ジャン=バティスト・エミール・ドロプシ (Jean-Baptiste Émile Dropsy, 1848 - 1923) によるルルドの聖母のメダイ。エミール・ドロプシはフランスが生んだ最も優れたメダイ彫刻家のひとりです。
表(おもて)面には若きマリアの柔和な横顔を浮き彫りで表します。天使ガブリエルから受胎を告知されたマリアは、「わたしは主のはしためです。お言葉どおり、この身に成りますように。」と答えてすべてを神に委ねました。このときマリアはごく若い少女であったにもかかわらず、救い主を産むという大任を告げられた後の表情には、神への信頼が読み取れます。
聖母を囲んで、「ロサ・ミスティカ」と書かれています。ロサ・ミスティカとはロレトの連祷にある聖母マリアの称号の一つで、ラテン語で神秘の薔薇、奇(くす)しき薔薇という意味です。5世紀のラテン詩人セドゥーリウスが「カルメン・パスカーレ」("CARMEN PASCHALE" ) で歌ったように、棘のある繁みから生え出でつつも傷つくことなく美しい薔薇の花は、人祖の妻エヴァと同じく女性でありながらも、エヴァの罪に傷つくことがない無原罪の御宿り、すなわちマリアの象徴です。
聖母の右肩の上あたりに彫刻家のサイン (Dropsy) が刻まれています。また上部の環に「フランス」(FRANCE) と記されています。
メダイの裏面にはマサビエルの洞窟における聖母出現の様子を浮き彫りにしています。岩の窪みに現れた聖母は右手首に15連のロザリオを掛けて胸の前に手を合わせ、名を問うベルナデットに対して「我は無原罪の御宿りなり」と答えています。
聖母を見上げるベルナデットは、定型化した表現と異なってヴェールを被らず、宗教的感激の仕草をしています。ベルナデットの手首にはロザリオが掛けられています。前に小川が流れ、脱いだ靴と薪の束が置かれているのは、ルルドのメダイの定型的表現です。
本品は古い制作年代にもかかわらず、概(おおむ)ね良好なコンディションで残っています。表面のわずかな摩耗が、メダイに優しい表情を与えています。