 VENA AMORIS 愛の血管)によって繋がっていると考えられました。恋人の心臓は愛の座であり、独占的に守られるべき場所です。しかしながら心臓は体内にあって、箍(たが)すなわち魔法の輪を嵌めることができません。それゆえ我々は恋人の左手薬指に指輪を嵌め、愛の座を守る魔法の輪の代用としています。

 要するに綺麗なハート形をあしらった本品は、数あるクロワ・ド・クゥ(十字架型ペンダント)の中でも、愛をとりわけ強調した作例ということができます。





 鳩はノアの箱舟から放たれ、オリーヴの枝を咥えて戻ってきました。それゆえ鳩は神との平和を象徴します。これが十字架からぶら下がっているのは、キリストの受難によって神との平和が回復されたことを表します。

 共観福音書の記述によると、イエス・キリストがヨルダン川で洗礼者ヨハネから受洗し給うたとき、神の霊が「鳩のように」(マタイ 3:16 ὡσεὶ περιστερὰν マルコ 1:10 ὡς περιστερὰν)、あるいは「鳩のように目に見える姿で」(ルカ 3:22 σωματικῷ ὡς περιστερὰν)、イエスに降(くだ)りました。この故事ゆえに、鳩は聖霊の象徴でもあります。使徒パウロは「ローマの信徒への手紙」八章十五、十六節において、キリスト教徒は十字架によって聖霊を受けたのであり、聖霊によって神の子となる、と説きます。それゆえ十字架から発出する聖霊は、キリスト教信仰の証でもあります。救い主の受肉と救世も、聖霊の降臨も、神から人に一方的に与えられる恩寵(恵み)です。それゆえクロワ・ユグノトの鳩は、天から地への方向性を視覚化するように、頭を下にし、くちばしを真下に向けてぶら下げられます。





 上の写真は本品を男性店主の手に載せて撮影しています。女性が本品の実物をご覧になれば、写真で見るよりもひと回り大きなサイズに感じられます。クロワ・ユグノトは高さ三十ミリメートル前後のものが多いですが、本品は三十六ミリメートル以上の高さがあり、大きめの作例です。





 本品の金張りは突出部分が剥がれて、拡大写真では綺麗に見えません。しかしながら本品の実物は全体が金色に輝いており、たいへん美しい状態です。ルーペを使わずに肉眼で見ても、金張りの逸失には気付きません。日々愛用されたアンティーク品は十字架やメダイの可動部が摩耗して破断に至る場合がありますが、本品の可動部には破断につながる摩耗も無く、実用上も全く問題ありません。小さな鳩が揺らめくさまはたいへん可愛らしく、男女ともに日々ご愛用いただけます。下記は本体価格です。





本体価格 17,800円

電話 (078-855-2502) またはメール(procyon_cum_felibus@yahoo.co.jp)にてご注文くださいませ。




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