ジョルジュ・ルメール及びエミール・ランドエ作 東欧戦線のブロンズ製勲章


上部の吊り下げ金具を含む全体の高さ 51.1 mm

メダイユの直径 29.6 mm


フランス  1926年



 第一次世界大戦の東欧・マケドニア戦線で戦功のあった軍人に対し、戦後になってフランス政府から贈られた勲章。ふたりのメダイユ彫刻家による共作です。

 1918年当時、マケドニアではデスペレ将軍 (Louis Felix Marie Francois Franchet d'Esperey, 1856 - 1942) が率いる連合国の部隊が、中央同盟国に属するドイツとブルガリアに対峙していましたが、同年9月15日から29日の戦闘で、ギリシア軍9個師団、フランス軍6個師団、セルビア軍6個師団、イギリス軍4個師団、イタリア軍1個師団の連合が中央同盟国側を撃破して、9月29日にブルガリアを降伏させました。

 その後、デスペレ将軍の連合国軍は破竹の勢いで進撃し、セルビアをはじめとするバルカン半島を勢力下におさめた後、ルーマニアを奪回し、ダニューブ河を越えてオーストリア=ハンガリー帝国に到達しました。その結果、西部戦線における同年11月11日の休戦成立に先だって、10月30日にトルコ、11月4日にオーストリア=ハンガリー帝国が降伏しています。




 この勲章の本体は円形のブロンズ製メダイユで、表(おもて)面にはフランスを擬人化した女性像が浮き彫りにされ、その周囲を「レピュブリーク・フランセーズ」(République Française フランス共和国)の文字が取り巻いています。フランスという国名も、レピュブリーク(共和国)という言葉も、ともに女性名詞ですから、この浮き彫りにおいても、フランス共和国は美と生命力あふれる若い女性マリアンヌとして図像化されています。マリアンヌはボネ・フリジアン(フリジア帽)の代わりに、「カスク・アドリアン」(le casque Adrian) と呼ばれるフランス軍のヘルメットを被った勇ましい姿です。兜に飾られているシェーヌ(ナラ)の冠は「コロナ・キーヴィカ」と呼ばれるもので、力と勇気、及び癒しと回復の象徴です。

 高名なメダイユ彫刻家、ジョルジュ・ルメール (Georges Lemaire, 1853 - 1914) の署名が、画面左下に刻まれています。このメダイユが制作されたのは 1926年6月15日で、ルメールはこの時点で既に没していますが、ルメールの手による美しいマリアンヌ像は、作家の生前から引き続いてフランス共和国の勲章を飾り続け、この勲章にも採用されています。

 メダイユを吊り下げている上部の金具は、下端が逆三角形になった勲章用のリボンに接続するための部分で、植物の枝と弦月を組み合わせた形です。フランスの勲章や戦勝記念のメダイユにおいて、シェーヌとともにオリーヴのモティーフがよく用いられるので、この金具の植物もおそらくオリーヴであろうと思いますが、月桂樹(ローリエ、ローレル)の枝を象(かたど)っているようにも見えます。

 オリーヴはノアの大洪水後、箱舟から放たれたハトがくわえて戻った植物であり、平和を象徴するとともに、栄光と豊かさをも表し、勝者に与えられる冠に使われました。月桂樹はデルフォイで開かれたアポロンの祭儀、ピューティア大祭において競技の勝者に与えられる月桂冠の材料であり、やはり勝利と栄光、豊かさを表します。





 メダイユのもう一方の面には、シェーヌとオリーヴ、銃と軍艦の錨(いかり)、数旒(りゅう)の軍旗が中央に描かれ、軍旗には次の言葉がフランス語で刻まれています。

  Honneur et Patrie, 1915 1918  名誉と祖国 1915年から1918年

 この「名誉と祖国」(Honneur et Patrie) という言葉は、後にシャルル・ド・ゴール率いる自由フランス (Les Forces françaises libres, FFL) の標語となりました。

 軍旗の上方には「オリャン」(Orient オリエント)の文字が見えます。ここにいうオリャンとは東欧戦線が展開された近東諸国のことで、画面の左右には椰子の木をモチーフにした近東風の装飾が施されています。

 軍旗の左にある "EM. LINDAUER" の文字は、メダイユ彫刻家エミール・ランドエ (Édmond-Émile Lindauer, 1869 - 1942) の署名です。エミール・ランドエは、1914年から1946年まで製造された「ティプ・ランドエ」(Les monnaies du type Lindauer) と呼ばれる一群の硬貨の製作者として有名です。「ティプ・ランドエ」は、フランスの貨幣としてはたいへん珍しい有孔コインです。

 銃口付近にはブロンズを表す略号BRと、コルヌ・コーピアエ(CORNU COPIAE 豊穣の角)を模(かたど)ったパリ造幣局のミント・マークがあります。


 このメダイユは 90年近く前に製作された物ですが、特筆すべき疵(きず)や摩耗も無く、良好なコンディションです。





19,500円 (税込)

電話 (078-855-2502) またはメール(procyon_cum_felibus@yahoo.co.jp)にてご注文くださいませ。



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