十七世紀、すなわち三百数十年前に、当時は教皇領であったローマで制作された大型の楕円形メダイ。ブロンズを使って鋳造されています。
一方の面には、クルシフィクスの前で瞑想に耽るマグダラのマリアの上半身を、大胆な浮き彫りで表しています。美しいウェイヴを描いて流れる豊かな髪は、男性たちを虜にした輝きをかつてのままに保っていますが、胸の前に手を合わせるマリアの心と眼差しは、いまや天上の神とキリストのみに向けられています。
聖女を囲むように、「マリア・マグダレーナ」(MARIA MAGDALENA ラテン語で「マグダラのマリア」の意)と記されています。メダイの下部には「ローマ」(ROMA)
の文字があり、このメダイが永遠の都への巡礼を記念していることがわかります。
もう一方にはピエタ(伊 la pietà)、すなわち十字架から取り降ろしたイエスの遺体を抱く悲しみの聖母が浮き彫りにされています。悲しみのヴェールで髪を隠した聖母は、両ひざの間にイエスの亡骸を支えたままに天を仰ぎ、両腕を広げて嘆き悲しんでいます。イエスを抱く聖母の長衣は、聖なる物を安置する敷き布の役割を果たしています。
聖母の足下にはラテン語で「アルマ・クリスティ」(ARMA CHRISTI 「キリストの道具」の意)と呼ばれる受難の刑具、茨の冠と三本の釘が置かれています。聖母子の両側では救い主の死を悲しむプッティ(伊 putti 童形のケルビム)が、シエルジュ(大ろうそく)を掲げています。
聖母子の頭上には三つの聖心が彫られており、それぞれに愛の炎を噴き上げています。浮彫の表面が摩滅しているために、三つの聖心を形に基づいて弁別するのが難しいですが、中心にあるのがキリストの聖心、その右側(向かって左側)にあるのがヨセフの聖心、左側(向かって右側)にあるのがマリアの聖心です。
本品には紐を通す環が突出していないので、メダイの上部、キリストの聖心のすぐ横に、紐を通すための孔が開けられています。十七世紀当時の人々は植物性の柔らかい紐を使って、本品のようなメダイを頸に掛けていました。柔らかい紐を使うのであれば、メダイの孔はこのままの状態で使えます。しかしながら革や合成皮革のように硬い材質の紐を通す場合は、メダイの向きが体に対して直角にならないように、環一個を追加する必要があります。金属製チェーンを使う場合も、メダイの孔が小さいために、お手持ちのチェーンの端にある金具が通らない可能性があるので、環を追加する必要があります。追加の環は、ご希望により無料で取り付けます。
十九世紀後半から二十世紀にかけて、特にフランスで制作されたメダイは美的に洗練され、ミニアチュール彫刻作品としての完成度を高めてゆきます。しかるに十七世紀の作品である本品は、美術工芸品である以前に信心具であり、神への信仰が素朴な浮き彫りのうちに結晶化しています。
突出部分の摩滅と均一なパティナ(古色)は、真正のアンティーク品ならではの美です。幾星霜の祈りを吸い込んで磨滅した聖母子とマグダラのマリアは、同じく長い歳月をかけて獲得された古色を背景に、恩寵の光に照らされて輝くように見えます。