極稀少品 大型メダイ 《聖ヴァンサン・ド・ポールと聖フィロメナ》 少女のための無原罪のマリア信心会 42.2 x 31.4 mm


突出部分を含む縦横のサイズ 42.2 x 31.4 mm

フランス  1847年



 少女のための信心会、レ・ザンファン・ド・マリ・イマキュレ(仏 Les Enfants de Marie Immaculée)のメダイ。レ・ザンファン・ド・マリ・イマキュレとは、フランス語で「無原罪のマリアの子供たち」という意味です。

 本品メダイはブロンズまたは真鍮でできており、突出部分を含む縦横のサイズは 42.2 x 31.4 ミリメートル、最大の暑さ 3.2 ミリメートルとたいへん立派な作例です。13.0 グラムの重量は、おおむね五百円硬貨二枚分に相当します。メダイに彫られた祈りはスペイン語ですが、浮き彫りの図柄から判断して、フランスで制作された品物と考えられます。





 メダイの一方の面には、すべての慈善団体の守護聖人、聖ヴァンサン・ド・ポール(St. Vincent de Paul, 1581 - 1660)が浮き彫りにされています。

 聖ヴァンサン・ド・ポールは十七世紀前半から半ばのフランスに生きたカトリック司祭です。この時代のフランスは十六世紀後半のユグノー戦争で社会的基盤が破壊され、庶民の生活は貧窮の極にありました。聖ヴァンサン・ド・ポールは社会的弱者を心身ともに救うために、その後半生を捧げました。





 本品の浮き彫りにおいて、聖ヴァンサン・ド・ポールは右腕を伸ばして貧しい身なりの少女と手をつなぎ、左腕には乳児を抱いています。

 1635年、ヴァンサン・ド・ポールは富裕な信徒たちからの寄付金により、パリに棄児養育院(l'Hôpital des Enfants-Trouvés)を設立しました。本品に浮き彫りにされている二人の子供は、パリの棄児(捨て子)です。七、八歳に見える少女の身なりはたいへんみすぼらしく、辛うじて体を覆うぼろ布のような服をまとっていますが、足ははだしであり、腕もむき出しで寒そうです。しかしながら少女の表情は明るく、優しく手をつないでくれる神父を見上げ、口元には慕わしい微笑みを浮かべています。ヴァンサン・ド・ポールは左腕に抱いた幼児のぬくもりを胸に感じつつ、愛し気に目を閉じて、やはり微笑みを浮かべています。無垢なる子供たちを与え給うた神に、聖人の心は感謝の祈りを捧げています。





 群像の周囲には、聖人に執り成しを求める祈りの言葉がスペイン語で刻まれています。

  San Vicente de Paúl, ruega para nosotros.  聖ビセンテ・デ・パウル、我らのために祈り給え。

 聖ビセンテ・デ・パウルとは、スペイン語で聖ヴァンサン・ド・ポールのことです。

 本品メダイは両面に浮き彫りを有しますが、いずれの面の彫刻もたいへん立体的です。慈愛に満ちた聖人の表情、聖人を慕う少女の無垢なるあどけなさ、聖人の顔に自分の顔を押し付けて甘える乳児の仕草が、メダイの一面に温かな愛をあふれさせています。神から愛と力を与えられた聖人の堂々とした様子が、古典的な衣文(えもん 衣の襞)によって強調されています。




(上・参考写真) 「イエスを愛するはわが喜びのすべて。貧者に仕うるはわが幸いのすべて」 愛徳姉妹会のカニヴェ (ブアス=ルベル 図版番号 641) "Dieu et les pauvres", Bouasse-Lebel, No. 641, 1853 105 x 67 mm フランス 1853年 当店の商品です。


 聖ヴァンサン・ド・ポールは愛徳姉妹会及びラザロ会の設立者としても知られています。聖人が 1633年に創設した愛徳姉妹会(仏 les Filles de la charité de Saint-Vincent-de-Paul)は、病者の看護及び貧者の心の救済を目的として活動しています。また 1633年に設立したラザロ会(仏 la Congrégation de la Mission)は、宣教師の養成と派遣を目的としています。

 上の写真は愛徳姉妹会のカニヴェです。愛徳姉妹会は、レ・フィーユ・ド・ラ・シャリテ(仏 les Filles de la Charité 慈愛の娘たち)という名の通り、常に弱者とともにあり、弱者を愛し、弱者を援けることを任務としています。かつてフランスの看護師は愛徳姉妹会の修道女が多数を占めていましたし、老人や障害者、孤児、中毒者、移民、ホームレス等のための施設では、現在でも愛徳姉妹会の修道女たちが大勢活躍しています。


 1837年、愛徳姉妹会及びラザロ会によって、少女のための信心会レ・ザンファン・ド・マリ・イマキュレ(仏 Les Enfants de Marie Immaculée)が設立されました。レ・ザンファン・ド・マリ・イマキュレは子供の心に確固たる宗教心を涵養することを目的とし、1847年には教皇庁から信徒団体(Une Association de fidèles)として正式に認可されました。レ・ザンファン・ド・マリ・イマキュレとは、フランス語で「無原罪のマリアの子供たち」という意味です。





 本品メダイのもう一方の面には、レ・ザンファン・ド・マリ・イマキュレの守護聖人、ローマの聖フィロメナが浮き彫りにされています。

 聖フィロメナはレ・ザンファン・ド・マリ・イマキュレの会員たちと同様に、十代前半の少女でした。本品に浮き彫りにされた聖フィロメナは、右手に十字架を掲げ、錨の上に置いた左手には弓を持っています。聖フィロメナを取り囲んで、執り成しを求めるスペイン語の祈りが刻まれています。

