稀少品 シャルル・アルベール・シュルツ作 ボンボン・ロリオ お菓子のメダイユ アルザス、ストラスブール 1920年


60.8 x 38.7 mm  最大の厚さ 9.3 mm  重量 57.6 g

フランス  1920年



 ライン河畔の都市ストラスブール(Strasbourg アルザス地域圏バ=ラン県)は、フランス東部、ドイツと国境を接するアルザスの中心都市であり、さまざまな産業が発達しました。このメダイユはストラスブールにあったお菓子のメーカー、ロリオ (Lorio) 社のために制作されたもので、19世紀末から20世紀前半にかけて活躍したストラスブールのメダイユ彫刻家、シャルル・アルベール・シュルツ (Charles Albert Schultz, 1871 - 1953) の作品です。





 一方の面には、あめを仲良く分け合う五人の子供たちの群像が浮き彫りにされています。子供の年齢はばらばらですが、きょうだいなのかもしれません。

 中央に立ついちばん歳上の女の子は、頭にリボンをしています。年齢は八、九歳くらいでしょうか。子供たちの中ではお母さん役で、自分よりもまず小さな子たちにあめを配っています。左手に持った円錐状の袋からあめを取り出す女の子には、二、三歳くらいの女の子がまとわりつき、待ち切れずに手を伸ばしています。左側にいる四歳くらいの女の子は、お姉さんから貰った何個かのあめを右手に乗せており、一個を選んで口に運んでいます。右手前には一、二歳の男の子がいて、真剣な表情であめを食べているのが微笑みを誘います。右後方にいる六歳くらいの女の子は、小さな弟と妹たちがあめを貰って、自分に順番が回って来るのを辛抱強く待っています。





 群像の左下、四歳くらいの女の子の足付近に、彫刻家アルベール・シュルツのサイン (A. SCHULTZ) が刻まれています。

 群像の下部には、フルール・ド・リス(fleur de lys 百合文あるいはアヤメ文)に挟まれて、「ボンボン・ロリオ」(BONBONS LORIOT) の文字が刻まれています。フルール・ド・リスはフランスの象徴です。このメダイユは、裏面を見ればわかるように、1920年、すなわち第一次世界大戦が終わり、アルザスがドイツからフランスに返還された直後に制作されたものです。ストラスブールにあるロリオ社が自社名と並べたフルール・ド・リスには、フランスへの強い帰属意識が表われています。






 メダイユの裏面には、美しく整った横顔を見せる女性の立像と銘板を浮き彫りにし、遠景にロリオ社のお菓子工場を配します。透き通った薄絹越しに美しい肢体を見せる女性は、胸と肩を露わにしています。右腕に抱える葡萄、オレンジ、ざくろ等の果物は、子供たちが喜ぶボンボン(キャンディー)の原料です。また女性の足下には養蜂箱が浮き彫りにされています。はちみつもボンボンの原料です。

 女性は銘板の上に腕を伸ばしており、左手の上にはヘルメースまたはメルクリウス(メルキュール、マーキュリー)の小像が乗っています。ギリシア神話のヘルメース、及びヘルメースと習合して同一視されるローマ神話のメルクリウスは、神々の世界の伝令であるとともに、商業を司る神であり、いずれも俊足を意味する翼のある兜、翼のあるサンダルを身に着け、ギリシア語でケーリュケイオン (κηρύκειον)、ラテン語でカドゥーケウス (CADUCEUS) と呼ばれる伝令の杖を持っています。ケーリュケイオン、カドゥーケウスは二匹の蛇が巻き付いた翼ある杖で、医学の象徴である「アスクレピオスの杖」としばしば混同されますが、本来はヘルメース(メルクリウス)の持ち物です。

 小屋の右側にある AS のモノグラム(組み合わせ文字)は、彫刻家アルベール・シュルツの署名です。





 右側の銘板には、次の言葉がフランス語で記されています。

  la confiserie à son cher directeur et jubilaire Monsieur Alfred Dachert, en souvenir du 5 octobre 1920, respectueux hommage

 こなれた日本語に訳すならば、「勤続50年記念 ディレクトゥール、アルフレッド・ダシェール氏へ ロリオ社から敬意を込めて 1920年10月5日」という意味です。フランス語の「ディレクトゥール」(directeur) は、部長や取締役などの重役を指します。

 献辞の下には、ロリオ社の社訓「誠実、労働、正義」(honnêteté, travail, justice) が記されています。






 メダイユの縁には「ブロンズ」(BRONZE) の文字と、三角形のマークが刻印されています。三角形の中には、十字架の左右にJとBの文字がありますが、これはパリのメダイユ工房ジャンヴィエ・エ・ベルショ (Janvier et Berchot) の刻印です。下部で測ったメダイユの厚みは 3.5ミリメートルで、どっしりとした重量感があります。



 私はこれまで数多くのアンティーク・メダイユを目にしてきましたが、アルベール・シュルツの作品は非常に珍しく、入手はほとんど不可能です。なかでも本品は、一方の面に可愛らしい子供たち、もう一方の面に美しい女性像を描いた秀作で、保存状態も非常に良好です。できれば手放したくない、優れた水準の芸術作品です。





68,000円 販売終了 SOLD

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