高級品 小麦と葡萄に囲まれた聖体とカリス 愛と受難の薔薇 アール・ヌーヴォー様式による初聖体の銀無垢メダイ 24.3 x 19.4 mm


突出部分を含むサイズ 縦 24.3 x 横 19.4 mm

フランス  19世紀末から20世紀初頭



 二十世紀初頭に制作された初聖体の記念メダイ。大きめのサイズにもかかわらず、800シルバーを使用した銀無垢の高級品です。「蟹」を模(かたど)ったフランスのポワンソン(ホールマーク)が、上部の環に刻印されています。





 メダイの中央にはカリス(聖杯)と聖体、その両側には葡萄と小麦が細密な浮き彫りで表されています。言うまでなく、葡萄はキリストの血に実体変化する葡萄酒の原料、小麦はキリストの体に実体変化するパンの原料です。




(上) Jan van Eyck, "Autel de Gand" (details) 「ゲントの祭壇画」下段センター・パネル 小羊を描いた部分の拡大画像


 「ヨハネによる福音書」6章54節において、キリストは次のように語っておられます。

     ὁ τρώγων μου τὴν σάρκα καὶ πίνων μου τὸ αἷμα ἔχει ζωὴν αἰώνιον, κἀγὼ ἀναστήσω αὐτὸν τῇ ἐσχάτῃ ἡμέρᾳ: (NA 26)    わたしの肉を食べ、わたしの血を飲む者は、永遠の命を得、わたしはその人を終わりの日に復活させる。(新共同訳)


 それゆえ葡萄酒から実体変化した聖血は、人間の魂に永遠の生命を与える生命の水です。上に示した写真は、ヤン・ファン・エイク (Jan van Eyck, c. 1395 - 1441) が1432年に完成させた「ゲントの祭壇画」の一部で、下段センター・パネルの中央部分を拡大しています。この作品において、アグヌス・デイ(神の子羊)なるキリストの胸からは血がほとばしり、聖杯に注がれています。小羊が立つ祭壇には、「ヨハネによる福音書」1章29節にある洗礼者ヨハネの言葉「見よ、世の罪を取り除く神の小羊」(ECCE AGNUS DEI QUI TOLLIS PECCATA MUNDI) が、ラテン語で記されています。




(上) 「わたしの愛にとどまりなさい」 ヨハネ伝と黙示録に基づく彫刻作品 35.5 x 27 cm フランス 1860 - 80年代 当店の販売済み商品


 旧約聖書において、葡萄は神の選民イスラエルを表します。イスラエル王国は紀元前722年にアッシリアに滅ぼされますが、「詩編」 80編はこの少し前に書かれたと考えられ、神に救いを求める痛切な哀訴となっています。この箇所において、イスラエル民族は葡萄の木に譬えられています。該当箇所を新共同訳により引用します。

     あなたはぶどうの木をエジプトから移し、多くの民を追い出して、これを植えられました。そのために場所を整え、根付かせ、この木は地に広がりました。その陰は山々を覆い、枝は神々しい杉をも覆いました。あなたは大枝を海にまで、若枝を大河にまで届かせられました。なぜ、あなたはその石垣を破られたのですか。通りかかる人は皆、摘み取って行きます。森の猪がこれを荒らし、野の獣が食い荒らしています。万軍の神よ、立ち帰ってください。天から目を注いで御覧ください。このぶどうの木を顧みてください。あなたが右の御手で植えられた株を。御自分のために強くされた子を。それを切り、火に焼く者らは、御前に咎めを受けて滅ぼされますように。御手があなたの右に立つ人の上にあり、御自分のために強められた人の子の上にありますように。 (「詩編」 80編 9 - 18節 新共同訳)


 新約聖書の記述は旧約聖書を下敷きにしている場合が多くあります。「ヨハネによる福音書」 15章 1 - 10節で、イエスは弟子たちに対して葡萄の木のたとえ話を語り、「わたしの愛にとどまりなさい」と命じておられます。このたとえ話において、葡萄の木の幹はイエスを、葡萄の枝はイエスの弟子(キリスト者)を、農夫は父なる神を象徴しています。イエスのたとえ話において「葡萄の枝」が有する象徴性は、旧約聖書において葡萄が選民イスラエルを表した用法を引き継いでいます。「ヨハネによる福音書」 15章の該当箇所を、新共同訳により引用します。

      「わたしはまことのぶどうの木、わたしの父は農夫である。わたしにつながっていながら、実を結ばない枝はみな、父が取り除かれる。しかし、実を結ぶものはみな、いよいよ豊かに実を結ぶように手入れをなさる。わたしの話した言葉によって、あなたがたは既に清くなっている。わたしにつながっていなさい。わたしもあなたがたにつながっている。ぶどうの枝が、木につながっていなければ、自分では実を結ぶことができないように、あなたがたも、わたしにつながっていなければ、実を結ぶことができない。わたしはぶどうの木、あなたがたはその枝である。人がわたしにつながっており、わたしもその人につながっていれば、その人は豊かに実を結ぶ。わたしを離れては、あなたがたは何もできないからである。わたしにつながっていない人がいれば、枝のように外に投げ捨てられて枯れる。そして、集められ、火に投げ入れられて焼かれてしまう。あなたがたがわたしにつながっており、わたしの言葉があなたがたの内にいつもあるならば、望むものを何でも願いなさい。そうすればかなえられる。あなたがたが豊かに実を結び、わたしの弟子となるなら、それによって、わたしの父は栄光をお受けになる。父がわたしを愛されたように、わたしもあなたがたを愛してきた。わたしの愛にとどまりなさい。わたしが父の掟を守り、その愛にとどまっているように、あなたがたも、わたしの掟を守るなら、わたしの愛にとどまっていることになる。 (「ヨハネによる福音書」 15章 1 - 10節 新共同訳)


