ヨンガー・エ・ブレッソン 《ラルジャンティエール ディアマン》 真珠母とダイヤモンド 優れたデザインのうちに生命のほとばしりを捉えた時計 直径 37ミリメートル 新品


 ヨンガー・エ・ブレッソン(Yonger & Bresson)は 1975年にパリで商標登録され、現在はフランスのアンブル社(MONTRES AMBRE S.A.)が展開する時計ブランドです。本品はアンティーク品ではなく、当店がアンブル社から直輸入した新品で、ヨンガー・エ・ブレッソンが独自に開発した自社製オートマチック・ムーヴメント、アンブルMPB 1030(AMBRE MPB 1030)を搭載しています。




(上) le château de Largentière ラルジャンティエール城 フランスの古い絵葉書から


 ヨンガー・エ・ブレッソンは自社製ムーヴメントを搭載した機種にフランスの城の名前を付けており、本品は《ラルジャンティエール》(Largentière YBD 8521-03 VS)と名付けられています。ラルジャンティエール、オック語地名ラルジャンティエラ(L'Argentèira)は南フランス、オーヴェルニュ=ローヌ=アルプ地域圏アルデシュ県にある小さな町で、十八世紀以降この名前で呼ばれています。ラルジャンティエール(ラルジャンティエラ)の原意は「銀鉱」ですが、その名の通り当地には銀を含む亜鉛と鉛の鉱床があって、中世以来採掘が行われてきました。方鉛鉱が最大3パーセント程度の銀の固溶体であることからも分かるように、銀鉱脈と亜鉛鉱脈、鉛鉱脈はしばしば連続し、銀は鉛の精錬過程で分離されます。ドゥニエ貨の原料である銀は極めて重要な資源であり、ラルジャンティエールはしばしば諸勢力の間で争奪が繰り返されました。また新大陸発見以前の時代、銀は金よりもずっと高価でした。ラルジャンティエールの現在の人口は 1600人ほどにすぎませんが、当地の城は大きく立派です。





 時計内部の機械をムーヴメントといいます。またムーヴメントを保護する金属製の容器(時計の外側)をケースといいます。本品のケースはステンレス・スティール製で、ベゼル側にはイエロー・ゴールドめっきを施し、裏蓋はステンレス・スティールのままとしています。丈夫で美しく、アレルギーも起こしにくいステンレス・スティールは、時計ケースの素材として優れています。





 ケース裏蓋はねじ込み式で、中央部分がガラス窓となっており、回転錘(かいてんすい ローター)の動作や、規則正しい天符(てんぷ)の振動を見ることができます。回転錘と裏蓋のベゼル部分には、ヨンガー・エ・ブレッソンの王冠マークが彫られており、ローター真(回転錘の軸)の末端にも王冠を模(かたど)る装飾が見られます。

 裏蓋のベゼルにはファブリケ・アン・フランス(仏 FABRIQUÉ EN FRANCE フランス製)、エタンシュ・ア・トロワ・バル(仏 ÉTANCHE À 3 BARS 三気圧防水、30メートル防水)、サフィール(仏 SAPHIR サファイア)、トゥタシエ(仏 TOUT ACIER 鋼製ケース)の文字、及び本品の品番(YBH8521)とモデル名ディアマン(仏 DIAMANT)が刻まれています。





 サフィール(サファイア)と表示されている理由は、本品の文字盤側の風防がフランス語でヴェール・サフィール(仏 VERRE SAPHIR)と呼ばれる人工のサファイアでできているからです。これは天然のサファイアと同じ物質で、モース硬度「九」と引っかきに対して非常に強く、めったなことで瑕(きず)がつきません。サファイア製風防は高価ですが、瑕がつかないのは大きな利点です。

 時計ムーヴメントの輪列(カナと歯車の列)は、大きな板状部品によって所定の位置に保持されます。文字盤を取り付ける最大の板状部品を地板、それ以外の板状部品を受けといいます。本品の地板の裏側と受けは、小さな同心円状装飾で覆い尽くされています。この装飾をフランス語でペルラージュ(仏 perlage)といいます。ペルラージュとは真珠仕上げというほどの意味で、回転するゴム製チップを受けに押し付けて製作します。ペルラージュの同心円はそれ自体が綺麗な同心円状に配列されており、熟練した時計職人の丁寧な手仕事がよくわかります。

 本品のように良質の機械式時計は、ムーヴメントの摩耗してはいけない部分にルビーを使います。上の写真に写っている赤い石がルビーです。ルビーはたいへん硬い鉱物ですので、高級時計の部品として使用されます。上の写真でルビーは一個しか見えませんが、本品のムーヴメントには三十五個のルビーが使われています。ルビーの数は十七個あれば良いとされているので、三十五個は充分すぎるほどの数です。





