小さな美術品 リュドヴィク・ペナン、ジャン=バティスト・ポンセ作 「聖ジュヌヴィエーヴ」 細密彫刻の美麗メダイ 直径 15.8 mm


突出部分を除く直径 15.8 mm

フランス  1910 - 30年代頃



 パリの守護聖人聖ジュヌヴィエーヴのメダイ。めっきではない銀を使用した銀無垢(ぎんむく)製品で、最も高級な部類に属する信心具です。





 一方の面には羊飼い姿のジュヌヴィエーヴを浮き彫りにし、聖女の名サント・ジュヌヴィエーヴ(Sainte Geneviève 聖ジュヌヴィエーヴ)を刻んでいます。五、六世紀に生きたジュヌヴィエーヴの本来の名前はゲノウェファ(羅 GENOVEFA)またはケノウィーファ(フランク語 *Kenowīfa)で、「ジュヌヴィエーヴ」は現代フランス語式の言い方ですが、本品では現代語形ジュヌヴィエーヴを、聖女と同時代のアンシャル体で表記しています。

 本品の浮き彫りにおいて、ヴェールを被った聖ジュヌヴィエーヴは岩の間に立てた簡素な十字架の前に跪き、右手を胸に当てて祈っています。ジュヌヴィエーヴは天にあこがれ、その視線は斜め上方に向けられています。

 聖女が右手に持っているのは牧杖にしては細いので、恐らく糸巻き棒でしょう。糸巻き棒は女性による労働の象徴です。しかしながら信仰深いジュヌヴィエーヴは羊の番をし、糸を紡ぎつつも、祈りと瞑想に耽ったことでしょう。ジュヌヴィエーヴにとって糸紡ぎは地上の労働であるとともに、信仰を紡ぐ信心業を兼ねていたことは容易に想像できます。


 ジュヌヴィエーヴに寄り添うように、二頭の羊が浮き彫りにされています。ジュヌヴィエーヴが羊飼いであったのは歴史的事実ですが、メダイに彫られた羊はキリスト者の象徴でもあります。「ルカによる福音書」十五章の冒頭では、救われるべき魂が羊に喩えられています。該当箇所を新共同訳によって引用します。

     「あなたがたの中に、百匹の羊を持っている人がいて、その一匹を見失ったとすれば、九十九匹を野原に残して、見失った一匹を見つけ出すまで捜し回らないだろうか。そして、見つけたら、喜んでその羊を担いで、家に帰り、友達や近所の人々を呼び集めて、『見失った羊を見つけたので、一緒に喜んでください』と言うであろう。言っておくが、このように、悔い改める一人の罪人については、悔い改める必要のない九十九人の正しい人についてよりも大きな喜びが天にある。」(「ルカによる福音書」 15: 4 - 7 新共同訳)





 上に引用した箇所に基づき、キリストを「善き羊飼い」として象徴的に表した作品が多く制作されています。上の写真はローマ、プラエテクスタートゥス(PRÆTEXTATUS, Pretestato)のカタコンベで見つかった石棺の彫刻で、390年頃の作品です。

 本品においても、メダイに彫られた羊たちには、ジュヌヴィエーヴの職業を表す以上の意味があります。本品のジュヌヴィエーヴはその信仰によってキリスト者の模範となり、多くの魂を救いへと導く「善き羊飼い」として表されています。羊たちは聖女の傍らで安心して憩い、聖女が立ち上がればその導くほうへと共に歩むのです。





 上の写真に写っている定規のひと目盛りは、一ミリメートルです。本品は直径十六ミリメートル弱の小品で、ジュヌヴィエーヴの顔や手は二ミリメートルにも満たない極小サイズですが、若き聖女の目鼻立ちは整い、ほっそりとした手指や薄いヴェール、流れるような衣文(えもん 衣の襞)など、すべての細部が巧みに表されています。斜め上に挙げられた聖女の視線は、地上に身を置きつつも天に属する聖女の信仰、不可視の霊的姿勢を見事に可視化しています。

 質感と遠近の表現も驚くべき水準に達しています。メダイユ彫刻は絵画と違って色彩が使えませんから、輪郭線を描かないスフマートのような表現は不可能に思えます。しかしながら本品の浮き彫りでは遠景の輪郭をぼかすことにより、空気遠近法的な表現を巧みに実現しています。手前にあるもの同士を比べても、岩肌と羊の体は質感が明らかに異なっています。本品にはメダイユ彫刻家の卓越した技術が遺憾なく発揮されており、十分に美術品と呼ばれ得る水準の作品であることがわかります。





 メダイ表(おもて)面の向かって左下、縁に近いところに二文字のイニシアル「ペ・ペ」(P. P)が刻まれています。これはリュドヴィク・ペナンとジャン=バティスト・ポンセのサインです。

 リュドヴィク・ペナン(Ludovic Penin, 1830 - 1868)はリヨン出身のメダイユ彫刻家で、豊かな才能を認められ、弱冠三十四歳であった1864年、当時の教皇ピウス九世により、教皇御用達のメダイユ彫刻家(仏 graveur pontifical)に任じられました。しかしながらその四年後、リュドヴィク・ペナンは惜しくも亡くなってしまいました。

 早逝の芸術家リュドヴィク・ペナンは 1870年代からアール・ヌーヴォーに至る時代を知らずに亡くなったわけですが、リュドヴィク・ペナンの作品は、三歳年上の同郷の芸術家ジャン=バティスト・ポンセ(Jean-Baptiste Poncet, 1827 - 1901)の手によっていわば現代化され、1870年代以降においても愛され続けました。ジャン=バティスト・ポンセは画家でもあり、メダイユ彫刻家でもある人で、ペナンに比べて都会風に洗練された典雅な作風が特徴です。ペナンの没後にポンセが手を加えて「現代化」した作品は、信心具としてのメダイによく見られ、"PENIN PONCET", "P P LYON" 等、ふたりの名前が併記されています。





 フランスにおいて純度八百パーミル(八十パーセント)の銀を表す「蟹」の検質印、及びメダイユ工房を判別する菱形のマークが、上部の環に刻印されています。信心具のメダイにおいて、銀は最も高級な素材です。

 本品は実質的に未使用の状態ですが、裏面に大きなスペースが空けてあるのは、ここに名前や日付を彫り込んで、ジュヌヴィエーヴという名前の女の子の誕生と受洗、あるいは初聖体、コミュニオン・ソラネルなどの記念とするためです。

 本品の制作時期は、数十年ないし百年ほど前と考えられます。この時代のヨーロッパは貧富の差が現代よりもさらに大きく、銀無垢メダイは普通の人にとって非常に高価でした。小さめのサイズながらめっきではない銀でできた本品は、人生の区切りとなる大切な行事の記念にふさわしい品物です。





 上の写真は本品を男性店主の手に乗せて撮影しています。女性が本品の実物をご覧になれば、写真で見るよりもひと回り大きなサイズに感じられます。





 本品は古い時代のフランスで制作された真正のアンティーク品ですが、保存状態はたいへん良好で、ほとんどの細部が鋳造当時のままの状態で残っています。特筆すべき問題は何もありません。突出部分に見られる軽度の磨滅は本品が長い歳月をかけて獲得した趣(おもむ)きであり、メダイに優しい表情を与えています。





11,800円

電話 (078-855-2502) またはメール(procyon_cum_felibus@yahoo.co.jp)にてご注文くださいませ。




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