非常に硬い鉱物(アダマース)について ― 大プリニウス「博物誌」 第三十七巻十八節及び十九節
ADAMAS dans "L'Histoire naturelle", liber XXXVII, capites 18 et 19, par Pline l'Ancien




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 ダイヤモンドをはじめとする硬い物質を、ローマ人はラテン語でアダマース(羅 ADAMĀS)と総称しました。この語はギリシア語アダマス(希 ἀδάμας, ἀδάμαντος, ὁ)をそのままラテン語に移入したものです。ギリシア語アダマス、ラテン語アダマースは近代語ダイヤモンド、ディアマン等の語源ですが、ダイヤモンドと同じ意味ではなく、様々な硬い鉱物を意味します。

 ギリシア語アダマスは、動詞ダマゾー(羅 δαμάζω)あるいはその別形ダムナオー(希 δαμνάω)の語根に、否定の接頭辞ア(希 ἀ-)が付いた形に由来します。しかるに動詞ダマゾー、ダムナオーは、(動物が)飼い馴らされる、(娘が結婚して)夫のものになるという意味、さらに一般化して、征服される、支配に服する、という意味です。したがってアダマス、アダマースは「支配に屈しない」「何物にも負けない」という意味で、ギリシア語においてもラテン語においても、当時知られた最も硬い金属である鋼鉄、あるいはクォーツ、エメリー(英 emery 金剛砂 註1)、ダイヤモンドなどを指します。




(上) ブラック・ダイヤモンド 合計 1.14カラット 当店の商品


 古代ローマの博物学者大プリニウス(Gaius Plinius Secundus, 23 - 79)は、「博物誌」(NATURALIS HISTORIA)第三十七巻で鉱物について論じ、同巻十八節及び十九節はアダマースに関する記述となっています。「博物誌」 第三十七巻十八節及び十九節の原テキストを、全訳を付して示します。ラテン語テキストはマイホフ版、日本語訳は筆者(広川)によります。訳文の意味を通じやすくするために補った語は、ブラケット [ ] で囲んで示しました。小見出しは原テキストに無く、広川が付けました。


     ■ アダマースは金の中で見つかる    
      maximum in rebus humanis, non solum inter gemmas, pretium habet adamas, diu non nisi regibus et iis admodum paucis cognitus. ita appellabatur auri nodus in metallis repertus perquam raro, comes auri, nec nisi in auro nasci videbatur.
    諸々の宝石の間においてのみならず、人に関わる事物のうちで、アダマースは最大の価値を有する。アダマースは長いあいだ王たちにのみ、それもせいぜい少数の王たちにのみ知られてきた、あちこちの鉱山でごく稀に見つかる金の節[とも言うべき鉱物]も、この名前で呼ばれた。[金の節のようなこの鉱物は]金の仲間であって、金の中でしか生まれないと思われていた(註2)。
     veteres eum in Æthiopum metallis tantum inveniri existimavere inter delubrum mercuri et insulam Meroen, dixeruntque non ampliorem cucumis semine aut colore dissimilem inveniri.    古(いにしえ)の人々は、メルクリウスの神殿とメロエ(註3)の島の間にあるエチオピア人たちの鉱山でのみ、アダマースが見出されると考え、また[アダマースは]きゅうりの種に比べると大きくなく、色に関しても異なって見出されると言った。
         
     ■ インドおよびアラビア産アダマースの形態と色、及び産出の様態    
      nunc primum genera eius sex noscuntur: indici non in auro nascentis et quadam crystalli cognatione, siquidem et colore tralucido non differt et laterum sexangulo levore, turbinati in mucronem e duabus contrariis partibus, quo magis miremur, ut si duo turbines latissimis partibus iungantur, magnitudine vero etiam abellani nuclei.
    まず初めに、現在、六種類のアダマースが知られている。インド産アダマースは金のうちに生まれる類とは異なっていて、水晶と共通する性質を有する(註4)。すなわち透明な色において異ならず、六つの滑らかな側面を有し(註5)、両側の先端が鋭く尖っている(註6)。我々がさらに驚くことに、まるで二つの錐が最も幅広い部分で結合されたかのようである。しかも大きさに関しては、ハシバミの実の[大きさ]なのだ(註7)。
     similis est huic arabius, minor tantum, similiter et nascens. ceteris pallor argenti et in auro non nisi excellentissimo natalis.    アラビア産アダマースはこれに似ており、同様[の地形]に産出するが、[サイズ]だけが小さい(註8)。銀のように青白いアダマースもあって(註9)、最上の金のうちにしか産しない。(註10)
         
