十九世紀後半のフランスで制作された「七つの悲しみの聖母のシャプレ」(chapelet de Notre-Dame des sept douleurs)。シャプレ(仏
chapelet)とは数珠(じゅず)、すなわち祈りの回数を数える道具のことで、イタリア語等で「ロザリオ」(伊 rosario 薔薇の花環)と呼ばれる物と同じ信心具を指して、フランスではこのように呼んでいます。
「七つの悲しみの聖母のシャプレ(ロザリオ)」は大きな楕円形メダイユで始まり、環状部分には週(連)と週の間にひと回り小さな楕円形のメダイユを配します。本品もこの様式に従って作られています。
最初のメダイユの片面には、七本の剣で心臓を刺し貫かれたマーテル・ドローローサ(MATER DOLOROSA 悲しみの御母、悲しみの聖母)の姿を、打刻による浅浮き彫りによって表しています。信仰深いマリアの心臓は剣に刺し貫かれながらも、神とイエスに対する愛の炎を噴き上げています。
浮き彫りの周囲には、悲しみの聖母に執り成しを求める祈りの言葉がラテン語で記されています。
MATER DOLOROSA, ORA PRO NOBIS. | 悲しみ給う御母よ、我らのために祈り給へ。 |
もう一方の面には十字架上で受難するイエス・キリストが打刻され、次の言葉が周囲にフランス語で刻まれています。
Il est mort pour nous. | かの御方、我らがために死に給へり。 |
十字架の基部に縋り付いているのはマグダラのマリアです。イエスの十字架にマグダラのマリアが縋りつくのは、伝統的な図像表現です。
キリスト教の伝統的図像において、聖母をはじめとする聖女たちはヴェールで髪を隠します。マグダラのマリアだけは例外で、常に性的魅力を強調する姿で表されます。マグダラのマリアの図像は頭部にヴェールを被らず、艶やかで豊かな長髪が描かれます。本品においても、マグダラのマリアはウェーヴのかかった美しい長髪を見せています。
環状部分の小メダイユは、片面に聖母の横顔が刻まれ、ラテン語で「マーテル・ドローローサ」(羅 MATER DOLOROSA 悲しみの御母)の文字が打刻されています。この面の図柄はすべての小メダイユに共通しています。
小メダイユのもう一方の面には、聖母を悲しませた七つの出来事が刻まれています。聖母を悲しませた七つの出来事は下の表に示す通りですが、本品には十字架から降ろしたイエスの遺体を抱きとめる場面(6)が無く、最後の二枚がイエスの遺体を埋葬する場面(7)となっています。
1 | .. | 幼子イエスに関するシメオンの預言 | .. | ルカによる福音書 2章34 - 35節 | ||
2 | エジプトへの逃避 | マタイによる福音書 2章13 - 15節 | ||||
3 | 3日のあいだ少年イエスとはぐれたこと | ルカによる福音書 2章43 - 45節 | ||||
4 | 十字架を背負って歩くイエスと出会ったこと | ルカによる福音書 23章27節 | ||||
5 | イエスの十字架のもとに立ったこと | ヨハネによる福音書 19章25 - 27節 | ||||
6 | 十字架から降ろしたイエスの遺体を抱きとめたこと | マタイによる福音書 27章57 - 58節 | ||||
7 | イエスの遺体を埋葬したこと | ヨハネによる福音書 19章40節 |
ビーズは黄楊(つげ)と思われる木製で、黒く塗られています。最初のメダイに続く一個目、及び五個目のビーズは八ミリメートル強の直径で、同心円状の模様が刻まれています。他のビーズの直径は七ミリメートルで、模様はありません。ビーズはすべて揃っており、欠損はありません。
本品は百年以上前に制作された真正のアンティーク品ですが、保存状態は良好です。チェーンの強度にも問題はありません。当店では「七つの悲しみの聖母のシャプレ」をこれまでに数点、取り扱っていますが、本品は年代が古く、最も長いサイズです。