「オ・マリ、オ・メール・シェリ」(マリアよ、愛する御母よ)
"O Marie, ô Mère chérie"



 「オ・マリ、オ・メール・シェリ」("O Marie, ô Mère chérie" フランス語で「マリアよ、愛する御母よ」)は、普仏戦争(1870年)の直後にマルティノ (F. Martineau) という人が作った歌で、現在でも信心会の集まりなどで歌われることがあります。


【19世紀後半のフランスにおける信仰の復興】

 19世紀後半は、フランスが信仰に回帰した時代でした。ノートル=ダム・ド・フランスをはじめとする巨大な聖母子像や、モンマルトルのバシリカをはじめとするサクレ=クール(聖心)教会が、フランスのあちこちに建てられました。


(下) ノートル=ダム・ド・フランスのメダイ。"MARIAE REGNUM, GALLIAE REGNUM"(ラテン語で「ガリアの国はマリアの国」)と書かれています。当店の商品(販売済み)




 聖心の信心を広めるにあたって最も功績があった17世紀の修道女、マルグリット=マリは、フランス革命のちょうど百年前に当たる1689年にキリストの啓示を受け、フランスの回心を呼び掛ける手紙を、当時の国王ルイ14世に送りました。しかし聖女の手紙とキリストの啓示は無視されて、カトリック教会の長姉であるべきフランスは、堕落に堕落を重ねました。

 マルグリット=マリに与えられた1689年の啓示は、聖女の列福から三年後の 1867年8月、聖女がド・ソメーズ院長に宛てた第98書簡が公開されてようやく明らかになりました。この三年後の 1870年、フランスは普仏戦争に敗れます。当時の人々は、この敗戦を、神がプロイセンを使ってフランスを罰し給うたのだと考えました。

 「オ・マリ、オ・メール・シェリ」では、愛国心と敬神が一体となった感情が謳われます。神の前にへりくだって憐れみを乞う歌詞は、普仏戦争に敗れて灰を被った「悔悛のガリア」(GALLIA POENITENS)、当時のフランス人の宗教的心情を、たいへんよく表しています。


 「オ・マリ、オ・メール・シェリ」の歌詞は次の通りです。日本語の詞は筆者(広川)が訳したものです。


O Marie, ô Mère chérie   マリアよ、愛する御母よ
 
1. Aux pieds de ta Mère bénie
Tombe à genoux peuple chrétien!
Et que ta bannière chérie
S'incline en ce lieu trois fois saint.
  1. 幸ひなる御母が御足許に、
跪くべし、キリストを信ずる者どもよ。
汝の尊ぶその旗は、
いとも貴きこの場にて、御母に頭(かふべ)を垂るるべし。
 
  (refrain)
O Marie, ô Mère chérie,
Garde au cœur des français la foi des anciens jours !
Entends du haut du Ciel, ce cri de la patrie :
Catholique et Français toujours !
Entends du haut du Ciel, ce cri de la patrie :
Catholique et Français toujours !
Catholique et Français toujours !
  ... (1.2.3.4.の後に、次を繰り返し)
マリアよ、愛する御母よ、
フランス人の心に抱(いだ)く古(いにしへ)の御訓(おし)へを護り給へ!
祖国はかく叫ぶ。天のいと高き所にて、御耳を傾け給へ。
われらは常にカトリックなり、フランス人なり!
祖国はかく叫ぶ。天のいと高き所にて、御耳を傾け給へ。
われらは常にカトリックなり、フランス人なり!
われらは常にカトリックなり、フランス人なり!
 
2. Console-toi, Vierge Marie,
La France revient à son Dieu;
Viens, souris à notre patrie,
D'être chrétienne elle a fait voeu.
  2. 憂ひ給はざれ、をとめマリアよ。
神が御許に、フランス戻れば。
来たり給へ。微笑み給へ。我らが祖国に。
フランスはキリストを信ずと、誓ひてあれば。
 
3. Elle assiège ton sanctuaire!
Elle accourt dans tes saints parvis!
Pitié, pitié, puissante Mère!
Fléchis le coeur de Dieu ton Fils.
  3. 御身が聖所はフランスが内にあり。
フランスは御身が教会に馳せ参ず。
憐れみ給へ。憐れみ給へ。力ある御母よ。
和らげ給へ、神なる御子の心をば。
 
4. Rends la couronne à notre Père,
Confonds les méchants et leurs voeux;
Fais que le successeur de Pierre
Connaisse enfin des jours heureux.
  4. 我らが御父に、王冠を渡し給へ。
邪(よこしま)なる輩(やから)とその企みを挫き給え。
ペトロを継ぐ者、
遂には勝利を得(う)べく、計らひ給へ。




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