     ■ インドおよびアラビア産アダマースの硬さと不燃性、名前の由来    
      incudibus hi deprehenduntur ita respuentes ictus, ut ferrum utrimque dissultet, incudes ipsae etiam exiliant. quippe duritia est inenarrabilis,
    インド及びアラビアのアダマースは、鉄床(かなとこ)を用いて鑑別される。[すなわちこれらのアダマースは]鎚で叩いても割れず、却って鎚と鉄床が割れるのだ。鉄床自体が跳ね上がる[ほど強い打撃である]が、[アダマースは割れない](註11)。アダマースの硬さは、確かに、言葉で表せない。
      simulque ignium victrix natura et numquam incalescens, unde et nomen interpretatione graeca indomita vis accepit.    それとともに、アダマースはその本性において諸々の火に勝り、決して燃えない。訳するとギリシア語の「支配されざる力」という名前も、[アダマースは]ここから受けたのだ。
         
     ■ ケンクロス、およびピリッポイ産アダマース    
     unum ex iis vocant cenchron, milii magnitudine, alterum macedonium, in philippico auro repertum; hic est cucumis semini par.     諸々のアダマースのうち、ひとつをケンクロス(註12)と呼ぶ。[ケンクロスは]キビの大きさである。他のアダマースはマケドニア産で、ピリッポイ(註13)の金のうちに見出される。これはきゅうりの種に等しい[大きさである]。
         
     ■ キプリウス(キプロス産の鉱物)    
     post hos cyprius vocatur in Cypro repertus, vergens ad aereum colorem, sed medica vi, de qua dicemus, efficacissimus.    これに続いて、キプロスで見つかるものはキプリウスと呼ばれ、金色がかっている。後に述べる医薬的な力ゆえに、[諸々のアダマースのうちで、]キプリウスは働きが最も優れている。
         
     ■ シデーリテース    
     post hunc siderites ferrei splendoris, pondere ante ceteros, sed natura dissimilis. namque et ictibus frangi et alio adamante perforari potest, quod et cyprio evenit, breviterque ut degeneres nominis tantum auctoritatem habent.    次は、鉄のような輝きのシデーリテース(註14)である。シデーリテースは他の諸々のアダマースより重く、本性も異なる。というのもシデーリテースは叩けば割れるし、他の[種類の]アダマースで穿孔され得るのだ。これはキプリウスにも起こることである。手短に言えば、[キプリウスとシデーリテースは]価値が低く、アダマースと呼ぶに値しない(註15)。
         
     ■ 事物間のディスコルディア(反発)とコンコルディア(親和)について    
      nunc quod totis voluminibus his docere conati sumus de discordia rerum concordiaque, quam antipathian graeci vocavere ac sympathian, non aliter clarius intellegi potest,     さて、諸々の事物が有する反発及び親和について ― ギリシア人たちはこれをアンティパティア或いはシュンパティアと呼んだのだが ― 我々がこれら全ての巻を費やして示そうと努めてきた事柄は、次の事実によって最も明瞭に理解され得る(註16)。
     siquidem illa invicta vis, duarum violentissimarum naturae rerum ferri igniumque contemptrix, hircino rumpitur sanguine, neque aliter quam recenti calidoque macerata et sic quoque multis ictibus, tunc etiam praeterquam eximias incudes malleosque ferreos frangens.    すなわち何物にも服さざるかの力は、自然が生んだ最も威力ある二物、すなわち鉄と諸々の火を物ともしないのであるが、実に山羊の血によって破壊されるのである。[かの力は]他ならぬ新しく熱い血によってのみ弱められ、[アダマースは]その場合に多数回の打撃によって[破壊されるのだ](註17)。しかしその場合であっても、[アダマースは]ある種の鉄床と鉄の鎚を破砕してしまう。(註18)
         
