絶えざる御助けの聖母、受難のテオトコス
Nostra Madre del Perpetuo Soccorso, Notre-Dame de Perpetuel Secours, Our
Lady of Perpetual Help/Succor
(上) ローマの「絶えざる御助けの聖母」
「絶えざる御(おん)助けの聖母」(Nostra Madre del Perpetuo Soccorso) とはビザンティンのイコンにおける図像で、聖母子像に、受難の道具を運んでくる天使ミカエルとガブリエルを加えたものです。この図像は、救いに到る道としてのイエズスを示す「ホデーゲートリア」(Οδηγήτρια ギリシア語で「道案内をする女性」の意)の聖母像を発展させたもので、正教会においては「受難のテオトコス」と呼ばれています。
1499年3月27日、この構図のイコンが当時ローマにあったサン・マッテオ聖堂に安置され、その後300年にわたって同所で崇敬を受けました。ローマ・カトリックでは特にこの特定のイコンを指して「絶えざる御助けの聖母」と呼んでいます。サン・マッテオ聖堂は1798年に取り壊され、現在「絶えざる御助けの聖母」のイコンはレデンプトール会の教会であるローマの聖アルフォンソ・デ・リゴリ教会
(Chiesa di Sant'Alfonso all'Esquilino) に安置されています。
絶えざる御助けの聖母の祝日は6月27日です。
【図像の解説】
ローマの「絶えざる御助けの聖母」は、赤い衣の上に濃い青のマントとヴェールを着け、幼子イエズスを抱いています。
聖母子の上方にはギリシア文字「ミュー」(M) と「ロー」(P)、「テータ」(Θ) と「イプシロン」(Y VはYの異体字) が、それぞれティルド
(~) を伴って書かれています。ヨーロッパの古文書において、ティルドが付いた文字は、長い語の略記であることを示します。「受難のテオトコス」をはじめとするビザンティンのイコンによく見られる"MP
ΘY" は「メーテール・テウゥ」(Μήτηρ Θεού 神の母)の略記です。
「神の母」、ギリシア語で「テオトコス」(Θεοτόκος 神を産んだ人・女性)、ラテン語で「デイー・ゲニトリークス」(DEI GENITRIX/GENETRIX 神を産んだ女性)というのは、431年のエフェソス公会議で正統教義に則っていると承認された聖母マリアの称号の一つです。マリアから生まれたイエズス・キリストにおいて、位格的結合(ウニオー・ヒュポスタティカ UNIO
HYPOSTATICA)により、神と人の二性が「相離れず、混合せず、三位一体の第二のペルソナにおいて一致」しているゆえに、イエズスの母であるマリアは、「神の母」(テオトコス、デイー・ゲニトリークス)と呼ばれます。
マリアに抱かれるイエズスの横には「イオタ」(I) と「シグマ」(Σ CはΣの異体字)、「キー」(X) と「シグマ」(C/Σ) が、それぞれティルド (~) を伴って書かれています。この "IC XC" は「イエースース・クリストス」(
Ἰησοῦς Χριστός イエズス・キリスト)の略記です。
ふたりの天使は、聖母子の右上方が大天使
ガブリエル、左上方が大天使
ミカエルです。
ガブリエルの上には「オミクロン」(O) と「アルファとロー」(AP) と「ガンマ」(Г)、その上にふたつのエックス形記号が書かれています。"O
AP Г" は「ホ・アルカンゲロス・ガブリエル」(ὁ ἀρχάγγελος Γαβριήλ 大天使ガブリエル) を表します。
ふたつのエックス形記号は、本来、前が「オミクロン」の上に付く反転コンマ(左右逆向きのコンマ)、後ろが「アルファ」の上に付くコンマです。上付きの反転コンマと、上付きのコンマは、いずれもギリシア語の気息記号で、前者はラテン・アルファベットの"H"で表される気息音、後者は無気息音を表します。
ミカエルの上には「オミクロン」(O) と「アルファとロー」(AP) と「ミュー」(M)、その上にふたつのエックス形記号が書かれています。"O
AP M" は「ホ・アルカンゲロス・ミカエル」(ὁ ἀρχάγγελος Μιχαήλ 大天使ミカエル) を表します。ふたつのエックスは気息記号です。
大天使たちが運んできているのは、恐ろしい受難の道具です。
すなわち右上方の大天使ガブリエルは、神の許からナザレに遣わされて、
イエズス受胎の喜ばしい知らせをマリアに告げた天使ですが、ここではギリシア正教会式の十字架と、イエズスの両手両足を貫いた四本の釘を運んできています。
また左上方の大天使ミカエルは、天の全軍の将であり、幼子にとって最強の守護天使であるはずですが、やはり受難の道具、すなわち酸(す)い葡萄酒(葡萄酒が過発酵して酢になったもの)を入れた壺、酸い葡萄酒に海綿を浸してイエズスに差し出した棒、脇腹を突いた長槍を持っています。
天使は被造物ですから、神のように時間を超越した存在ではありません。しかしながら天使は、肉体と感覚器官を持たない離在知性 (INTELLECTUS
SEPARATUS) であり、感覚によらず、神を直観することによって、神のご意志、救世の計画を知ります。ですからイエズスがまだ幼く、受難まで30年近くの月日が残されているこの時点で、既に十字架上の刑死を知り、その道具を示しているのです。
ふたりの大天使が運んできた受難の道具を目にして、幼子イエズスは恐怖に駆られて母に駆け寄り、その胸にしがみついています。
イエズス・キリストが「普通の人間」ではないことはもちろんです。しかしながら正統教義によると、キリストは「半分が人間」なのではなくて、「完全な人間」です。
イエズス・キリストは全知全能なる神の三位一体における第二のペルソナ、「子なる神」であるにもかかわらず、救世のために受肉して、神格のうちに人格を有する神人となられました。この位格的結合
(UNIO HYPOSTATICA, hypostatic union) のために、受肉したイエズスは知情意と肉体において、普通の人間の幼児と同様に少しずつ成長されました。ルカによる福音書
2章は、イエズスがエルサレムで迷子になったエピソードを語った後、次のように述べています。
それから、イエスは一緒に下って行き、ナザレに帰り、両親に仕えてお暮らしになった。母はこれらのことをすべて心に納めていた。 イエスは知恵が増し、背丈も伸び、神と人とに愛された。(ルカによる福音書 2:
51, 52 新共同訳) |
したがって、稚(いとけな)い子供であったイエズスが、恐ろしい十字架や槍を見たときに感じた恐怖は、普通の人間の幼児の場合と何ら違いがありません。母の胸にしがみついた幼子イエズスの、右足のサンダルの紐が切れているのが幼子の恐怖感を表していて、何と痛々しいことでしょうか。
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