救済史におけるマリア 「われは無原罪の御宿りなり。われは天の元后なり」 ミニマリズムによるメダイ 最大サイズの稀少な作例 43.5 x 31.0 mm フランス 1960年代



 すっきりとしたモダニズム・デザインが美しい無原罪の御宿りのメダイ。





 メダイの中心には、心臓形の孔があります。古来生命の座と考えられた心臓は、生と愛の象り(かたどり 象徴)です。本品に表されているのは聖母の心臓、すなわち聖母の汚れ無き御心であり、神とキリストに向かう愛を象徴します。




(上・参考写真) 「塵(ちり)にすぎない私が、主よ、御身に語るのでしょうか」 宗教感情の核心を主題にしたカニヴェ Parlerai-je à mon Seigneur, moi qui ne suis que poussière? Bes et Dubreuil, 110 x 72 mm フランス 1850 - 80年代 当店の商品です。


 本品において、神とキリストへの愛は強く激しい放射光に形象化されていますが、光の発生源である心臓は空間となっています。これはテオトコス(希 Θεοτόκος 神の母)として如何に特別な地位にあるといえども人間に過ぎないマリアの被造性、塵に過ぎない人間の非必然的存在様態を暗示します。





 われわれがよく知る電磁波の光は、非物質的な波として表象されます。しかしながら本品では、愛を光として形象化するにあたり、放射状に伸びる金属の枝でこれを表しています。マリア及びキリスト者の心から発して、神とキリストへと向かう愛の源は、突き詰めて言えば、人間の心ではありません。むしろ人間の心は光を浴びて輝く反射鏡であり、この鏡を照らす光は神ご自身なのです。それゆえ神ご自身である神の愛は、被造物の次元を超越する実体性ゆえに太い金属の枝として形象化され、神の愛を享受する場として空洞で表されたマリアの御心と、鮮烈な対比を為しています。





 裏面には次の言葉がフランス語で記されています。

  Je suis la Reine des Cieux.  われは天の元后なり。

  Je suis l'Immaculée Conception.  われは無原罪の御宿りなり。






 これらの言葉は中心の心臓に書かれるのではなく、光に刻まれています。本品の中心にある心臓は空間ですから文字を刻むことはできません。しかしながら心臓に文字を刻んでいない本源的な理由はそのような技術的なことではなく、むしろ「無原罪の御宿リ」及び「天の元后」という聖母の属性が、聖母自身に根拠を有する人間的性質ではないという事実によります。すなわち「無原罪の御宿リ」「天の元后」をはじめ、聖母に帰せられる諸々の属性あるいは地位・称号は、すべて神が定め給うた救済の経綸のなかで実現したことであり、その意味では神の意志に属します。





 「われは無原罪の御宿りなり」(仏 Je suis l'Immaculée Conception.)、「われは天の元后なり」(仏 Je suis la Reine des Cieux.)というマリアの言葉を、マリアの心臓にではなくむしろ神の愛のうちに刻んだ意匠は、テオトコスたるマリアの地位が救済史においてこそ意味を持つことを象徴的に表しています。マリアが果たす救済史上の役割において、「無原罪の御宿り」と「天の元后」はその始めと終わりに当たります。これら二つの称号を神の愛のうちに刻んだ本品は、《救済史におけるマリアのメダイ》に他なりません。





 通常のメダイに見られる凝った装飾や人物像を徹底的に排して、すべてを単純な線に還元した本品のデザインは、1960年代を特徴付けるミニマリズムそのものです。

 ミニマリズムはドナルド・ジャッド(Donald Clarence Judd, 1928 - 1994)、ロバート・モリス(Robert Morris, 1931 - )らに代表される芸術運動で、その思想はバウハウスの流れを汲む建築家ルートヴィヒ・ミース・ファン・デア・ローエ(Ludwig Mies van der Rohe, 1886 - 1969)の「レス・イズ・モア」("Less is more." 「最小限に切り詰めた表現によって、より豊かな内容をあらわすことができる」との意味)という言葉に集約されています。

 「レス・イズ・モア」という一見奇を衒(てら)ったレトリックは、論理学の言葉に直せば「内包が少なければ外延が大きい」という当たり前のことを言っているのであって、パラドックスと言い切ることもできません。ただ思弁の世界では当たり前であったことを、美術や産業デザインにおいて初めて具象化したことが、ミニマリズムの功績、レゾン・デートルであったといえましょう。


 Le Corbusier, La chapelle Notre-Dame-du-Haut, 1954, Ronchamp

 La Cathédrale Saint-Étienne de Bourges, XIIe - XIIIe siècles 当店の商品


 ミニマリズムのデザインによるこのメダイと、伝統的デザインによる無原罪の御宿りのメダイの間の違いは、ル・コルビュジエ (Le Corbusier, 1887 - 1965) のロンシャン礼拝堂と、ロマネスクからバロックに至る各様式の聖堂の間に見られる違いと同質のものです。ロンシャン礼拝堂が豊穣なる単純さとも呼ぶべきフォルムの美を追求するのに対し、中世以来の伝統建築たる諸聖堂は、「目で見る聖書・聖人伝」であるステンドグラスや天井画、壁画、聖像で埋め尽くされています。





 上の写真は本品を男性店主の手に乗せて撮影しています。女性が本品の実物をご覧になれば、写真で見るよりも一回り大きなサイズに感じられます。





 筆者(広川)は本品と同系統のデザインによるメダイを過去に二、三度取り扱っていますが、いずれも本品に比べて小さなサイズでした。本品は類品に比べて格段に大きく、見ごたえがあるサイズです。小さなものは時々手に入りますが、この大きさのものは筆者自身初めて目にしました。

 本品は前世紀半ばのフランスで制作された真正のヴィンテージ品ですが、古い年代にもかかわらず、保存状態は極めて良好です。特筆すべき問題は何もありません。





本体価格 22,800円

電話 (078-855-2502) またはメール(procyon_cum_felibus@yahoo.co.jp)にてご注文くださいませ。




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