稀少・高級品 銀無垢の透かし細工 エルバイト色のカットガラス フランスの美麗シャプレ 全長 53 cm 19世紀後半から20世紀初頭


全長 53 cm

クルシフィクスを下にしてロザリオを吊り下げたときの、ロザリオ上端からセンター・メダル上端までの長さ  36 cm

主の祈りと栄唱のビーズの直径 約 9 mm

天使祝詞のビーズの直径 約 8 mm

クルシフィクスのサイズ 43.5 x 26.5 mm (突出部分を含む)

重量 54.3 g


フランス  19世紀末から20世紀初頭



 銀に透かし細工を施したクルシフィクスとクール(cœur センター・メダル)、ブルー・グリーンの透明ガラス製ビーズを使用したシャプレ・ド・ラ・ヴィエルジュ(chapelet de la Vierge 聖母のロザリオ)。19世紀末から20世紀初頭頃のフランスで制作された美しい品物です。





 クルシフィクスは銀製で、透かし細工による十字架に、別作のコルプス(キリスト像)を溶接しています。十字架交差部の後光には連続する点により十字架が描かれています。柱と腕木は交差部から外側に向けて幅広となり、末端近くにはアカンサス(唐草)によるフルール・ド・リス様(よう)の装飾が見られます。フランスにおいて純度 800/1000の銀を示す「蟹」のポワンソン(ホールマーク 貴金属検質所の刻印)が、上部の環の裏面に打刻されています。





 センター・メダルはフランス語で「クール」といいます。「クール」(cœur) とは「心臓」のことです。王冠と楯、アカンサスを組み合わせた本品のクールは、その輪郭が文字通りに心臓を模(かたど)ります。楯の内部には、一方の面に「イオタ・エータ・シグマ」(JHS) と十字架のクリストグラム、もう一方の面に「アウスピケ・マリアエ」のモノグラム(組み合わせ文字)が刻まれています。

 「クリストグラム」とはキリストを表すモノグラムのことで、「イオタ・エータ・シグマ」はギリシア語「イエースース」」(Ίησοῦς イエス・キリスト)の最初の三文字にあたります。「アウスピケ・マリアエ」は聖母マリアのモノグラムで、ラテン語で「聖母の庇護の下(もと)に」を表す「アウスピケ・マリアエ」(AUSPICE MARIAE) の頭文字を組み合わせています。フランスにおいて純度 800/1000の銀を示す「イノシシの頭」のポワンソンが、「アウスピケ・マリアエ」を刻んだ楯の下端に打刻されています。





 本品の十字架とクールにはアカンサス文(唐草文)が多用されています。アカンサスとはハアザミのことで、葉の縁、及び花の下にある苞(ほう)が棘状に尖っています。アカンサス(ἂκανθος アカントス)という名称はギリシア語で「棘のある花」という意味で、「アカンタ」(ἂκανθα 「棘」)と「アントス」(ἂνθοϛ 「花」)に由来します。

 コリント式柱頭を見てもわかるように、アカンサスの意匠は古代ギリシア以来使われ続けていますが、キリスト教文化の象徴体系において、棘のある植物アカンサスは「苦しみ」や「死」を表します。「創世記」3章において原罪を犯したアダムに神が言われた創世記3章の言葉を、七十人訳と新共同訳によって引用いたします。新共同訳が「茨」と訳している語は、ギリシア語(七十人訳)では「アカントス」(引用文中では複数対格形アカンタス ἀκάνθας)となっています。

