稀少な名品 「福音宣教を始める聖フランチェスコ」「神に信頼する聖キアラ」 芸術の高みに到達したメダイユ 直径 18.7 mm


突出部分を除く直径 18.7 mm

フランス  20世紀初頭



 修道服に身を包んだふたりの聖人、アッシジの聖フランチェスコ (Francesco d'Assisi, 1182 - 1226)アッシジの聖キアラ (Chiara d'Assisi, 1194 - 1253) を浮き彫りにしたメダイ。写真では分かりませんが、本品の浮き彫りは標準的なメダイに比べてずっと浅く、打刻によるものと思われます。それにもかかわらず鋳造によるメダイと同等以上の自然さで聖人たちの姿を再現し、かつ芸術性豊かな表現に到達しているのは、ひとえにメダイユ彫刻家の優れた才能と熟練によります。



 14世紀末まで遡ることが可能な聖フランチェスコ伝「イ・フィオレッティ・ディ・サン・フランチェスコ」(I fioretti di san Francesco イタリア語で「聖フランチェスコの小さき花」)の十六章には、聖フランチェスコの宣教の始まりについて書かれています。十六章の前半を要約して引用します。

     聖フランチェスコは神が自分に何を求めておられるのか、すなわち、自分ひとりのための苦行をするように求めておられるのか、それとも世の人々に福音を伝えることを求めておられるのかを知るため、信頼する兄弟(同志)シルヴェステル (Sylvester d'Assisi, 1175 - 1240)、同じくキアラとその妹アニェーゼ (Agnese d'Assisi, 1197 - 1253) に依頼して、神から答えを得るべく祈ってもらった。自分で祈って勝手な思い込みが入り込むといけないので、第三者に祈らせたのである。

 シルヴェステル、キアラ、アニェーゼが祈りによって得た答えが、使者である兄弟(同志)からもたらされたとき、フランチェスコは跪き、頭巾を脱ぎ、腕を胸の前に交差させて祈りの姿勢を取って、その答えを聞いた。彼らが神から示された答えは一致しており、「フランチェスコは人々に福音を宣べ伝えよ」ということであった。

 そこでフランチェスコは二人の兄弟(同志)を連れて、アッシジの南にあるアルヴィアーノの町に行った。町ではツバメたちがさえずっていたので、聖人は説教が終わるまで黙っているように命じた。フランチェスコの説教を聴いた人々は、村を捨てて聖人に付き随うことを望んだが、聖人はそれを止(とど)め、町の人々が魂の救いのために為すべきことを示した。こうして人々を慰めたあと、一行はカンナーラ (Cannara) とベヴァーニャ (Bevagna) に向かった。 


 アフリカ中央部で越冬したあと、イタリアに渡り、春の訪れを告げるツバメは、聖フランチェスコの宣教の始まりを象徴するのにふさわしい鳥です。上記の逸話でツバメたちは宣教の始まりに立ち合い、聖人に協力しています。





 このメダイは一方の面にアッシジの聖フランチェスコを浮き彫りにしています。修道者姿の聖人は、頭巾を脱ぎ、腕を胸の前に交差させて、神が与え給うた使命に耳を澄ませています。神の声を聴いて従うフランチェスコの姿は、受胎告知のマリアにも似ています。フランチェスコの大きな手は神に捧げる祈りの真剣さを象徴するとともに、聖人がその手によって成し遂げる信仰の業の大きさをも象徴しています。

 横顔を取り巻いて、八羽のツバメが嬉しげに飛んでいます。「八」という数と「ツバメ」は、いずれも新しい物事の始まり、再生、春の訪れを表します。ツバメたちの嬉しげな様子は、「イ・フィオレッティ」に記録されているように、宣教の始めに立ち会った喜びを表しています。





