パリとフランスの守護聖女、聖ジュヌヴィエーヴよ、われらのために祈りたまえ (ヴーヴ・D・ソディノ 図版番号 1053)

Sainte Geneviève, patronne de Paris et de la France, priez pour nous, Veuve D. Saudinos


110 x 70 mm

フランス  1880年代



 今日では考えられないほど細密なオー・フォルト(エッチング)によるパリとフランスの守護聖女、聖ジュヌヴィエーヴカニヴェ。普仏戦争(1870 - 1871年)とパリ・コミューン(1871年)のあと、カトリック信仰が復興した時代のフランスで制作されたもので、宗教的敬虔と愛国の情が結びついた時代を映す作品です。





 羊飼いとして描かれた聖女は、左手の棒に付けた羊毛を右手のつむ(紡錘)で紡ぎながら、神を思って天上に目を向けています。胸元に着けているメダイは、オセールの聖ジェルマン (St. Germain d'Auxerre, c. 380 - 448) が 429年にナンテールに立ち寄った際、少女ジュヌヴィエーヴに与えたものです。

 羊たちは優しい聖女を慕って身を寄せ、安らいでいます。聖ジュヌヴィエーヴは少女時代に羊飼いの仕事をしていました。糸紡ぎも当時の女性の代表的な仕事です。それゆえこのカニヴェの画像は、若き日の聖ジュヌヴィエーヴの、世俗における暮らしを再現的に描いたものでもありますが、それと同時に、日々の祈りによって信仰と聖性を紡ぎ、羊、すなわち一般信徒たちを導く聖女の姿を象徴的に表しています。羊たちの姿は実物よりもずいぶん小さく描かれていますが、これはカニヴェの画面が小さいという空間的な制約に加え、聖女を大きく描いて卓越した聖性と徳を視覚的に表現する工夫でもあります。

 さらにこのカニヴェには、宗教的メッセージとともに、愛国的なメッセージも籠められています。聖ジュヌヴィエーヴはパリ近郊のナンテール出身であるにもかかわらず、このカニヴェにおいてはアルザスを思い起こさせる装い、すなわちゆったりとした袖の白いブラウスと、首元が四角く開いたコルスレ(胴衣)を身に着けています。

 フランスは普仏戦争(1870 - 1871年)でプロイセンに惨敗し、アルザス、ロレーヌを失いました。本品が制作された1880年代は、普仏戦争の記憶もまだ生々しく、宗教に回帰するとともに愛国心に燃える当時のフランスで、「神よ、罪深きフランスを救い給え」との祈りを籠めたカニヴェが数多く作られた時代でした。本品の裏面にも、これに類した愛国的な祈りが記されています。

 この時代的な特徴は、本品の図像にも表われています。すなわち聖ジュヌヴィエーヴがパリ市とナンテール司教区の守護聖人であることはよく知られていますが、本品においてはパリのみならずフランス全体の守護聖人であることが強調され、アルザス風の衣装を着ています。聖女のこの装いは、本品が製作された時代の、フランスにおける愛国心の高揚と無関係ではありません。





 版画技法について見れば、聖画全体が非常に細かいオー・フォルト(エッチング)で製作されています。カニヴェは画面が小さく、至近距離で鑑賞される聖画であるために、カニヴェの版画はいずれの技法による場合でも非常に細密です。本品も例外ではなく、グラヴュール(エングレーヴィング)に引けを取らない繊細さには、目を見張らせるものがあります。

 上の画像は実物を数十倍の面積に拡大してあります。定規のひと目盛は1ミリメートルです。線は1ミリメートルあたり4本前後、スティプル(点描)は1ミリメートル四方に十数個を数えることができます。聖女の顔の造作は概(おおむ)ね 3 x 4 ミリメートルの範囲に収まる小さなサイズですが、眼、鼻、口の周辺にできた陰翳もまったく自然で、非の打ちどころない美しく整った顔立ちに仕上げられています。眼は約0.5ミリメ-トルの直径に虹彩と瞳を描き分け、明るい色の虹彩には光が反射しています。幅0.8ミリメ-トルの唇はふっくらと柔らかい丸みを帯び、形が美しく整っています。

 切り紙細工について見るならば、本品の特徴は、様式が異なる四つないし五つの部分に分かれることです。すなわちカニヴェ外周の上部においては、切り紙細工が輪郭とエンボス(型押し)によって、葉が繁る木の枝を写実的に表し、聖画中に描かれた木の上部と一体化しています。カニヴェ外周の中ほどの部分においては、いずれも聖母の象徴である百合と薔薇が、写実的な輪郭とエンボス(型押し)の切り紙細工により、向かって右と左にそれぞれ表されています。カニヴェ外周の下部は、様式化された唐草模様に縁取られています。さらに聖画中、聖女の上半身の背景にあたる部分は、幾何学的な細かいパターンの繰り返しによって埋め尽くされています。切り紙細工の様式にこのような変化を付けることにより、観る者を飽きさせないリズムと美しい調和が、カニヴェ全体に産み出されています。

 聖画のすぐ下には、次の言葉が刻まれています。

  Sainte Geneviève  聖ジュヌヴィエーヴ

  Veuve D. Saudinos, Editeur, 6, St.-Sulpice  版元 ヴーヴ・D・ソディノ サン・シュルピス広場六番地






 カニヴェの裏面には祈りの言葉がフランス語で書かれています。内容は次の通りです。


    Prière à Sainte-Geneviève.   聖ジュヌヴィエーヴへの祈り
       
     Grande Sainte-Geneviève, nous nous mettons sous votre protection, nos pères vous ont appelée la Patronne de Paris et de la France; c'est sous ce titre que nous vous invoquons.    聖性優れたるジュヌヴィエーヴよ、私たちを御身の保護に委ねます。私たちの父祖は御身をパリとフランスの守護聖人と呼びました。私たちはこの名によって御身に祈りを捧げます。
    Protégez nos familles , nos maisons, notre Pays, la France, et l'Eglise entière.   私たちの家族を、家庭を、祖国フランスを、教会全体をお守りください。
    Détournez de nous les malheurs qui nous menacent; obtenez-nous par vos prières une vie tranquille et chretienne, une mort salutaire et la grâce du paradis.   私たちを脅かす災厄を遠ざけてください。御身の祈りによって、平安なるキリスト者の生活と、救いに至る死と、天国の恩寵を私たちに与えてください。
    Ainsi soit-il.   アーメン。
     
    Sainte Geneviève, patronne de Paris et de la France, priez pour nous. (Trois fois)    パリとフランスの守護聖人、聖ジュヌヴィエーヴよ、われらのために祈りたまえ。(三回繰り返す)
       
    Le Curé de Saint-Etienne-du-Mont,
L'abbé PERDREAU
  サン=テティエンヌ=デュ=モン教会主任司祭
ペルドロー神父
       
    Veuve D. Saudinos, 6, place St-Sulpice   ヴーヴ・D・ソディノ サン・シュルピス広場 6番地


 本品は極めて良好な保存状態です。周囲の切り紙細工に数か所の小さな破断がある程度で、大きな問題は無く、ほぼ完品といえます。エンボスを伴う切り紙細工、オー・フォルトによる聖画とも見事ですが、カニヴェが制作された1880年代におけるフランス社会の精神状況を色濃く反映している点でも、貴重な聖品といえます。





カニヴェのみの価格 25,800円

電話 (078-855-2502) またはメール(procyon_cum_felibus@yahoo.co.jp)にてご注文くださいませ。別料金にて額装も承ります。




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