 時計において時刻を表示する数字や目盛りを記した板状の部品を、文字盤(もじばん)または文字板(もじいた)といいます。文字盤の周囲十二か所にある長針五分ごと、短針一時間ごとのマークを、インデックスといいます。本品の十二か所のインデックスは放射状にカットを施した金の小円盤を嵌め込み、12時のインデックスにダイヤモンド一石をセットしています。裏蓋に表示されていたモデル名ディアマン(仏 DIAMANT)は、フランス語でダイヤモンドのことです。

 本品のムーヴメント MPB1030の特徴は、アンディカトゥール・デネルジ(仏 indicateur d'énergie)、すなわちパワー・リザーヴ・インジケーター(英 power reserve indicator)を備えることです。後述するように本品は電池ではなくぜんまいで動く機械式時計で、ぜんまいを充分に巻き上げるとおよそ 40時間動作します。パワー・リザーヴ・インジケーターとはぜんまいに蓄えた動力の残量計で、ごく一部の機械式時計にのみ備わります。本品文字盤には上下にひとつづつ、合わせて二つの小文字盤がありますが、このうち上の小文字盤がぜんまいの残量計で、レゼルヴ・ド・マルシュ(仏 RÉSERVE DE MARCHE 作動残量)と書かれています。





 下の小文字盤は秒を表示するためのもので、小秒針が付いています。小秒針は一分で一周します。現代の時計は中三針(なかさんしん)式といって、時針分針と同じ位置に長い秒針を取り付けますが、1950年代以前の男性用腕時計は六時の小文字盤に小さな秒針を取り付けるのが普通でした。本品は現代に製作されたものですが、昔の時計に倣ったクラシカルなデザインで、六時の位置に小文字盤を有する小秒針式となっています。

 クォーツ式(電池式)の時計はステップ運針といって、秒針が一秒ごとに間歇的に動きます。クォーツ時計を耳に当てると、一秒ごとに秒針を動かす音がチッ、チッ、チッ…と聞こえます。これに対して本品のような機械式(ぜんまい式)時計の秒針はスイープ運針(連続運針)といって、秒針は滑らかに動きます。本品を耳に当てると、小人が鈴を振るように愛らしい音がチクタクチクタクチクタク…と聞こえてきます。





 時針と分針は先端近くに環状の装飾を有します。このような針をブレゲ針といいます。金色のブレゲ針は永遠の円環運動を繰り返す月を連想させます。

 文字盤の中ほどには王冠マークの下にヨンガー・エ・ブレッソン(Yonger et Gresson)のブランド名を流麗な筆記体で記し、その下にモデル名ディアマン(DIAMANT)を入れています。その反対側にはオトマティーク(仏 AUTOMATIQUE 自動巻)の表記があります。

 現代の時計は電池で動くクォーツ式が普通です。しかしながらクォーツ式時計は 1970年代以降に出現した品物で、それよりも以前の時計は電池ではなくぜんまいの力で動いていました、ぜんまいの力で動く時計を機械式時計、英語でメカニカル・ウォッチ(英 a mechanical watch)、フランス語でモントル・メカニーク(仏 une montre mécanique)といいます。本品は現代の品物ですが、珍しいことにクォーツ式ではなく、ぜんまいの力で動くモントル・メカニーク(機械式時計)です。

 機械式時計には手巻式と自動巻式があります。時間を計る仕組みはどちらもまったく同じですが、自動巻きは回転錘(かいてんすい)という自由に動く錘(おもり)をムーヴメントに取り付け、その動きによってぜんまいが自動的に巻き上がるように工夫されています。本品はモントル・ア・ルモンタージュ・オトマティーク(仏 une montre à remontage automatique)、すなわち自動巻時計です。





 機械式時計の基本は振り子式のクロックです。振り子式クロックで最も重要な部品は振り子であり、振り子こそが時計の本体です。しかるに懐中時計や腕時計に振り子を取り付けることはできません。振り子は傾けると止まってしまうからです。そこで振り子と同様に等時性を有し、傾けても止まらない振動子が研究されました。こうして生まれたのが天符(てんぷ)です。天符はひげぜんまいの等時性に基づき、きわめて正確な周波数で振動します。ひげぜんまいの等時性を見出したのはロバート・フック(Robert Hooke, 1635 - 1703)、携帯用天符時計を初めて作ったのはクリスティアーン・ホイヘンス(Christiaan Huygens, 1629 - 1695)です。