17
τῷ δὲ Αδαμ εἶπεν Ὅτι ἤκουσας τῆς φωνῆς τῆς γυναικός σου καὶ ἔφαγες ἀπὸ τοῦ ξύλου, οὗ ἐνετειλάμην σοι τούτου μόνου μὴ φαγεῖν ἀπ αὐτοῦ, ἐπικατάρατος ἡ γῆ ἐν τοῖς ἔργοις σου· ἐν λύπαις φάγῃ αὐτὴν πάσας τὰς ἡμέρας τῆς ζωῆς σου·
  神はアダムに向かって言われた。「お前は女の声に従い/取って食べるなと命じた木から食べた。お前のゆえに、土は呪われるものとなった。お前は、生涯食べ物を得ようと苦しむ。
18 ἀκάνθας καὶ τριβόλους ἀνατελεῖ σοι, καὶ φάγῃ τὸν χόρτον τοῦ ἀγροῦ.   お前に対して/土はとあざみを生えいでさせる/野の草を食べようとするお前に。
19 ἐν ἱδρῶτι τοῦ προσώπου σου φάγῃ τὸν ἄρτον σου ἕως τοῦ ἀποστρέψαι σε εἰς τὴν γῆν, ἐξ ἧς ἐλήμφθης· ὅτι γῆ εἶ καὶ εἰς γῆν ἀπελεύσῃ. (Saptuaginta)   お前は顔に汗を流してパンを得る/土に返るときまで。お前がそこから取られた土に。塵にすぎないお前は塵に返る。」 (新共同訳)


 イエス・キリストが受難し給うたのは、アダムとエヴァの原罪ゆえでした。したがってアカンサスはキリストの十字架を飾るのにふさわしい装飾意匠であるといえます。また本品は、クールの両面にアカンサスをあしらっています。クリストグラムの面のアカンサスはキリストの聖心を取り巻く茨の冠を、「アウスピケ・マリアエ」の面のアカンサスはマーテル・ドローローサ汚れなき御心を刺し貫く剣を、それぞれ象徴しています。





 本品のビーズは透明ガラスでできており、きらきらと美しく輝いています。サイズは大きめで、主の祈りと栄唱のビーズは直径およそ 9ミリメートル、天使祝詞のビーズは直径およそ 8ミリメートルです。それぞれのビーズは丁寧な手作業によって多面のファセット・カットが施され、ビーズ一個におよそ四十のファセット(面)が作られています。ロザリオ全体は 54.3グラムの重量があり、手に持つと心地よい重みを感じます。54.3グラムは五百円硬貨八枚分弱、または百円硬貨十一枚分強に相当します。

 ビーズのガラスは緑がかった青、あるいは青と緑の中間色で、「パライバトルマリン」として知られるエルバイト、あるいは宝石質のアパタイトに似ています。これは通常アンティーク・ロザリオのビーズに見られない稀少色です。19世紀にフランスで制作されたシャプレ(数珠、ロザリオ)のビーズは、最も多いのが黒か白、次に多いのが赤系統の色(赤や紫)で、まれに無色や緑がありますが、青はまず見られません。20世紀に入る頃から青のビーズも使われ始めますが、「緑がかった青」はいずれの時代においても非常に珍しい色です。本品はあらゆる年代を通して私自身がこれまでに目にした唯一の作例です。

 ところで、あらゆる色の中でなぜ青だけが、19世紀のロザリオに使われなかったのでしょうか。それは19世紀のヨーロッパが、「青」という色を未だ完全に受容していなかったからだ、と筆者(広川)は考えます。ヨーロッパ文明において「青」が完全な市民権を得、信心具のように保守的な性格の物品にも自由に使われるようになるのは、20世紀以降のことです。19世紀という時代は、ヨーロッパ文明が「青」の受容を完了する前の、最後の時代であったのです。したがって本品はロザリオに青が使われた魁(さきがけ)となる作例であり、「色彩」という観点から見た社会史の重要な資料といえます。


 本品の色を近似色の宝石と比較してみました。下の写真で黒い台紙に載っているのはオーストラリア産ホワイト・オパール(14.9 x 8.4 mm 2.54 cts 98,000円)、左隣の二個はマダガスカル産アパタイト(6 x 4 mm 1.13 cttw 21,000円)、左端は点光源でシャトヤンシー(キャッツ・アイ効果)を呈するアパタイト(直径 7 mm 1.56 cts 21,000円)です。いずれも当店の商品です。




 下の写真に写っている宝石はすべてトルマリンです。当店の商品です。




 本品は19世紀後半から20世紀初頭に制作された真正のアンティーク品ですが、古い年代にもかかわらず、たいへん良好な保存状態です。特筆すべき問題は何もありません。海の泡にも似た色の、たいへん美しいカット・ガラスによる「聖母のシャプレ」です。





本体価格 38,800円 販売終了 SOLD

電話 (078-855-2502) またはメール(procyon_cum_felibus@yahoo.co.jp)にてご注文くださいませ。




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