新生をもたらす新しきエヴァ 棘に傷つかないロサ・ミスティカのメダイ 19.6 x 13.7 mm


突出部分を含むサイズ 縦 19.6 x 横 13.7 mm

フランス  1930 - 40年代



 歳若きマリアを三輪の薔薇とともに彫った美麗なメダイ。メダイの圧倒的多数は銀色で、金色のものは少数です。20世紀半ばには軽金属に金めっきを掛けたメダイが出回りますが、それらはピカピカしていかにも安っぽい風合いです。しかしながら 1930年代あるいは 40年代頃に制作された本品は艶を抑えた上品なシャンパン・ゴールドで、聖母の姿はあたかも天上の微光に包まれているかのように見えます。





 本品に刻まれた若き聖母は祈りの印であるヴェールを被り、心静かに神と対話しています。マリアの横顔は目鼻立ちが整っているだけでなく、瞳、瞼、眉等の細部が巧みに表され、あたかも娘が父を慕って見上げるように見えます。マリアの口許にはかすかな微笑が浮かんでいます。

 メダイの最下部には三輪の薔薇が刻まれています。薔薇は棘だらけの繁みから出て傷無く美しい花を咲かせます。マリアはエヴァと同じく女でありながら、エヴァの罪を引き継がずに生まれた無原罪の御宿りであるゆえに、「ロサ・ミスティカ」(ROSA MYSTICA ラテン語で「奇(くす)しき薔薇」)と呼ばれます。またエヴァが子孫に死をもたらしたのに対し、マリアは救い主を産んで世に生命と救いをもたらしました。それゆえマリアは「新しきエヴァ」とも呼ばれます。





 上の写真に写っている定規のひと目盛は 1ミリメートルです。薔薇の花の直径は 2ミリメートル、マリアの顔の高さは 5ミリメートルしかありません。このように小さなサイズのミニアチュール彫刻であるにもかかわらず、マリアの横顔にはその人柄と篤い信仰心が形象化されています。


 メダイユ彫刻に刻まれる人物像に横顔が多いという事実には、古代以来の貨幣彫刻の伝統を引いていることに加えて、ふたつの理由が考えられます。

 第一は技法的な理由です。浮き彫りという技法の特性として、空間的な奥行きに厳しい制限があります。また絵画と違って色彩を使うことができません。したがって浮き彫り彫刻で人物の目鼻立ちを表す場合、正面向きよりも横顔のほうが適しています。

 第二の理由は、モデルの人柄がありのままの形で現れるのは、正面向きの顔ではなく横顔だという理由です。クアットロチェント(15世紀)のイタリアにおいてピザネッロが始めたメダイユ彫刻は、イタリア本国よりもむしろフランスで栄え、19世紀においてひとつの頂点に達しました。19世紀のフランスでメダイユ彫刻が興隆するきっかけとなったのが、ダヴィッド・ダンジェ (Pierre-Jean David d'Angers, 1788 - 1856) による作品群です。常に変わらないモデルの人柄は、横顔にこそありのままの形で現れる、とダヴィッドは考えました。一時的な感情ではなく、人物の生来の人柄と、それまでの歩みによって形成された人柄を作品に表現するのであれば、横顔を捉えるのが最も適しているというダヴィッドの指摘には、大きな説得力があります。

 このメダイにおいて、彫刻家はマリアの横顔の肩から上のみを、背景無しに制作しています。全身像であれば仕草や背景で表現できることも、この作品においてはマリアの表情だけですべて表現しなくてはなりません。本品においてマリアがヴェールを被っているのは神との対話あるいは祈りの象徴であり、端正な横顔に浮かぶ穏やかな表情、口許の優しい微笑みは、神に選ばれて恩寵の器となった若きマリアの信仰のあらわれです。

 本品の浮き彫りはたいへん柔らかなタッチで、聖母の姿は自然に背景に融け込んでいます。衣の襞も自然に流れ、ヴェールの薄絹はメダイの金属に置き換わった後も、その柔らかさを保つかのように思えます。この優れたメダイユを制作したメダイユ彫刻家が署名を刻んでいないのは、作品制作を信仰の業と見做して、このマリア像に取り組んだからでしょう。





 本品は 1930年代または 40年代頃のフランスで制作された品物です。1930年代から 40年代は、フランスに住む人々にとって困難な時代でした。第二次世界大戦は 1939年9月1日にドイツがポーランドに侵攻したことで始まりましたが、フランスとの緒戦においてドイツは圧倒的な強さを見せ、フランスは早くも 1940年6月22日に休戦条約を結んで、実質的降伏に追い込まれます。1941年5月の段階においてフランスは南北に二分され、南フランスすなわちヴィシー政権下の「エタ・フランセ」(État français フランス国)はかろうじて独立国の体裁を保っていましたが、1942年11月11日にはこの地域もドイツ軍の占領下に入ります。ドイツの占領下、フランスの一般市民は困窮し、通常は家畜の飼料となるルタバガ(不味い蕪の一種)やキクイモなども食卓に上りました。

 若きマリアの横顔を彫ったこの美しいメダイが、どのような機会に購入され、身に着けられたものであるのかは推測するしかありません。しかしながら特定の巡礼地の聖母像ではなく、一般的な聖母像を優しいタッチで彫刻した本品のようなメダイは、子供の誕生に際して購入されることが多くありました。このメダイも、洗礼を受ける新生児に両親から贈られたものではないでしょうか。戦時下あるいは戦争直後の過酷な時代に生まれた子供のために、聖母の加護を祈ったのでしょう。マリア像に添えられた薔薇は、マリアの象徴であるとともに、両親の愛の象徴でもあります。薔薇が三輪であるのは、マリアの愛と両親の愛を象徴しているのかもしれません。穏やかに微笑む聖母を包んで天上の微光を放つかのような淡い金色のようなメダイは、両親の愛に包まれて安らかに眠る幼子が、無事にすくすくと成長するようにとの願いにぴったりではありませんか。





 本品は70年以上前のフランスで制作された真正のヴィンテージ品ですが、保存状態はきわめて良好で、突出部分もまったく磨滅せずに制作当時のまま残っています。シャンパン・ゴールドの柔らかい輝き、大きすぎず小さすぎないサイズは、どのような服装にも合う上品なペンダントとして末永くご愛用いただけます。





本体価格 8,800円 販売終了 SOLD

電話 (078-855-2502) またはメール(procyon_cum_felibus@yahoo.co.jp)にてご注文くださいませ。




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