フランス救国の聖女ジャンヌ・ダルク (Ste. Jeanne d'Arc, 1412 - 1431) は、1909年4月18日、教皇ピウス10世により、パリ司教座聖堂ノートル=ダム(ノートル=ダム・ド・パリ)で列福されました。本品はジャンヌ列福を記念し、アルミニウムを用いて制作された大きめサイズのメダイで、マリ・ドルレアン(Marie d'Orléans, 1813 - 1839)が制作したジャンヌ・ダルク像に基づいています。
メダイの表(おもて)面には、抜き身の剣を胸に当てて祈るジャンヌ・ダルクの立ち姿を浮き彫りにしています。ジャンヌは兜(かぶと)とガントレ(仏
gantelets 籠手)を外し、短く切りそろえた髪を風になびかせています。兜とガントレはジャンヌの右後方(向かって左後方)にある台状の岩に載せられています。メダイの縁に近い部分には、フランス語で「ジャンヌ・ダルク列福 1909年4月18日」(Jeanne
d'Arc beatifiée le 18 avril 1909)の文字が刻まれています。
マリ・ドルレアンによるジャンヌ・ダルク像
本品に彫られたジャンヌの姿は、マリ・ドルレアン(Marie d'Orléans, 1813 - 1839) によるジャンヌ・ダルク像を基にしています。マリ・ドルレアンはオルレアン公ルイ=フィリップ(フランス国王ルイ=フィリップ一世
Louis-Philippe Ier, 1773 - 1830 - 1848 - 1850) の娘で、優れた画家・彫刻家でしたが、肺結核のため 25歳で亡くなりました。マリの父である国王ルイ=フィリップ一世は、1841年、娘が制作したジャンヌ・ダルク像をオルレアン市に寄贈しました。マリ・ドルレアンによるジャンヌ・ダルク像はオルレアン市庁舎前に置かれています。
ジャンヌの背景には、多数のフルール・ド・リス(百合の花)が散りばめられています。フルール・ド・リスは、裏面に彫られた紋章にもあしらわれています。
フルール・ド・リス(fleur de lys)はフランス語で「百合の花」という意味で、三枚の剣状の花弁を束ねた意匠を指します。フルール・ド・リスあるいはこれに類する文様は、古代オリエントから西ヨーロッパにかけての広い地域で非常に古くから使われ続けており、中世以降の西ヨーロッパでは「三位一体の象徴」及び「聖母の象徴」として知られています。さらにイタリアの都市フィレンツェの象徴、及びフランス王権の象徴とも考えられています。
本品がカトリック教会すなわち公同の教会の信心具であることを考えると、本品に彫られたフルール・ド・リスは、第一義的には、三位一体の神がジャンヌの列聖を祝福していることを表すと考えられます。また本品がフランスで制作された品物であること、ジャンヌは「フランス救国の聖女」と位置付けられていることを考えると、本品に彫られたフルール・ド・リスは、フランスの象徴であるとも考えられます。
フルール・ド・リスのフェーヴ フランス 1920年代 当店の商品
中世史にいう「フランス」とは、イール=ド=フランスのこと、及びここを所領としたカペー朝を受け継ぐ「フランス王」の支配地域のことです。この意味のフランスの領土は、ジャンヌの時代になっても、近代以降の国民国家フランスとは一致しません。ジャンヌの時代、現代でいえばフランス北東部に当たるアルトワ伯領及びブルゴーニュ公領ピカルディ、中東部に当たるブルゴーニュ公国及びヌヴェール伯領、北西部に当たるブルターニュ公国をはじめ、狭義のフランスと区別され、時には対立する領主の所領が、数多く存在していました。
しかしながら本品が制作された 1909年は第一次世界大戦の直前であり、ドイツとの緊張が高まりつつあった時期です。したがってジャンヌ・ダルクとフルール・ド・リスが、ともに「国民国家フランスの象徴」として、フランスの人々の愛国心に訴えたであろうことは、容易に想像できます。
裏面の周囲には、三か所の地名、ドンレミ、オルレアン、ルーアンが記されています。ドンレミはジャンヌの生地、オルレアンは最初に戦功を立てた町、ルーアンは火刑に処された町です。1409年はジャンヌの生年、1431年はジャンヌの没年です。
メダイの中央に刻まれているのは、「デュ・リス」(du Lys) 家の紋章です。対ブルゴーニュ派戦争におけるジャンヌの目覚ましい活躍を評価したシャルル七世は、1429年頃、ジャンヌとその家族に貴族の地位と紋章を授け、「デュ・リス」と名乗ることを許しました。ジャンヌの紋章はフランスの色である青を背景に、フランスの象徴であるフルール・ド・リスの間に置かれた剣が王冠を支える意匠です。デュ・リス家の紋章は、下に示したアングルの作品「シャルル七世の戴冠式におけるジャンヌ・ダルク」において、ジャンヌがまとっている陣中着の正面にも描かれています。
(下) 「シャルル七世の戴冠式におけるジャンヌ・ダルク」 Jean-Auguste-Dominique Ingres, "Jeanne d'Arc au Couronnement de Charles VII", 1854, le Louvre, Paris
本品の材質はアルミニウムです。わが国では一円硬貨にアルミニウムが採用されているために、アルミニウム製品は安価であると思われがちです。しかしながらアルミニウムはもともとは金銀よりも高価な金属でした。フランス第二帝政のナポレオン三世は、通常の賓客には金銀の食器で、特別に大切な賓客にはアルミニウムの食器で、食事を出したことが知られています。本品が制作された
1909年において、アルミニウムの価格は大幅に下がり、貴金属ではなくなっていました。しかしこの頃になっても、アルミニウムはあまり使われることがない一種特別な金属でした。アルミニウムの生産量が本格的に増え始めるのは、第一次大戦期(1914
- 18年)以降のことです。
本品は百年以上前のフランスで制作された真正のアンティーク品です。拡大写真では突出部分のわずかな磨滅や微細な瑕(きず)が判別できますが、肉眼で実物を見ると十分に綺麗な保存状態です。
マリ・ドルレアンによる作品に基づくジャンヌのメダイは非常に稀少です。私は長年に亙って多数の「ジャンヌ・ダルクのメダイ」を目にしてきましたが、マリ・ドルレアンのジャンヌをあしらったメダイを見るのは本品が初めてです。王党派の影響下に制作された作品かもしれません。
本体価格 6,800円
電話 (078-855-2502) またはメール(procyon_cum_felibus@yahoo.co.jp)にてご注文くださいませ。
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