 もう片方の面には聖キアラが浮き彫りで表されています。聖キアラは、フランシスコ会第二会(聖クララ会)の修道会則を左手に、百合を右手に、それぞれ手にしています。この浮き彫りは、ピエロ・デッラ・フランチェスカが「聖アントニオの多翼祭壇画」(「ペルージアの多翼祭壇画」)に描いた聖キアラ像に似ています。

(下) Piero della Francesca, Santa Chiara, Polittico di Sant'Antonio, 1460 - 70, oil and tempera on panel, Galleria Nazionale dell'Umbria, Perugia




 キアラが右手に持つ百合は、「純潔」「処女性」の象徴であることはよく知られていますが、この花は「神による選び」及び「わが身を神の摂理に委ねる信仰」をも表します。それに加えて本品の百合は、三つの花を咲かせることにより、三位一体の神に自らを捧げるキアラの信仰と、三位一体の神による祝福も表しています。

 キアラの女子修道会は修道院のなかで生活するという点で、旅をしながら福音を述べ伝えるフランチェスコの「小さき兄弟たち」と異なっていました。しかしキアラは「小さき兄弟たち」と同様に喜捨に頼る清貧の生活を目指しました。すなわち、この時代の修道院は、所有する広い農地、修道院内で運営する学校、修道院内で制作される手工業品で収入を得るのが普通でした。しかしながらフランチェスコは修道士が農作業や教職、物作りに携わることで、神に仕えるという第一の目的から注意が逸れてしまうと考えて、「小さき兄弟たち」の生活は喜捨によってのみ営まれるように定めました。キアラもこれと同様に、喜捨に頼る清貧の生活、あるいはより正確に言えば、神のみに頼る清貧の生活を望んだのです。

 後の教皇クレゴリウス9世となるウゴリーノ枢機卿は、1219年、キアラの会にベネディクト会のものと同様の会則を与えましたが、そこでは修道院財産の所有が許されていました。キアラはこれを嫌ってローマに請願を繰り返し、ついに 1228年9月17日、教皇クレゴリウス9世はキアラの会に「プリーヴィレーギウム・パウペリターティス」(PRIVILEGIUM PAUPERITATIS ラテン語で「清貧の特権」の意)を与えて、喜捨によって生きることを許可しました。教皇庁がこのような「特権」を与えるのは初めてのことでした。

 キアラたちに与えられた「プリーヴィレーギウム・パウペリターティス」の原本は、アッシジの聖キアラ修道院に残っています。以下に内容を示します。日本語訳は筆者(広川)によります。文意を通じやすくするために補った訳語は、ブラケット [ ] で囲みました。

     Gregorius Episcopus, servus servorum Dei. Dilectis in Christo filiabus Clarae ac aliis ancillis Christi in ecclesia Sancti Damiani Episcopatus Assisii congregatis, salutem et apostolicam benedictionem.    司教グレゴリウス、神のしもべたちのしもべが、キリストにあって愛する娘たち、すなわちアッシジ司教区聖ダミアーノ教会において共に住まうクララ以下キリストの婢(はしため)たちに、挨拶と使徒継承の祝福を[送る]。
         
     Sicut manifestum est, cupientes soli Domino dedicari, abdicastis rerum temporalium appetitum; propter quod, venditis omnibus et pauperibus erogatis, nullas omnino possessiones habere proponitis, illius vestigiis per omnia inhaerentes, qui pro nobis factus est pauper, via, veritas, atque vita.    すでに明らかなる如く、主にのみ身を捧ぐるを欲する汝らは、移ろい行く物事への欲を拒み、それゆえにすべての物を売り払い、[あるいはそれらを]貧者たちに与えて、全く何らの所有物をも持たざるを決意し、我らのために貧しくなり給い、道とも真理とも命ともなり給うた御方の足跡に、あらゆることを通して従う者たちである。
     Nec ab huiusmodi proposito vos rerum terret inopia; nam laeva Sponsi caelestis est sub capite vestro ad sustentandum infirma corporis vestri, quae legi mentis ordinata caritate stravistis.    汝等は物に乏しく貧しけれども、決意を枉(ま)げることがない。なぜなら[神にある]夫[キリスト]の左手が、汝らの身体の弱き諸部分を支えるべく、汝らの頭(こうべ)の下にあるからである。弱きそれらの部分を、愛に支配された精神の範によって、汝らは覆ったのである。
     Denique qui pascit aves caeli et lilia vestit agri vobis non deerit ad victum pariter et vestitum, donec seipsum vobis transiens in aeternitate ministret, cum scilicet eius dextera vos felicius amplexabitur in suae plenitudine visionis.    そして、空の鳥を養い、野の百合を着飾らせ給う御方は、ご自身が汝等のもとに来給いて永遠に司牧し給うまで、すなわちその右手で豊かなる至福直観のうちに汝らを抱き、より大いなる幸福に至らせ給うまで、食べ物に関しても、また同様に着る物に関しても、汝らの世話を放棄し給うことはない。
         