  Santa Filomena, ruega para nosotros.  聖フィロメナ、我らのために祈り給え。





 聖フィロメナの墓所は、1802年、ローマにある聖プリスキッラのカタコンベで見つかりました。墓所を塞ぐテラコッタの板には、錨と二本の矢が描かれていました。イエスのマリア・ルイザ修道女(Maria Luisa di Gesù)は 1833年に聖フィロメナが殉教する様子を幻視し、錨と二本の矢をフィロメナの受苦と関連付けました。このため錨と二本の矢は聖フィロメナのアトリビュート、すなわち聖フィロメナの絵や彫刻において、聖女を同定するために造形される事物となっています。




(上・参考写真) Gian Lorenzo Bernini, "L'Estasi di santa Teresa d'Avila", 1647 - 1652, marmo, 350 cm, la Capella Cornaro, Chiesa di Santa Maria della Vittoria, Roma


 イエスのマリア・ルイザ修道女の幻視を離れて考えるならば、フィロメナとともに聖画に描き込まれた三つの事物は、キリスト教の枢要徳である信望愛(「コリントの信徒への手紙 一」十三章十三節)を表しています。

 十字架は言うまでもなく信仰の象徴です。錨は希望を象徴します。矢は異教の古典古代以来、愛を象徴します。矢が象徴する古典古代の愛は本来クピードー(エロース 性愛)であってカリタース(アガペー キリスト教的慈愛)ではありませんが、ウェヌスの花であったはずの薔薇が換骨奪胎されて無原罪の聖母ロサ・ミスティカ)を象徴するに至ったのと同様に、クピードーの矢も大きな変容を遂げてカリタース(神の愛)の象徴となりました。ベルニーニ作「聖テレサの恍惚」において、ケルブが聖女に向ける矢は神の愛を象徴します。




(上・参考写真) 神に向かう愛のカニヴェ 「おとめ殉教者 聖フィロメナ」 (シャルル・ルタイユ 図版番号 475) 柔らかな光に輝くグラヴュールの名品 125 x 83 ミリメートル Sainte Philomène, Vierge et Martyr, Ch. Letaille, direction  pl. 475. E. Boumard, Éditeur Pontifical, Successeur, Paris 当店の商品です。


 上に示した写真は、パリの版元ブマール・フィスが制作したカニヴェです。このカニヴェが刷られたのは 1873年以降ですが、ブマール・フィスはフィロメナの聖画の版を、自社の前身であるシャルル・ルタイユから引き継いでいます。シャルル・ルタイユがフィロメナ像の版を制作した時期は 1840年代後半頃と思われます。

 筆者(広川)が知る限り、上のカニヴェに描かれたフィロメナ像は、実際に制作されてどこかに設置された彫刻作品ではありません。フィロメナの足下には影が表現されているので、一見したところ彫像を版画に写した作品のようにも見えますが、実はそうではなくて、カニヴェの聖画は殉教者聖フィロメナが最後の審判の日に復活し、墓所から歩み出る様子を想像によって描いています。





 本品メダイの浮き彫りは、シャルル・ルタイユ製カニヴェの聖フィロメナ像に基づき制作されています。それゆえ本品は、執り成しの祈りがスペイン語で刻まれているにも関わらず、フランスで制作された作品と考えられます。

 本品の制作時期は、おそらく 1847年でしょう。1847年は少女の信心会レ・ザンファン・ド・マリ・イマキュレが教皇庁から信徒団体(Une Association de fidèles)として正式に認可された年です。これは信心会にとってたいへん喜ばしい出来事であり、本品はこの慶事にふさわしい立派な作りとなっています。





 上の写真は本品を男性店主の手に載せて撮影しています。女性が本品の実物をご覧になれば、写真で見るよりもさらにひと回り大きなサイズに感じられます。





 本品は百六十年以上前のフランスで制作された真正のアンティーク品ですが、古い年代に関わらず、保存状態は極めて良好です。いずれの面の浮き彫りもたいへん立体的ですが、それにも関わらず突出部分の摩滅もごく軽度であり、その他の点に関しても特筆すべき問題は何もありません。

 レ・ザンファン・ド・マリ・イマキュレのメダイに施された美しい浮き彫り彫刻には、少女たちが神を愛し、隣人に仕える優しい女性になってくれるようにとの願いが込められています。本品は質の高い美術工芸品であるとともに、十九世紀ならではの聖女フィロメナを主題にしたアンティーク品でもあり、少女たちへの愛が結晶化した美しい信心具でもあります。

 筆者(広川)は長年に亙ってフランスの古い信心具を扱っていますが、聖ヴァンサン・ド・ポールと聖フィロメナを組み合わせたメダイは極めて珍しく、本品以外に目にしたことがありません。本品は筆者自身が手放し難く思う非常に珍しい作品で、お買い上げいただいた方には必ずご満足いただけます。

 当店の商品は現金一括払い、ご来店時のクレジットカード払いのほか、現金の分割払い(二回、三回、六回、十回など。金利手数料無し)でもご購入いただけます。当店ではお客様のご希望に出来る限り柔軟に対応しております。





42,800円

電話 (078-855-2502) またはメール(procyon_cum_felibus@yahoo.co.jp)にてご注文くださいませ。




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