珍しい図柄の20世紀初頭のメダイ。モンマルトルのサクレ=クールのバシリカが献堂された 1914年頃に、フランスで制作されたものです。
一方の面には、聖心を示すイエズスの前に跪いて、バシリカを捧げる悔悛のガリアを表しています。空中に浮かぶイエズスは、胸元を開いて聖心(サクレ=クール)を示しています。イエズスの足元に転がる石柱の基礎と柱頭は、パリ・コミューンの動乱によって破壊されたパリの街並みを表すとともに、コミューンが破壊したカトリック国フランスの宗教心の象徴でもあります。
ガリア (GALLIA) はローマ帝国の属州であった頃のフランスの呼称です。TERRA(「土地」「国」)が女性名詞であるために、ラテン語の国名はすべて女性名詞であり、ガリアも女性の姿で表されています。
それにしてもこのガリアは、なんと遜(へりくだ)った姿勢を取っていることでしょうか。おそらく悔恨に胸を打ち、髪をかきむしったのでしょう。ほどいた長い髪を乱れるに任せて、裸足でキリストの前に進み出て跪き、腕を高く上げてバシリカを捧げています。ここに凛々しいマリアンヌ (Marianne) の面影は無く、むしろ悔悛の聖女マドレーヌ(マグダラのマリア)を髣髴させます。
もう一方の面には、モンマルトルのサクレ=クールのバシリカが浮き彫りにされ、その下に「モンマルトル」(MONTMARTRE) と記されています。このメダイは表面の突出部分に摩耗が見られますが、図柄もよく判別でき、およそ百年前のアンティーク品としては特に問題の無いコンディションです。アンティーク工芸品としての美術的価値に加えて、貴重な歴史資料でもあります。