 上の写真でムーヴメントの右上部分に写っている金色の輪が天符です。本品が搭載するムーヴメント MPB1030の天符は一時間あたり二万八千八百回の振動を正確に繰り返し、時を測ります。本品を耳に当てて聞こえるチクタクという音は、天符に制御された脱進機のアンクル入り爪が、ガンギ車の衝撃面にぶつかる音です。十七世紀に誕生してから現在に至るまでの四百年間、機械式時計は全く同じ仕組みで動いています。





 ぜんまいを巻いたり時刻を合わせたりする際のツマミを、竜頭(りゅうず)といいます。三時の位置から突出するツマミが、竜頭です。玉ねぎ型の竜頭は懐中時計の時代によく見られたデザインで、本品にクラシカルな表情を添えています。竜頭には青色ガラスの装飾が付いています。

 竜頭は現代のクォーツ式(電池式)時計にも付いていますが、電池を入れ替えたとき以外、滅多に触ることがありません。クォーツ式時計の竜頭は操作し易く作る必要がないのでサイズが小さく、竜頭から機械内部に延びる心棒(竜真)もごく細いものとなっています。これに対して機械式時計の竜頭は操作しやすいように大きく作られており、竜真も太くて耐久性があります。本品は自動巻きですが、腕をあまり動かさないと、ぜんまいの巻き上げが不足することがあります。またぜんまいが完全に巻き戻って停止した時計を再び動かすには、最初にぜんまいを手動で巻く必要があります。そのような場合に備えて、本品は手巻きも可能になっています。竜頭は大きめで快適に操作できます。ぜんまいを巻くのはとても簡単で、誰にでもできることですので、初めての方でも心配は無用です。

 なお自動巻の時計を常に回転させてぜんまいを巻き続ける装置が市販されていますが、使おうと思ったときに時計が止まっていても、ぜんまいを手動で巻き上げれば良いだけですから、あのような機械は不要です。時計を常に作動させていないと機械が傷むということもありません。しばらく使わない場合は、動かさずにしまっておいて構いません。クォーツ式時計を長期間放置すると電池の液漏れで故障することがありますが、機械式時計にはそもそも電池が入っていないので、液漏れによる故障もあり得ません。機械式時計は予想以上に使い易く、初めての方でも快適にご愛用いただけます。









 本品のバンドは革製で、ディプロイアント式(折り畳み式)尾錠が付いています。尾錠にはヨンガー・エ・ブレッソンのマークとロゴ、ファブリケ・アン・フランス(フランス製)、トゥタシエ(ステンレス・スティール製)の文字が刻まれています。ディプロイアント式尾錠はベルトの穴の位置を変えることにより、サイズを自由に調整できます。バンド幅は 18ミリメートルで、お好みにより他の色、他の素材の汎用バンドに変更することも可能です。バンドが傷んだ場合も簡単に取り替え可能ですのでご安心ください。またディプロイアント式尾錠が好みに合わない場合は、よりシンプルな汎用尾錠にも取り替えできます。





 本品の文字盤はフランス語でナークル(仏 nacre)と呼ばれる真珠母(しんじゅも、マザー・オヴ・パール)でできています。真珠母が放つ多色の輝きはデジタルカメラで捉えるのが難しく、黒を背景に商品写真を撮ると平板な白にしか写りません。上下の写真は白を背景に撮影しましたが、実物の文字盤は写真よりもはるかに美しく、お買い上げいただいた方に必ずご満足いただけます。

 環状装飾のあるブレゲ針と相俟って、金に囲まれた真珠母の文字盤が白い輝きを放つさまは、夜空に煌々と輝く月を思わせます。ルーマニア出身の宗教学者でシカゴ大学神学部教授を務めたミルチャ・エリアーデ(Mircea Eliade 1907 - 1986)は、ブカレスト大学での講義を基にした「宗教史論」("Traité d'histoire des religions", 1949)において、月が人間の女性をはじめあらゆる生命にリズムを与える多産性の源であると論じ、さらに月と水、螺旋が等しい象徴性を有すると論じています。それゆえ真珠母の文字盤が月に見えても不思議はないし、針が永遠に回転を続ける時計を飾るのに、真珠母でできた月はこの上なくふさわしい装飾であるといえます。本品において、美しい輝きを放つ真珠母の文字盤は、永遠に再生し続ける生命の神秘的象徴となっています。