 15章 9節の後半にある「わたしの愛にとどまりなさい」(μείνατε ἐν τῇ ἀγάπῃ τῇ ἐμῇ. ) という言葉は、「わたし(イエス)を常に愛しなさい」という意味にも、「私の愛を受けるにふさわしい者であり続けなさい」という意味にも取れますが、いずれにせよ、このたとえ話では、キリスト者がキリストに倣い、キリストに一致することの必要性が語られています。

 したがって本品に彫られた葡萄は「聖血に実体変化する葡萄酒の原料」を表すとともに、初聖体を受ける子供がイエスの愛にとどまり、あるいはイエスの愛を受けるにふさわしい者であり続ける生き方をして、これからの人生を歩むようにとの願いが籠められています。





 「聖体に実体変化する種なしパンの原料」である小麦は、聖体拝領を主題にした美術作品において、葡萄と共に造形されることが多いモティーフです。トマス・アクィナスは韻文による「サクリース・ソレムニイース」(SACRIS SOLEMNIIS) で次のように謳っています。日本語訳は筆者(広川)によります。

     Panis angelicus fit panis hominum;
Dat panis caelicus figuris terminum;
O res mirabilis: manducat Dominum
Pauper servus et humilis.
   天使のパンが、人のパンになる。
天のパンにより、数々の前表が終わりを告げる。
なんと驚くべきことであろう。
貧しく卑しき僕(しもべ)が主を食べるとは。


 メダイの聖体に刻まれた「イオタ・エータ・シグマ」(JHS)が示すように、実体変化後の聖餅はあくまでもコルプス・クリスティ(羅 CORPUS CHRISTI キリストの御体)であって、決してパンではありません。「天使のパンが人のパンになる」(羅 PANIS ANGELICUS FIT PANIS HOMINUM)という詩的な表現でトマスが言っているのは、キリストご自身の御体が、それを拝領する人の魂の糧となり、魂に永遠の生命を与え給うということです。これはキリストの御血が生命の水であるのと同じです。



(上) シャルル・ピレ作 「このパンを食べる者は永遠に生きる」 アール・ヌーヴォーのブロンズ製メダイユ 51.7 x 37.4 mm フランス 19世紀末から20世紀初頭 当店の商品です。


 メダイの右端は薔薇に縁どられています。薔薇は古典古代以来「愛の象徴」として知られています。薔薇の野生種は五枚の花弁を有しますが、赤い薔薇の五枚の花弁は、受難の際にキリストが負い給うた両手両足と脇腹の傷を連想させます。それゆえに薔薇はキリスト教の象徴体系において、キリストの受難と神の愛を表します。聖体拝領はキリストの受難そのものに他なりませんから、受難を象徴する薔薇は、初聖体のメダイにこの上なくふさわしい意匠であるといえます。

 また薔薇は聖母の象徴でもあるゆえに、本品はイエスの受難と聖体拝領を主要なテーマとしつつも、聖母の庇護を祈る気持ちを併せて表現した作品であるとも考えられます。聖体拝領と聖母の間には直接の関係はありませんが、すべてのキリスト者の母、すべての子供の母として親しまれている聖母が、初聖体を受ける子供に庇護を与え給うと考えるのは、フランスをはじめとするカトリック文化圏の人々にとってごく自然なことです。上の写真に示したのは初聖体をテーマにシャルル・ピレ (Charles Philippe Germain Aristide Pillet, 1869 - 1960) が制作したプラケットです。聖母は初聖体を拝領する少女に付き添い、優しい眼差しを注いでいます。





 左右非対称の浮き彫りを曲線的な植物意匠で縁取った本品は、典型的なアール・ヌーヴォー様式です。アール・ヌーヴォーは幕末にヨーロッパに紹介された日本美術を源流とし、1910年代頃までのヨーロッパを席捲しました。本品はこの時期のフランスで制作されたもので、「ベル・エポック」(仏 la Belle Époque 美しき時代)と呼ばれた当時の華やぎを身に纏っています。

 本品が作られた当時の大多数の人々にとって、銀無垢メダイはめったに購入できない高価な品物でした。銀無垢メダイは素材が高価であるゆえに、小さくて薄い物が多いですが、本品にはある程度の大きさと厚み、重さがあり、人生の大きな出来事である「初聖体のメダイユ」にふさわしい品物に仕上がっています。

 本品は真正のアンティーク品ですが、古い年代を考えれば十分に良好な保存状態です。大きな商品写真は実物の面積を数十倍に拡大してあるので、突出部分のわずかな磨滅が判別できます。しかしながら肉眼で見る実物は滑らかな金属光沢があってたいへん美しく、時を経た物のみが獲得する古色と優しい丸みが、現代のものには決して真似のできない趣きを醸しています。





本体価格 18,800円 販売終了 SOLD

電話 (078-855-2502) またはメール(procyon_cum_felibus@yahoo.co.jp)にてご注文くださいませ。




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