摩滅が可視化する信仰と歴史 《トングルにおけるプラハの幼子イエス 31.0 x 17.3 mm》 珍しい壁龕型メダイ ベルギー 1900 - 1920年代



 ベルギーはオランダとフランスの間に位置し、北半分のフランデレン地域ではオランダ語が、南半分のワロン地域ではフランス語が話されています。フランデレン地域を構成する五州のうち最も東にあるのがリンブルフ州で、マース川を隔ててオランダに接します。トングル(Tongres)はリンブルフ州の南端にあり、フランス語を話すワロン地域に接しています。

 本品はトングルの跣足カルメル会修道院に安置されていた奇跡の幼子イエス像のメダイで、壁龕風の意匠による珍しい作例です。突出部分の摩滅は長い歳月をかけて獲得されたアンティーク品ならではの特質であり、本来不可視である信仰と歴史を肌で感じさせてくれます。





 ベルギーでは 1889年以降、ガン(Gand オースト=フランデレン州の州都)、モンス(Mons エノー州の州都)、シャルルロワ(Charleroi エノー州の都市)、アントウェルペン(Anvers アントウェルペン州の州都)、リエージュ(Liège リエージュ州の州都)、シェーヴルモン(Chèvremont リエージュ州ショーフォンテーヌの巡礼地)、ブリュッセル(Bruxelles ベルギーの首都)の跣足カルメル会がプラハの幼子イエスの信心会を組織し、この年から 1893年まで、信心会の印刷所で「クロニーク・デュ・カルメル」(Chroniques du Carmel カルメル年鑑)という機関紙を刷って発行しました。ブリュッセルでは 1895年に幼子イエスのバルナバ修道会(La congrégation des pères Barnabites de l'Enfant Jésus)が設立され、1897年には同会修道院付属の礼拝堂が幼子に奉献されました。

 1894年10月25日、イエスとマリアのいとも聖なる御心姉妹会(La congrégation des sœurs de SS. Cœurs de Jésus et de Marie)がトングルに修道院を開設しました。修道院の開設と時を同じくして、付属聖堂にプラハの幼子イエス像が安置され、1898年からは「神なる幼子イエスの小信心会」(La Petite Œuvre du divin Enfant Jésus)と題する印刷物が定期的に刊行されました。この刊行物は後に「出会い」(Rencontre)と改題され、宣教に大いに役立ちました。





 2003年になって、イエスとマリアのいとも聖なる御心姉妹会のトングル修道院は閉鎖されることが決まり、幼子イエス像は 2004年10月25日にプレモントレ会のトンゲルロ修道院(L'abbaye de Tongerlo)付属聖堂に移されて、「出会い」も修道院の刊行物「トンゲルロ」(Tongerlo)に吸収されました。トンゲルロ修道院はトングルから北西に四十キロメートル離れたウェステルロ(Westerlo フランデレン地域アントウェルペン州)にあります。トンゲルロ修道院の幼子イエス信心会(L'Œuvre de l'Enfant Jésus)では現在も聖画の制作が行われています。


 かつてトングル修道院にあり、現在はトンゲルロ修道院に移された幼子の像は、プラハの幼子イエスをそのまま再現しています。本品メダイも表(おもて)面の浮き彫りを見ただけでは通常よく手に入るプラハの幼子のメダイと区別がつきません。

 本品独自の特徴としてまず目につくのは、壁龕を模った装飾的なシルエットです。メダイをはじめとする信心具の形態にも時代ごとの特徴があります。本品の装飾的な形態は十八世紀の工芸品を想起させます。このような形状のメダイはここ数十年は制作されず、本品は百年あるいはそれ以上前の物と思われます。

 幼子の頭上と足下にはプッティ(有翼の童子)として表された四人ケルビムが見えます。ケルビムは地上に於ける神の座ですから、イエスの足下にいる二人のケルビムは、イエスが神であることを表しています。幼子は左手に世界球を持ち、右手を挙げて人々を祝福しています。世界球は全宇宙に対する神の支配権を象徴しますから、世界球がイエスの手に乗っている有様は、イエスが全宇宙の支配権を有する創造主であることを表します。





 裏面に併記された二つの地名、トングル(Tongres)とトンゲレン(Tongeren)は同じ町を指します。トングルはフランス語名、トンゲレンはオランダ語名です。本品メダイの幼子イエス像は現在トンゲルロのプレモントレ会修道院に移されていますが、本品メダイが制作された二十世紀初頭には、跣足カルメル会トングル修道院に安置されていました。





 上の写真は本品を男性店主の手に載せて撮影しています。女性が本品の実物をご覧になれば、写真で見るよりもひと回り大きなサイズに感じられます。







 本品は百年以上前に制作された真正のアンティーク品で、近年のメダイに見られない古風な意匠と、現代の品物とは一線を画する趣(おもむき)、美しい均一の古色を有します。

 突出部分が摩滅した状態は、不可視の信仰と時間が目に見える形となって現れたものです。本品はヨーロッパにあっておそらく二度の世界大戦を潜り抜けました、幼子イエスは戦時中も戦後も百年以上の長きに亙って、メダイを身に着ける人に祝福を与え続けました。本品は古き良きヨーロッパのメダイユ工芸品であるとともに、その摩滅は本品だけが持つ独自の歴史性を証しています。





本体価格 8,800円

電話 (078-855-2502) またはメール(procyon_cum_felibus@yahoo.co.jp)にてご注文くださいませ。




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