 本品はもうひとつ、ディアマン(ダイヤモンド)の象徴性が加わります。本品のモデル名はディアマンで、金の台座にダイヤモンドを嵌め込んでいます。筆者(広川)は金の中で輝くダイヤモンドを見て、大プリニウス「博物誌」第三十七巻十八節及び十九節の記述を思い起こします。ここで大プリニウスは「あちこちの鉱山でごく稀に見つかる金の節の如き鉱物は、アダマースと呼ばれた。この鉱物は金の仲間であって、金の中でしか生まれないと思われていた。」(羅 ita appellabatur auri nodus in metallis repertus perquam raro, comes auri, nec nisi in auro nasci videbatur.)と書いています。 ダイヤモンドの母岩は地殻の深層から時速100キロメートルを超える速度で噴出したキンバライト及びエクロジャイトですが、このことは十九世紀後半になるまで知られず、それ以前に見つかっていたのはすべて漂砂鉱床でした。大プリニウスがダイヤモンドを金の節(羅 auri nodus)、すなわち金が硬くなった部分と考えたのも、ダイヤモンドが砂金の漂砂鉱床で見つかることによるのでしょう。

 フランス語ディアマンはラテン語アダマース(羅 ADAMAS, ANTIS, m.)に由来し、ラテン語アダマースはギリシア語のアダマスを借用したものです。ギリシア語アダマス(希 ἀδάμας, ἀδᾰ́μᾰντος, ὁ)は、動詞ダマゾー(羅 δαμάζω)あるいはその別形ダムナオー(希 δαμνάω)の語根に、否定の接頭辞ア(希 ἀ-)が付いた形に由来します。しかるに動詞ダマゾー、ダムナオーは、(動物が)飼い馴らされる、(娘が結婚して)夫のものになるという意味、さらに一般化して、征服される、支配に服する、という意味です。したがってアダマス、アダマースは「支配に屈しない」「何物にも負けない」という意味で、ギリシア語においてもラテン語においても最も硬い物質を指します。

 ダイヤモンドは卓越した硬さゆえに不変性の象徴とされ、しばしば世界軸(羅 AXIS MUNDI)を作る物質と見做されました。仏教においてダイヤモンド(ヴァジラ、金剛)の輝きは蒙を啓き悟りをもたらす雷光に譬えられ、あるいは悟りそのものを象徴します。ブッダガヤのマハーボーディ寺(大菩提寺)で発掘された玉座は砂岩でできていますが、これに座するブッダの悟りがダイヤモンドに譬えられるゆえに、ヴァジラ―サナ(vajrāsana ダイヤモンドの玉座)と呼ばれています。ダイヤモンドの硬さは何物にも破壊されえない真理を象徴するとともに、煩悩を断ち切る武器の威力にも譬えられます。それゆえ密教の法具である金剛杵(こんごうしょ)も、サンスクリット語ではヴァジラと呼ばれます。

 プラトンは「国家」の結末部分で、エール(希 Ἤρ)という名の戦士の臨死体験について語っています。プラトンによると、死後の世界ではアナンケー(希 Ἀνάγκη 必然、およびそれを神格化した女神)の紡錘が天球を支えていましたが、紡錘の「軸と鈎はアダマス製」(希 οὗ τὴν μὲν ἠλακάτην τε καὶ τὸ ἄγκιστρον εἶναι ἐξ ἀδάμαντος 616C4)でした。このアダマスとは、おそらくダイヤモンドを指すと考えられます。







 本品のケースは直径 37ミリメートルで、同じムーヴメントのシャンボールよりも一回り小さく、男女ともにお使いいただけます。シャンボールと同様にケース側面とベゼルが上品なカーヴを描き、シャツの袖と見苦しくぶつかることもありません。真珠母でできた文字盤の上を四本の金の針が動くさまは、実用される時計のドレッシーさに工芸品の美しさが加わって日々の時間に非日常の潤いを与えてくれます。

 不変の物理法則と不変の化学法則は、変化に満ちたこの世界を生み出しました。フランスの哲学者アンリ・ベルクソン(Henri-Louis Bergson, 1859 - 1941)は、生物進化のうちに機械論を超えた生命力のほとばしりを見出し、これをエラン・ヴィタル(仏 élan vital 生の跳躍)と名付けました。日々姿を変える月と不変の宝石ダイヤモンドを組み合わせた本品《ラルジャンティエール ディアマン》は、あたかも波乗りをするように物理法則に従う精密機械でありつつも、変化と不変性が綯い交ぜ(ないまぜ)になったこの宇宙と、そこに内在する生命力の迸(ほとばし)りを、卓越したデザインに視覚化しています。

 当店の時計は現金一括払い、ご来店時のクレジットカード払いのほか、現金の分割払い(金利手数料無料)でもご購入いただけます。当店ではお客様のご希望に出来る限り柔軟に対応しております。遠慮なくご相談くださいませ。





109,470円 税込み

電話 (078-855-2502) またはメール(procyon_cum_felibus@yahoo.co.jp)にてご注文くださいませ。




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