ルートヴィヒ・クナウス作 「子供の祝祭」 別題 「脇食卓」 フィラデルフィア、ゲビー社による細密フォトグラヴュール 1880年代
Wie die Alten sungen, so zwitschern die Jungen / Der Katzentisch / The
Children's Festival
原画の作者 ルートヴィヒ・クナウス (Ludwig Knaus, 1829 - 1910)
画面サイズ 縦 175 mm 横 281 mm
「子供の祝祭」(The Children's Festival) と名付けられた絵。ドイツの画家ルートヴィヒ・クナウス (Ludwig Knaus, 1829 - 1910) の作品で、ニューヨークのメトロポリタン美術館に収蔵されています。原画のサイズは縦
90センチメートル、横 120センチメートルとそれほど大きな絵でもないのですが、百人近い人物を描き込んで窮屈さを感じさせません。クナウスの最高傑作のひとつです。
画面手前の低いテーブルには乳母に抱かれた赤ん坊とごく幼い子供たち。その奥のテーブルには少年少女たち。画面後方のテーブルには大人たちの姿が見えます。ペットの犬や猫たちも加わって、とても楽しいパーティーです。
いちばん手前のテーブルで、すました様子でしとやかに食事をする白いドレスの女の子。隣にはちゃんとエスコート役の男の子が座っていますが、彼は猫に気を取られているようです。その隣では小さなレディーが男の子に肘鉄を食らわせています。
少年少女のテーブルでも、ちょっと生意気な子どもたちが大人のまねをしています。どさくさまぎれに女の子にキスしようとする男の子。向かい側の男の子がその様子を見て、何やらからかっているようです。こちらに背を向けている男の子はもっとさりげなく女の子の肩を抱いています。どうやら彼のほうが恋愛上手な色男に成長しそうです。
現在のように大人の服とはデザインがはっきり異なる子供専用の服、子供服が一般化するのは実はかなりあとの時代のことで、かつて子供は大人の服を小さくしただけの大人と同じデザインの服を着ていました。特にパーティー用晴れ着などは現在でも大人と子供がほぼ同じデザインの服を着ています。服が同じデザインであることも手伝って、絵の中の子供が大人の真似をする様子が本物の大人そっくりで、いっそう面白い効果をあげています。
本品の版画技法であるフォトグラヴュール(仏 photogravure)は、この上ない細密さと、明暗の再現の卓越性が大きな特徴です。これらいずれの点に関しても、現代の写真はアンティーク・フォトグラヴュールに遠く及びません。
しかるにアンティーク・フォトグラヴュールは単色の版画であるゆえに、異なる色相でありながらも同一の明度である色が隣り合うと、色の境界線を示すことができません。また全く同明度でないにしても、明度が近い色同士が隣り合った場合、色相の違いがあれば、肉眼では二色を容易に区別できますが、フォトグラヴュールでは識別が困難になります。このような理由により、フォトグラヴュールの版にはエングレーヴィングやエッチング、メゾティント等の技法が加えられ、より一層自然な仕上がりとなるように工夫が凝らされています。
上の写真を注意深く観察すると、子供たちの髪の流れや、男の子が着ている暗色の服の皺が、ビュラン(彫刻刀)の線でよって強調されていることがわかります。白いドレスの女の子は、右腕下部の陰翳部分が、メゾティントのロッカーを適用することによって強調されています。写真に写っている定規のひと目盛りは、一ミリメートルです。
乳母の顔は、左(向かって右)の頬から顎にかけての陰翳部分が、メゾティントのロッカーで強調されています。犬の毛並みのところどころにも、エングレーヴィングが入っています。定規のひと目盛りは、一ミリメートルです。
この絵には「雛鳥はおとなの囀(さえず)りを真似る」("Wie die Alten sungen, so zwitschern die Jungen")という原題が付いています。金婚式を迎えた裕福な夫妻が親類や友人たちを屋敷に呼んで、パーティーを開いている場面を描いた場面らしく、お祝いに集まった人たちは年齢ごとに分けられたテーブルでにぎやかに食事をしています。大人たちは礼儀正しく談笑しながら食事をしていて、子供がまねているような露骨なふるまいをする人は、さすがに見当たりません。しかしながら子供たちのふるまいが、改まった場にいないときの大人の真似であること、大人たちもかつては子供たちのようにふるまっていたことを考えると、取り澄ました大人たちの様子も、子供たちの様子に劣らず可笑しく感じられます。
「雛鳥はおとなの囀(さえず)りを真似る」("Wie die Alten sungen, so zwitschern die Jungen")という原題は、ゲーテ(Johann Wolfgang von Goethe, 1749 - 1832)の「ツァーネ・クセーニエン」("Zahme Xenien" 穏当なる風刺詩)第九巻によります。筆者(広川)による日本語訳を、原文に添えて下に示します。ゲーテの原文は詩ですが、日本語訳はドイツ語の意味を正確に写すことを主眼としたため、韻文になっていません。「ズンゲン」(sungen)は「ザンゲン」(sangen)の古形です。
Sonst, wie die Alten sungen, | かつては大人たちが歌い、それに合わせて | |||
So zwitscherten die Jungen; | 若者たち(子供たち)が囀った。 | |||
Jetzt, wie die Jungen singen, | いまは若者たちが歌い、 | |||
Soll's bei den Alten klingen. | 大人たちは響きを合わせなければならない。 | |||
Bei solchem Lied und Reigen | こんな歌と、輪舞に合わせて。 | |||
Das Beste – ruhn und schweigen. | いちばん望むのは、眠り、口を閉ざすことなのだが。 |
なおこの作品は「デア・カッツェンティッシュ」("Der Katzentisch")という題でも呼ばれています。「カッツェンティッシュ」は「脇食卓」の意味ですが、画面には実際に数匹の猫が描き込まれていて、面白い言葉遊びになっています。
ルートヴィヒ・クナウス Ludwig Knaus
ルートヴィヒ・クナウス (Ludwig Knaus, 1829 - 1910) はヴィースバーデンに生まれたドイツの画家で、ベルリン、ウィーン、ミュンヘン、アムステルダム、アントワープのアカデミー会員であり、レジオンドヌール勲章オフィシエをはじめとする数々の賞を受賞しました。
版画は未額装のシートとしてお買い上げいただくことも可能ですが、当店では無酸のマットと無酸の挿間紙を使用し、美術館水準の保存額装を提供しています。上の写真は額装例で、外寸
40 x 31センチメートルの木製額に、緑色ヴェルヴェットを張った無酸マットを使用しています。この額装の価格は 24,800円です。
額の色やデザインを変更したり、マットを替えたりすることも可能です。無酸マットに張るヴェルヴェットは赤や青、ベージュ等に変更できますし、ヴェルヴェットを張らずに白や各色の無酸カラー・マットを使うこともできます。
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