     ■ この事実の発見は、ナートゥーラの意志による    
      cuius hoc invento quove casu repertum aut quae fuit coniectura experiendi rem inmensi pretii in foedissimo animalium numinum,     [山羊の血がアダマースの力を弱めるという]この事実は、誰の気付いたことによって、あるいは如何なる偶然によって、見出されたのであろうか(註19)。あるいは測り知れない価値がある物(アダマース)を、神々の[創り給うた]諸々の動物のうち最も忌むべきもの(山羊)で試そうという判断は、何に基づいて為されたのであろうか(註20)。
     profecto talis inventio est et hoc munus omne, nec quaerenda ratio in ulla parte naturae, sed voluntas!    かかる知見が得られたのは、全く恩恵によるのである。このような恩恵が与えられた理由は、ナートゥーラにこの発見をもたらす責務があったわけではない。ナートゥーラは自ら望んでこの恩恵を与えてくれたのだ(註21)。
         
     ■ アダマースの細粒は最も強力な研磨剤である    
      cum feliciter contigit rumpere, in tam parvas friatur crustas, ut cerni vix possint. expetuntur hae scalptoribus ferroque includuntur, nullam non duritiam ex facili cavantes.     幸運にも割る[ことを得た]場合、[アダマースは]たいへん微小な粒に砕けるので、ほとんど識別され得ないぐらいである。これらの粒は彫刻家たちから熱心に求められる。[アダマースの粒は]鉄の道具に取り付けられ、どのような硬い物にでも容易に穴を開ける(註22)。
         
     ■ アダマースと磁石の間のディスコルディア    
      adamas dissidet cum magnete in tantum, ut iuxta positus ferrum non patiatur abstrahi aut, si admotus magnes adprehenderit, rapiat atque auferat.     アダマースは磁石と相反するので、アダマースを磁石のそばに置くと、磁石は鉄を引き寄せられなくなる(註23)。あるいは磁石が鉄に近づいて、鉄を既に捕らえている場合、[アダマースを近づけると磁石は鉄を]放し、跳ね飛ばしてしまう(註24)。
         
      ■ 医薬としてのアダマース    
      adamas et venena vincit atque inrita facit et lymphationes abigit metusque vanos expellit a mente. ob id quidam eum ananciten vocavere.     さらにアダマースは毒に打ち勝ち、あるいは無効にし、狂気を追い払い、実体の無い恐れを精神から追い払う。そのためアダマースはアナンキーテスとも呼ばれたのである。(註25)
         
     ■ ゲルマニア及びバシリア島に産するアダマース    
      Metrodorus Scepsius in eadem Germania, Basilia insula nasci, in qua et sucinum, solus, quod equidem legerim, dicit et praefert arabicis. quod esse falsum quis dubitet.     私自身がこれまでに[情報を]集めたところでは、スケプシスのメートロドーロスだけが、ゲルマニアでも、[また]琥珀も採れるバシリア島でも、[アダマースが]産出されると言い(註26)、[その地のアダマースを]アラビア産のものよりも高く評価している。これが偽りであると、誰が疑念を持つであろうか。



 プリニウスは引用箇所の冒頭において、アダマースが「最大の価値を有する」(maximum pretium habet)と書いています。しかしながらプリニウスが言っているのはダイヤモンドが高価であるということではなく、アダマースが最も硬い物質であるという意味、及び優れた実用性を有するという意味です。

