生命樹をかたどる黄楊の十字架とビーズ 《簡素なロゼール 十五連のロザリオ 全長 71.5 cm》 フランスのヴィンテージ未使用品 二十世紀中頃


環状部分の周の長さ 120 cm

全長 71.5 cm


十字架のサイズ 縦 34.3 x 横 27.4 mm  厚み 5.8 mm


ビーズの直径 約 7 mm 



 めったに手に入らない十五連のロゼール(仏 rosaire ロザリオ)。今から数十年前、二十世紀半ばのフランスで手作りされ、未販売・未使用のまま残っていたヴィンテージ品です。





 ロザリオの十字架は、十五連のロゼールの場合も五連のシャプレの場合も、コルプス(キリスト像)が付いたクルシフィクスが普通です。しかるに本品はコルプスを伴わず、簡素な白木の十字架を採用しています。十字架とビーズはいずれも黄楊(つげ)製です。金属製チェーンでなく麻ひもを使う様式は十九世紀前半以前の古形を遺し、クール(仏 cœur センター・メダル)を欠いています。

 堅くて肌理(きめ)が細かく、美しい材として工芸品に多用される黄楊は、キリスト教以前の古代から「不死」と「永遠の生命」を象徴します。また寒冷な北ヨーロッパではナツメヤシの葉やオリーヴの枝が手に入りにくいゆえに、黄楊はそれらの植物に代わって「枝の主日」に祝別されます。したがって黄楊は、ナツメヤシの葉やオリーヴの枝と同様に、「キリストへの信仰告白」「救世主を迎える喜び」「キリストの勝利と栄光」「神との平和」をも表します。


 主の祈りと栄唱のビーズ、天使祝詞のビーズとも、直径七ミリメートル弱の球形です。古いロザリオの木製ビーズは黒く染められている場合がほとんどですが、本品のビーズは白木のままです。ビーズをつなぐ麻紐も、染められずに元の色のままです。キリスト教は自然崇拝の宗教ではありませんが、白木のままのロザリオには、自然物である木の生命力が感じられます。





 わが国の古い仏像彫刻には、自然木の形状や風合いを敢えて残した作例が見られます。京都市右京区愛宕山中にある月輪寺の千手観音立像(ひのき一木造り 像高 168.8 cm 十世紀 重要文化財)や、京都府木津川市加茂町にある海住山寺奥の院の十一面観音立像(白檀または萱の一木造り 像高 45.6 cm 九世紀 重要文化財 奈良国立博物館寄託)は、背面が木取り時の風合いを残し、粗彫りのまま放置されています。これは奈良時代後期から平安時代前期に行われた「一木造り」の制作法とともに、自然の木が有する霊力を尊重したためと考えられます。

 木の霊力を移した像として更に分かりやすい例は、鶏足寺(滋賀県長浜市 現在は廃寺)にあったと伝えられる地蔵菩薩立像あるいは僧形神像で、後頭部まで貫通する大きな節穴により、顔の右側(向かって左側)が大きく欠損しています。ここに節があることは木取りに際してわかっていたにもかかわらず、節を避けようとせず、むしろ像の最重要部に節を持ってきて意図的に彫り残し、あるいは脱落させているのです。


 古代ギリシアの四元素説(火、空気、土、水)に対し、我が国では中国から五行(木火土金水)を取り入れ、五元素説が考えられました。万物に変化する基本物質である以上、元素はそれ自体に個性を持たず、均質でなければなりません。ギリシア語ヒューレー(希 ὕλη)はもともと「木、木材」という意味で、アリストテレスはこの語を存在論における「質料」を指すのに使いました。アリストテレスのヒューレーは元素(希 στοιχεῖον)ではありませんが、やはり無個性の基体(希 ὑποκείμενον 羅 SUBSTRATUM/SUBJECTUM 本質を分有して有となる素材的なもの)です。

 しかるに上掲の仏像は背面に木取り時の風合いを残して木像であることを明示し、さらに甚だしきは顔の中央付近に大きな節穴を位置させて、材の個性を露わにしています。これは仏像を彫り出した木を単なる元素、無個性な質料と捉えず、霊木と見做す心性の可視化に他なりません。




(上) Piero della Francesca, "Adorazione della Croce" (dettaglio), 1452 - 66, affresco, la cappella maggiore della basilica di San Francesco, Arezzo


 中世以来ヨーロッパに伝わる伝説によると、イエスの十字架は生命樹から作られました。しかるに生命樹は聖なる次元と繋がるもの、すなわちアークシス・ムーンディー(羅 AXIS MUNDI 世界軸)です。したがって生命樹から作られた十字架もまた、世界軸に他なりません。

 我々は世界軸を要(かなめ 支点)として、自らが生きる世界を「秩序あるコスモス」(希 κόσμος)に変えます。シカゴ大学神学部教授のミルチャ・エリアーデ(Mircea Eliade 1907 - 1986)は、1957年の著書「聖なるものと俗なるもの ― 宗教的なるものの本質について」(„Das Heilige und das Profane - Vom Wesen des Religiösen“, Rowohlts Deutsche Enzyklopädie, Nr. 31, Hamburg, 1957)において、均質なウニヴェルズム(独 das Universum 世界)を、世界軸あるいは固定点(独 ein feste Punkt)がコスモス化(独 die Kosmisierung)する、と論じています。


 キリスト教徒にとって、キリストの十字架こそが世界軸です。キリストの十字架はエルサレムのゴルゴタに立てられましたが、ロゼール(ロザリオ)の十字架はその再現であって、持ち運び可能な世界軸に他なりません。とりわけ黄楊の白木でできた本品の十字架は、この材が不死を象徴するゆえに、誰の目にも明らかな生命樹の象(かたど)りとなっています。

 他方ロゼールのビーズは、一つひとつが天使祝詞(アヴェ・マリア)を形象化しています。しかるにアヴェ(羅 AVE)またはカイレ(希 Χαῖρε)はメシアの出現を予告する言葉であって、救済史の要(かなめ)です。非宗教的人間は時間を均質な流れとして表象しますが、キリスト教徒は受胎告知を固定点として、いわば時間をコスモス化(独 die Kosmisierung)します。それゆえカイレ(アヴェ)はいわば時間における世界軸であり、空間における世界軸と同様の働きをします。本品ロゼールの黄楊製ビーズは、黄楊製十字架と同様に、聖なるものと繋がる世界軸であり、これを通して救いと生命が、ロゼールを祈る人にもたらされます。





 本品は二十世紀中頃にフランスのロザリオ工房で手作りされた品物です。数十年前のヴィンテージ品ですが、販売されないまま新品で残っていたゆえに、制作された当時と変わらない保存状態です。特筆すべき問題は何もありません。紐の強度も問題ありません。連の数は十五で、現在の四玄義ではなく三玄義に対応していますが、途中で折り返して祈れば四玄義にも使えます。

 古い時代においても元々作られることが少なかったロゼール(十五連のロザリオ)が、現代まで美しい状態で遺った稀少な品物です。





本体価格 38,000円

電話 (078-855-2502) またはメール(procyon_cum_felibus@yahoo.co.jp)にてご注文くださいませ。




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