「貞潔の鑑なる聖ヨセフ、われらのために祈りたまえ」「守護天使よ、わが導き手でありたまえ」 19世紀フランスのブロンズ製メダイ 20.5 x 14.0
mm
突出部分を含むサイズ 縦 20.5 x 横 14.0 mm
フランス 19世紀後半
1880 - 90年代頃のフランスで制作されたブロンズ製メダイ。一方の面に聖ヨセフと幼子イエズス、もう一方の面に子供と守護天使を刻みます。
本品の聖父子像において、 堂々とした風貌と体格の聖ヨセフは、幼子イエズスを両腕で包み込んで守るように、自分の左側(向かって右側)に子を抱き、父子は互いに睦みつつも両者ともほぼ正面を向いています。このような聖父子の姿勢と配置は、ホデーゲートリア(救い主を世に示す聖母)型聖母子像と共通しています。
父に抱かれる幼子イエズスは頭部から光を発出していますが、それ以外の点では普通の幼児と同様の描写です。すなわち、ヨセフに抱かれる幼子イエズスは、胸に大きく聖心が刻まれていたり、威厳ある祝福の身振りで右手を挙げていたりする場合も多いのですが、本品では神性を示す描写を伴いません。
しかるに幼子イエズスは左手に白百合を持っています。この白百合はヨセフが右手で持っているようにも見えます。イエズスが差し出した白百合をヨセフが受け取ったのでしょうか。あるいはヨセフが手に持つ白百合に、イエズスが手を添えているようにも見えます。聖ヨセフに執り成しを願う祈りの言葉が、父子を囲むようにフランス語で記されています。
Saint Joseph modèle de pureté, priez pour nous. 貞潔の鑑(かがみ 手本)なる聖ヨセフ、われらのために祈りたまえ。
聖父子像のヨセフが持つ百合は、ヨセフがマリアの浄配であること、すなわちマリアとの間に肉体関係が無いことの象徴と解されています。実際このメダイに刻印された祈りにおいて、ヨセフは「貞潔の鑑」(modèle
de pureté) と呼ばれています。しかしながら、上に述べたように、この百合はイエズスが差し出してヨセフが受け取ったもののようにも見えます。
(上) Georges de La Tour, Appearance of Angel to St. Joseph, c. 1640, oil on canvas, Musee des Beaux-Arts, Nantes
ヨセフの百合が純潔の象徴に過ぎないならば、ヨセフはイエズスを抱かない単独像であってもよいはずです。百合を持ったヨセフを、イエズスではなくマリアとともに描けば、「純潔」の意味はさらに強調されるでしょう。しかしながら実際には、百合を持ったヨセフは、単独像でもなく、マリアとともにでもなく、幼子イエズスとともに描かれています。これはどうしてでしょうか。
百合の象徴性は多様であり、「純潔」を表す以外にも、「神に選ばれた身分」、及び「すべてを神に委ねる信仰」を表します。旧約の「雅歌」 2章 2節ではユダヤ民族が「茨の中に咲きいでたゆりの花」に譬えられていますし、キリスト教では同じ聖句が神に選ばれたマリアを指すと解釈されています。また「マタイによる福音書」 6章及び「ルカによる福音書」 12章では、栄華を極めたソロモンに勝って美しく装う百合が、神の摂理への無条件的な信頼、揺るぎない信仰を象徴しています。
ヨセフはイエズスの父として神に選ばれました。また夢に現れた天使の言葉を信じて、懐妊したマリアを妻として受け入れました。それゆえ力強い父ヨセフが幼子イエズスをしっかりと抱いている図像において、百合は純潔を表すと同時に、ヨセフが信仰ゆえに父として選ばれたことを強調していると考えられます。すなわちこのメダイの図像は、ヨセフが持つ純潔の白百合にイエズスが手を添えて祝福しているとも解釈できますし、受胎告知画においてガブリエルがマリアに白百合を手渡す如く、イエズスが父として選んだヨセフに白百合を手渡す場面とも解釈できます。
ところでメダイの制作方法には「鋳造」と「打刻」の二通りがあります。19世紀フランスのメダイはスクリュー・プレスで打刻して作られる場合が多く、本品もブロンズを打刻して制作されています。
打刻による19世紀のメダイは素朴な味わいがありますが、描写される人物像の迫真性や細部の彫りの丁寧さの点で、鋳造による大型の作品と比べると、多くの場合いくぶん見劣りがします。打刻によるこれらの小さなメダイは、美術品ではなくて信心具として製作されたものですから、拡大写真での鑑賞に堪えるほど精緻な美しさが要求されていないわけです。
しかしながら本品は同時代の類品に比べてたいへん丁寧に制作されています。上の写真は実物の面積を約60倍に拡大しています。定規のひと目盛は 1ミリメートルです。人物の顔や手足はいずれも
1~2ミリメートルの極小サイズですが、人体の正確なプロポーションに従って刻まれており、髭や髪、衣の襞などの描写もごく自然です。
もう一方の面には守護天使に手を引かれ導かれる子供の姿が浮き彫りにされています。子供はマントを羽織り、右手に長い杖を持った中世の巡礼者の姿で表されています。子供の右肩に付いている小さな徽章のようなものは、イタヤガイでしょうか。
中世ヨーロッパにおいて、多くの人々がサンティアゴ・デ・コンポステラをはじめとする巡礼地を目指しましたが、厳しい自然、病気やけが、強盗や盗賊に脅かされ続ける中世の旅は、非常に危険な事業でした。行き倒れた旅人を埋葬するのは、各地の信心会や兄弟団の重要な仕事でした。
これから先、数十年を生きる子供にとって、地上の生は長く困難な旅路に他なりません。病気や事故で生命を失う可能性もありますし、信仰を失って魂の死に至る可能性はさらに大きいと考えられます。守護天使は岩だらけの悪路を歩む子供の先に立ち、天上を指さして励ましを与えています。天使と子供の浮き彫りを囲んで、フランス語の祈りが記されています。
Saint Ange Gardien, soyez mon guide. 聖なる守護天使よ、わが導き手でありたまえ。
このメダイは120年以上の前にフランスで製作された真正のアンティーク品ですが、突出部分にも磨滅はほとんど無く、非常に良好なコンディションです。打刻による19世紀の小型メダイのなかでも、最も優れた作例に属する本品が、このように良い状態で残っているのは幸運なことです。
本体価格 7,800円 販売終了 SOLD
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