ミニマリズム、ミニマリスム、ミニマリスムス
the minimalism, le minimalisme. der Minimalismus
ミニマリズムはドナルド・ジャッド (Donald Clarence Judd, 1928 - 1994)、ロバート・モリス(Robert Morris,
1931 - ) らに代表され、1960年代を中心に展開した芸術運動です。ミニマリズムの思想は、バウハウスの流れを汲む建築家ルートヴィヒ・ミース・ファン・デア・ローエ
(Ludwig Mies van der Rohe, 1886 - 1969) の「レス・イズ・モア」("Less is more." 「最小限に切り詰めた表現によって、より豊かな内容をあらわすことができる」との意味)という言葉に集約されています。
「レス・イズ・モア」という一見奇を衒(てら)ったレトリックは、論理学の言葉に直せば「内包が少なければ外延が大きい」という当たり前のことを言っているのであって、パラドックスと言い切ることもできません。ただ思弁の世界では当たり前であったことを、美術や産業デザインにおいて初めて具象化したことが、ミニマリズムの功績、レゾン・デートルであったといえましょう。
【キリスト教美術におけるミニマリズム】
キリスト教神学の考えでは、神の本質(本性、属性)は無限に豊かであり、また神においてはあらゆる属性が不可分的に一体となっています。このことを、スコラ学の用語で、神は「単純」である、あるいは「神は複合ではない」といいます(トマス・アクイナス「神学大全」第一部第三問「神の単純性について」)。しかるに地上にある人間の知性は、物事を分析的に捉えることしかできません。したがって神の本性は人間の知性の認識能力をはるかに超えており、人間が神の本質を知ることは全く不可能です。人間は「神が存在し給う」ということ以外、神ご自身について何も知ることができません。神ご自身の本質、本性、属性そのものについて、人間の知性はその千億分の一も、千兆分の一も、無量大数分の一も、認識することはできないのです。
ミニマリズムは神学と無関係に生まれた美学上の思想ですが、「レス・イズ・モア」という考え方は、キリスト教における神の観念と見事に一致します。そのためカトリック芸術においても、大は聖堂建築から小は信心具や小聖画まで、ミニマリズムの影響を受けた美しい作品群が制作されました。ミニマリズムに基づくキリスト教関係の作品は、1960年代の教会が流行に便乗したという以上に、思想の本質的な部分における一致ゆえに生み出されたものなのです。
La Cathédrale Saint-Étienne de Bourges, XIIe - XIIIe siècles
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Le Corbusier,
La chapelle Notre-Dame-du-Haut, 1954, Ronchamp
伝統的デザインによる聖堂とミニマリスムに基づく聖堂は、「神の栄光を表現する」という目的を共有しつつ、その目的を達するのに、まったく正反対の方法を採っています。ロマネスクからバロックに至る各様式の聖堂と、ル・コルビュジエ(Le
Corbusier, 1887 - 1965)のロンシャン礼拝堂を比べれば、このことがよく理解できます。中世以来の伝統的聖堂建築、とりわけゴシック様式による諸聖堂において、聖堂の外観は石材の森のように華麗であり、聖堂内部は「目で見る聖書・
聖人伝」であるステンドグラスや天井画、壁画、聖像で埋め尽くされています。古代の
バシリカ式聖堂の場合、キリスト教信徒の質素な外面に隠された信仰の美しさを表現するため、聖堂の外観は質素です。しかしながら聖堂内部はモザイク等を使ってやはり華やかに装飾されています。これに対してロンシャン礼拝堂では、内側、外側のいずれにおいても豊穣なる単純さが追求され、ミニマリスティークな美を実現しています。
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