 二十一世紀の我々は、ガラス光沢を有する宝石に、ほぼ必ずファセット・カットを施します。宝石は色も美しいですが、我々は宝石の色を楽しむ以上にその輝きを愛でているのです。最もわかりやすい例は無色のダイヤモンドの場合で、我々がこの宝石に求めるのは色ではなく、輝きのみです。しかるに古代から中世までの時代、人々が宝石に求めたのは輝きではなく、色でした。それゆえに透明な宝石であってもすべてカボション・カットを施されましたし、カルセドニーやアゲート、ジェダイトのような潜晶質の宝石も、透明宝石と同等か時にはそれ以上に珍重されました。

 色が宝石を評価する唯一の基準であった時代、無色透明のダイヤモンドは美しいと思われませんでした。ダイヤモンドは他の宝石に比べて分散度が高く(0.044)、理想の角度にファセット・カットすれば驚くべきファイア(強烈な七色の光)を放ちます。しかしながらダイヤモンドは硬すぎてカットできませんでしたし、理想の角度についても知られていませんでした。ダイヤモンドのカット(研磨)が成功したのはようやく十七世紀のことです。

 古代ローマでも宝石は珍重されていました。しかし古代人が言う宝石の中に、ダイヤモンドは含まれていません。「ナートゥーラーリス・ヒストリア」三十七巻では色とりどりの宝石についても論じられますが、アダマースに限って言えば美しさは全く度外視されています。アダマースと呼ばれる各種鉱物に古代人が注目した理由は、卓越した硬さに対する博物学的関心、山羊の血及び磁石とのディスコルディアに対する博物学的関心、研磨剤及び医薬としての実用性のみによります。「アダマースが最大の価値を持つ」とプリニウスが言うのは、この名で呼ばれる各種鉱物の硬さと実用性を評価しているのです。


註1 エメリー(金剛砂)とは、ガーネットをはじめとする硬い鉱物(モース硬度七から九)が、砂状になったもの。古来研磨剤として使われている。

註2 この部分でプリニウスは「金の節」(羅 auri nodus)、すなわち金鉱石または自然金の中に見出される塊を、アダマースとして記述している。これが何の鉱物のことであるのかは明確でない。ダイヤモンドが金とともに採取されるという事実は無いから、「金の節」は他の金属の結晶、あるいは金剛砂のような鉱物を指しているのかもしれない。

註3 メロエー(希 Μερόη 仏 Méroé 英 Meroë)はナイル川中流域右岸に栄えた黒人の都市。現在のスーダン北東部に位置する。

註4 この部分は省略が多くて分かりづらいが、次のように語を補って解釈した。直訳すると、「インド産アダマースの類は、金のうちに生まれる類には属さず、水晶に属する何らかのコーグナーティオー(cognatio 共通する性質)において在る。」

 indici [adamantis genus] non in auro nascentis [generis,] et [in] quadam crystalli cognatione [est]

 または indici [adamantes] non in auro nascentis [generis,] et [in] quadam crystalli cognatione [sunt] とも読める。

 ラテン語クリスタッルム(羅 crystallum)は、氷、ガラス、無色透明の水晶、外見がそれらに似る鉱物を指す。古代ギリシア人たちはオリュンポス山の水晶を、神々が水をあまりにも硬く凍らせたものと考えて、クリュスタルロス(希 κρύσταλλος, ὁ)と呼んだ。クリュスタルロスはクリュオス(希 κρύος, εος, τό 寒気、霜)と同根。

註5 laterum sexangulo levore  直訳 六角の滑らかさにおける側面に関わる

 lēvor, lēvōris, adj. 平滑さ、滑らかさ

註6 turbinati in mucronem e duabus contrariis partibus  直訳 [インド産アダマースは]互いに反対側にある部分から、先端が鋭く尖っている。

 turbo, binis, m. 旋風、竜巻、独楽

 turbinātus, adj. 先端が尖った

 mūcrō, ōnis, m. 切先、刃、剣

 この部分の記述によると、インド産アダマースは二個の六角錐を底面同士で合わせた形状をしている。水晶にはこのような形状のものがある。ダイヤモンドの理想的な結晶は正八面体で、これは二個の四角錐を底面同士で合わせた形状である。

