神の愛と聖霊 ヨハネによる福音書 洗礼と初聖体を記念するブロンズ製大型メダイユ


メダイユの直径 69.3 mm  厚さ 最大 7.3 mm  重量 165.8 g

フランス  1857年



 わが国でいえば幕末にあたる時代に制作された受洗と初聖体の記念メダイユ。縁の幅6ミリメートル、最大の厚さ7ミリメートルを超える大きな作品で、手に取るとずしりとした重みを感じます。

 宗教が日常生活に融け込んでいた古い時代のフランスでは、メダイユを洗礼や初聖体の記念品とすることがよくありましたが、ふつうは小さなサイズのものでした。本格的な美術工芸品である本品は、数ある記念メダイユのなかでも最も高級な品物です。本品は19世紀半ばに活躍したフランスの彫刻家ドゼード=ロクレ (Desaide-Roquelay) によるクラシカルなデザインの作品です。



 まず、一方の面には八角柱の基台に載せた洗礼盤を中心にして、母に抱かれた新生児を左に、大天使ガブリエルを右に、それぞれ立体的な浮き彫りで表しています。





 天が開いて降臨し給うたの形の聖霊が、洗礼盤の上に留まり、母と子を恩寵の光で照らしています。ガブリエルが右手に持つ白百合は純潔の象徴であり、マリアが聖霊によって身ごもったことを象徴します。また洗礼盤にはイエズス・キリストが洗礼者ヨハネから洗礼を受ける場面が彫られています。四福音書の記述によると、このとき天が開いて、鳩の形の聖霊がイエズスに降臨しました。





 洗礼盤の上ではふたりのプッティが葡萄酒と聖体パンの容器を掲げています。

 ヒッポのアウグスティヌスは、神の三位一体を論じて、聖霊なる神とは父と子の間に成立する愛であると論じました。この愛は第一義的には各位格間の愛ですが、神の属性は互いに不可分ですから、聖霊は人に対する愛でもあることになります。神が人を愛し給う愛がもっとも端的に現れたのが十字架上の受難であって、エウカリスチアはこの再現ですから、葡萄酒と聖体パンの容器がここに表されているのです。

 あるいはこの二つの器を、ナルドの香油の壺と、最後の晩餐に使われた器と解釈することもできます。その場合も二つの器が神の愛を表すことに変わりはありません。





 天から降りてきた聖霊と、コントラポストの姿勢で表された天使が、いずれも母子の方へと向かう動きをはらむのと対照的に、母子は洗礼盤の傍らに端然と佇(たたず)むのみです。これはキリストによる救いが、善行によらず、信仰によらず、神からただ一方的に与えられる愛による恩寵であることを表しています。

 洗礼盤の縁は八角形、洗礼盤の基台は八角柱ですが、これはキリスト教において「八」が完全数「七」の次の数であり、洗礼による新たな生まれ変わりを象徴することによります。全身を水に浸ける方式で洗礼が行われていた時代には、礼拝堂とは別に洗礼堂が必要でしたが、洗礼堂は八角形の平面プランを有していました。

 基台には福音書 (Evangile) が立てかけてあり、その下にはこのメダイユを贈られた少女、マリ・マクシム・ベグエンの受洗日(1857年7月11日)が記録されています。この面の意匠を取り巻くように、次の聖句がフランス語で記されています。

  Qui ne renait par l'eau et le Saint-Esprit n'entre pas dans le royaume de Dieu. (St. Iean, III, 5)

  だれでも水と霊とによって生まれなければ、神の国に入ることはできない。(ヨハネによる福音書 3章 5節 新共同訳)


 画面の右下、天使の背後に、彫刻家の署名 (DESAIDE-ROQUELAY) が刻まれています。メダイユの最下部はロカイユ風のアカンサス文で飾られています。



 もう一方の面にはイエズス・キリストの前に跪いて聖体を拝領するふたりの子供を浮き彫りにしています。イエズスはカリスとホスチアを持ち、左右に天使を従えています。ホスチアには十字架の印が浮き出ています。





 メダイユの右端近く、天使の翼の横に、彫刻家の署名 (DESAIDE-ROQUELAY) が刻まれています。メダイユ周辺には、次の聖句がフランス語で記されています。

  C'est la le pain qui est descendu du Ciel. (St. Iean, VI, 50)  これは天から降って来たパンである。(ヨハネによる福音書 6章50節)





 イエズスと天使、子供たちの足下には、このメダイユを贈られた少女、マリ・マクシム・ベグエンの名前が刻まれ、その下には「アウスピケ・マリアエ」(AUSPICE MARIAE マリアの庇護の下に)を表す "AM" のモノグラム(組み合わせ文字)と、勝利を象徴するナツメヤシの葉、純潔を象徴する百合の花が浮き彫りにされています。

 最下部には初聖体の日付(1869年5月27日)が記録されており、この少女がまもなく12歳になろうとする頃に初聖体を受けたことがわかります。堅信の日付はありません。理由はわかりませんが、この時代のメダイユには堅信の日付けが空欄になっている物を多く見かけます。



 メダイユの縁は6ミリメートルの幅があり、「ジュール・ル・ピカールから贈呈」(Donnée par Jules LE PICARD) の文字が刻まれています。





 反対側には材質を表す「銅」(CUIVRE) の文字、及びミント・マーク(鋳造所を示す刻印)あるいはプリヴィ・マーク(鋳造所長の私的な刻印)が刻まれています。この時代のメダイユに「銅」(CUIVRE) と刻まれているのは、ブロンズ (BRONZE) のことです。





 古典的なデザインによるこのメダイユは19世紀半ば、ナポレオン三世の第二帝政期に製作されたものです。ナポレオン一世と同様にメダイユを重視した皇帝ナポレオン三世のもと、帝政フランスのプロパガンダに資するメダイユ彫刻は国家の手厚い庇護を受けていましたし、政府の方針に縛られないメダイユ彫刻や、政治的意図とは無関係のメダイユ彫刻も、ダヴィッド・ダンジェ (Pierre-Jean David d'Angers, 1788 - 1856) の自由な作風に影響された彫刻家たちによって、数々の名品が製作されました。フランス美術史において、第二帝政期は、メダイユ彫刻の裾野が広がり、多くの優れた彫刻家がこの分野に才能を発揮した黄金時代のひとつです。このような時代に製作された本品は、まさにこの時代の物でしかあり得ない堂々たる作品に仕上がっています。

 メダイユのコンディションは非常に良好で、百五十年以上前のものとはにわかに信じ難いほどです。表裏いずれの突出部分にも特筆すべき摩耗は無く、ほとんど制作当時のままの状態で、真正のアンティーク品ならではのパティナ(古色)が全体を均一に被っています。

 ご希望により、別料金にてメダイユを額装いたします。額装料金は使用する額によって異なります。





メダイユの価格 68,000円 (税込・額装別)

電話 (078-855-2502) またはメール(procyon_cum_felibus@yahoo.co.jp)にてご注文くださいませ。



ドゼード・ロクレによるメダイユ 商品種別表示インデックスに戻る

メダイユ 一覧表示インデックスに戻る


フランスのメダイユ 商品種別表示インデックスに戻る

美術品と工芸品 商品種別表示インデックスに移動する



アンティークアナスタシア ウェブサイトのトップページに移動する