     Sicut igitur supplicastis, altissimae paupertatis propositum vestrum favore apostolico roboramus, auctoritate vobis praesentium indulgentes, ut recipere possessiones a nullo compelli possitis.    それゆえ汝等が請願したる如くに、より一層の貧しさを求める汝らの決意を、われらは使徒座に発する賛意を以て認め、汝らが何びとによりても所有物を受けるように強いられ得ざることを、ここなる勅許状の権威によりて承認する。
         
     Nulli ergo omnino hominum liceat hanc paginam Nostrae concessionis infringere vel ei ausu temerario contraire. Si quis autem hoc attentare praesumpserit, indignationem omnipotentis Dei, et beatorum Petri et Pauli Apostolorum eius, se noverit incursurum.    それゆえ、われらが与うる勅許に抵触し、あるいは無分別な大胆さを以てこの勅許に反対することは、何びとに対しても決して許されるべきでない。しかしながらかかる試みを敢えて為す者は、全能の神と、神の至福なる使徒ペトロ、パウロの怒りがその者に到ることを知るべきである。
         
     Datum Perusii, decimoquinto kalendas Octobris, Pontificatus nostri anno secundo.    ペルージアにて、わが教皇在位第二年の九月十七日に布告


 したがって、このメダイに浮き彫りにされたキアラが修道会則とともに手に持っている百合は、百合が有するさまざまな象徴的意味のなかでも、とりわけ「神への信頼」を表していることがわかります。神は種も蒔かず、刈り入れもせず、倉に納めもしない鳥たちを養い、栄華を極めたソロモン王にも勝る装いを白百合に与え給います(「マタイによる福音書」6章26 - 30節、「ルカによる福音書」 12章 24 - 30節)。「それとまったく同じように、神は聖クララ会を支えてくださる」という確固たる信仰を、また「『祈り』こそが神から与えられた使命である」という確信を、本品に浮き彫りにされたキアラの表情に読み取ることができます。





 本品はごく浅い浮き彫りによりますが、二人の聖人の活き活きとした姿が類品と同等以上の自然さで再現されているのみならず、何よりも非常に深い宗教的意味を表現することに成功しています。すなわちフランチェスコの肖像は「福音宣教の始まり」と「魂の新生」を、キアラの肖像は「神の摂理に対する信頼」を、それぞれ表しているのです。不可視の価値に形を与えるのが芸術であるならば、数あるメダイを差し措いて、本品はフランスが誇るメダイユ芸術の頂点に到達しています。私(広川)は聖フランチェスコのメダイをこれまでに数多く目にしていますが、本品は間違いなく最も優れた作例のひとつです。

 本品の保存状態はきわめて良好で、浅浮き彫りであるにもかかわらず、細部まですべて綺麗に残っています。写真ではあまり美しく見えませんが、実物には金属光沢があり、かといって光り過ぎず、フランチェスコとキアラの清貧と遜(へりくだ)りを思い起こさせる作品に仕上がっています。





28,800円 販売終了 SOLD

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