註7 アベッラ(羅 Abella 現 Avella)はイタリア南部カンパニアの町。果実や堅果が豊富であり、特に極上のハシバミを産することで知られた。

 Abellāna/Avellāna/Abellina, f. (i. e. nux) セイヨウハシバミ(Corylus avellana)、ムラサキセイヨウハシバミ(Corylus maxima)などの実。アベジャナ(西 avellana)、アヴリーヌ(仏 aveline)、ノワゼット(仏 aveline)、ヘーゼルナッツ(英 hazelnut)。

 nux nucis, f. クルミ

 nucleus, i, m. 小さな堅果 ※ nux の縮小形。

註8 minor tantum, similiter et nascens  直訳 小さいだけで、同じように算出する。

註9 ceteris [adamantibus] pallor argenti [est.]  直訳 他の諸々のアダマースには、銀の蒼白さがある。

註10 プリニウスによると、アラビア産アダマースはインド産のものと同様の形状、すなわち二個の六角錐を底面同士で合わせた形である。それゆえここで言及されているインドとアラビアの透明なアダマースは、いずれも水晶であろう。なおインドにはダイヤモンドも産出する。アラビア半島でダイヤモンドは採れないが、無色透明のクォーツは豊富に産出し、デザート・ダイヤモンド(英 desert diamonds 砂漠のダイヤモンド)と呼ばれている。

註11 incudibus hi deprehenduntur ita respuentes ictus, ut ferrum utrimque dissultet, incudes ipsae etiam exiliant.  直訳 [鎚での]打撃を次のように退けつつ、鉄床によって見い出される。すなわち鉄は両側から割れ、さらに鉄床自体も跳ね上がる。

 incūdō, ere, cūdī, cūsum, v. a. 鎚で叩いて作る

 incūs, cūdis, f. 鉄床

 dēprehendō v.a. 捕らえる、探し当てる

 respuō, ere, spuī, v.a. 吐き返す、退ける、拒否する

 īcō, ere, īcī, ictum, v.a. 打つ、打ち当てる

 ictus, ūs, m. 打撃、攻撃

 utrimque, adv. 両側から

 dissiliō, v. n. 破裂する

 dissultō, v. freq. n. 破裂する、割れる

 exīliō = exsīliō, īre, siluī, sultum, v. n. 跳び出る、跳ね上がる

 クォーツはプリニウスがここで言及しているほど硬くない。「ナートゥーラーリス・ヒストリア」は古今東西の文献を引用して書かれているが、その内容は実証的ではない。プリニウス自身は実験家でなかったことが、このような記述に窺える。ちなみにモース硬度10のダイヤモンドは硬い宝石として有名だが、モース硬度はひっかき硬度であって、衝撃に対する強さ(靭性の大きさ)を示すものではない。ダイヤモンドもハンマーで叩けば割れる。

註12 κέγχρος, ὁ キビ(黍) 羅 milium 学名 Panicum miliacenum

註13 ピリッポイ(希 Φἱλιπποι)はギリシア北東部、東マケドニア地域の都市。パウロ書簡「フィリピ人への手紙」は、この地の信徒に宛てられている。

註14 シデーリテース(希 σιδηρίτης, ου, ὁ)またはシデーリーティス(希 σιδηρῖτις, ιδος, fem.)は、シデーロス(希 σίδηρος, ὁ, ἡ 鉄)に由来する。ギリシア語シデーロスの本来の意味は「融けた鉄」で、サンスクリット語スヴィド(svid 汗をかく、融ける)、ラテン語シードゥス(羅 sīdus 星、星座)、スードー(羅 sūdō 汗をかく)と同根である。なお「ナートゥーラーリス・ヒストリア」三十六巻では、同じ名前の鉱物が磁石として言及されている。

註15 ut degeneres nominis tantum auctoritatem habent.  直訳 [キプリウスとシデーリテースは]価値が低いものとして、名称の威厳のみを有する。

註16 non aliter clarius intellegi potest,  直訳 他の方法では、[次の方法によるよりも]一層明瞭に理解され得ない。

註17 "[vi] ... macerata" を絶対的奪格の句と解した。すなわち neque aliter quam recenti calidoque [sanguine] macerata [vi,] et sic [adamas] quoque multis ictibus [rumpitur]

 macer, cra, crum, adj. 痩せた、貧弱な

 mācerō, v.a. 脆くする、柔らかくする、弱める、使い果たす、尽きさせる

註18 tunc etiam praeterquam eximias incudes malleosque ferreos frangens  直訳 その場合でも例外的な鉄床と鉄の鎚を破砕するのを除いて

 praeterquam、adv. 除いて、他に

 praeterquam quod ... ...を除いて、...の場合は例外として

 eximō, ere, ēmī, emptum, v.a. 取り出す、取り除く、分離する

 eximius, a, um, adj. 除かれた、非常な、格別の

註19 すなわち cuius invento aut quo casu hoc repertum [est ?]  直訳 誰の見出した事柄によって、あるいは如何なる偶発事によって、このことが発見されたのであろうか。

 quove = aut quo

 reperiō, īre, repperī, repertum, v.a. 発見する、探求して得る、経験する、実証する、獲得する、案出する

註20 quae fuit coniectura experiendi rem inmensi pretii in foedissimo animalium numinum [?]  直訳 測れない価値の物を、神々の[創り給うた]諸々の動物のうち最も忌むべきもの[の血]で試すということの判断は、どのようなものであったのか。

 conjectūra, f. 推論、推測、解釈、判断

註21 profecto talis inventio est et hoc munus omne, nec quaerenda ratio in ulla parte naturae, sed voluntas!  直訳 確かに、この全ての恩恵が、かかる発見なのであって、求められるべき理由はナートゥーラの如何なる責務でもはなく、[その]意志である。

 profectō, adv. 本当に、確かに

註22 nullus non 各人、どれもみな、何でもみな

 in/ex/e facili, adv. 容易に

註23 iuxta positus ferrum non patiatur abstrahi  直訳 [磁石の]そばに置かれた[アダマース]は、鉄が[磁石に]引き寄せられるのを許さない。

 patior, tī, passus sum, v. dep. 苦しむ、耐える、許容する、容れる

註24 si admotus magnes adprehenderit, rapiat atque auferat.  直訳 [鉄へと]動かされた磁石が[鉄を]既に捕らえている場合、[アダマースは磁石から鉄を]奪って遠ざける。

 magnes, magnētis, m. マグネシア産の石、すなわち磁石 (= magnes lapis)

註25 ananchītes, ae, m. (Gr. ἀν + ἄγχω to free from distress) ※ この語はプリニウスのこの箇所でしか見つからない。

註26 すなわち Metrodorus Scepsius solus dicit, in eadem Germania, [et] Basilia insula, in qua et sucinum [nascitur], [adamantem] nasci, quod equidem legerim.

 上でゲルマニアとバシリアの間に "et" を補ったが、もしかするとプリニウスはバシリアをゲルマニアの島と考えているのかも知れない。そうであれば "et" は要らない。

 スケプシスのメートロドーロス(羅 Metrodorus Scepsius 希 Μητρόδωρος ὁ Σκήψιος, c. 145 B.C. – 70 B.C.)は恐るべき記憶力の持ち主で、膨大な量の書物を一字一句違えず正確に引用できたと伝えられる。

 Basilia = Balcia/Baltia according to Xenophon of Lampsacus, a large island three days' sail from the coast of Scythia

 ※ 蛇足であるが、ヴァレンティニアヌス一世に因んでスイスのバーゼルがバシリア(希 βασιλεία 王の都)と名付けられたのは、374年のことである。プリニウスが言うバシリアは、バルト海に浮かぶとされた島の名前である。バーゼルとは関係ない。

 equidem, adv. 私自身としては (= ego quidem)



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