多色刷り石版による小聖画 「ケルビムに見守られてオルガンを奏でる聖セシリア」


105 x 65 mm

フランス  19世紀後半



 表(おもて)面は多色刷りの石版画で、ふたりのケルビムに見守られてパイプオルガンを奏でる聖セシリアを、金彩の枠のなかに描きます。表(おもて)面下部にはフランス語で「サント・セシル」(Sainte Cécile 聖セシリア)と書かれています。聖画の右下に二本、折れ曲がった跡があります。また右端の中ほどの高さのところにも折れ曲がった跡があります。裏面は白紙です。

 オルガンを奏でる聖セシリアは14世紀以降に頻繁に見られる図像表現で、ラテン語聖セシリア殉教伝の次の一節に基づくと考えられています。

  CANTANTIBUS ORGANIS ILLA IN CORDE SUO SOLI DOMINO DECANTABAT. オルガンが鳴り響く中、彼女はその心のうちで神にのみ向かって歌った。




(上・参考画像) Carlo Dolci (1616 - 1686), St. Cecilia at the Organ, 1670, oil on canvas, 126 x 99.5 cm, Hermitage Museum. St. Petersburg


 本品のセシリア像は、上に示すカルロ・ドルチの作品を参考に描かれています。この作品において聖女が弾いているオルガンは、聖堂内の身廊前部に置かれる「据え置き型オルガン」(伊 organo positivo 仏 orgue positif)です。近代語の「ポジティーヴォ」「ポジティフ」等は、ラテン語の動詞「ポーノー」(PONO, -ere, posui, positum 「置く」の意)のスピーヌム幹あるいは完了分詞幹に形容詞語尾が付いた形で、「(手に持たずに)置くオルガン」という意味です。大抵の据え置き型オルガンはアップライト・ピアノを少し高くしたぐらいのサイズで、大オルガンよりもはるかに小さく、移動が可能です。据え置き型オルガンには本品に描かれているような独立式のものもありますし、別の台に載せて使われるものもあります。鍵盤はほとんどの場合一段です。しかしながら携帯用オルガンと比べると、据え置き型オルガンの音域は広く、両手を使ってポリフォニー(多声)音楽を演奏することができます。


 ところでセシリアは音楽の守護聖人であるゆえに、この聖画でオルガンを弾いているわけですが、「音楽」をオルガンで象徴する場合、「据え置き式オルガン」よりもむしろ「携帯用オルガン」を描くのが普通です。「携帯用オルガン」(伊 organo portativo, organetto 仏 orgue portatif)は、単旋律の聖歌を奏でる小さなオルガンで、鍵盤の反対側にふいごが付いており、奏者はこれを動かしながら演奏します。近代語の「ポルタティーヴォ」「ポルタティフ」は、ラテン語の「ポルトー」(PORTO FEROの反復動詞 「身に着ける」「持ち運ぶ」の意)に由来します。「オルガーノ・ポルタティーヴォ」とは、「手に持つオルガン」という意味です。




(上・参考画像) Raffaello, "L'Estasi di santa Cecilia", c. 1514, olio su tavola trasportata su tela, 236 x 149 cm, Pinacoteca Nazionale, Bologna


 上に示すのはラファエロによる油彩「聖セシリアの脱魂」です。ラファエロはこの作品においてさまざまな楽器を描いていますが、それらはいずれも完全な状態ではありません。この作品に描かれた諸々の楽器はメメントー・モリー(死を象徴するもの)であり、地上の感覚的世界を象徴しています。ラファエロは楽器を壊れた状態に描くことで地上の生の儚さを強調し、ここに描かれている聖人たち、すなわち向かって左から右に、使徒パウロ、使徒ヨハネ、セシリア、アウグスティヌス、マグダラのマリアの「エクスタシス」(ἔκστασις 脱魂、恍惚)を強く印象付ける作品に仕上げています。

 ラファエロは聖セシリアの手に携帯用オルガンを持たせています。ラファエロがさまざまな楽器から携帯用オルガンを選んで聖セシリアに持たせた理由は、この聖女に関連する聖務日課の祈りにオルガンが登場することに加え、美術表現において諸々の楽器を代表するのが携帯用オルガンであるという事情によります。携帯用オルガンは音楽を擬人化した女性像「ムシカ」(MUSICA) のアトリビュートとして、写本挿絵などに最もよく描かれる楽器です。ラファエロはセシリアに持たせた携帯用オルガンによって、すべての音楽を視覚的に表しています。





 本品の画家はラファエロではなくカルロ・ドルチの作品に倣ってこの小聖画を描き、聖セシリアに携帯用オルガンではなく据え置き型オルガンを弾かせています。本品の画家が聖女に据え置き型オルガンを弾かせている理由は、本品が信心具であるからです。

 既に述べたように、携帯用オルガンの演奏者は左手でふいごを動かしながら、右手で単旋律の音楽を演奏します。これに対して据え置き型オルガンは音域が広く、両手を使ってポリフォニー音楽を奏でることができます。据え置き型オルガンのふいごはオルガンの裏側にあり、奏者とは別の人がふいごを操作します。演奏者は鍵盤を操作してパイプの弁を開閉させ、ふいご係が送る空気を、神を賛美する音楽、祈りの音楽に変えます。

 聖画は聖人に執り成しを求めるための信心具です。聖人は信徒の祈りを神に取り次ぎ、信徒は聖人と共に神を賛美します。聖セシリアの聖画を見る人は、聖セシリアに執り成しを求め、聖セシリアと共に神を賛美します。この聖画においてオルガンのふいごを動かしているのは、聖セシリアに執り成しを求める人自身です。本品の原画を描いた画家は、聖女に据え置き型オルガンを弾かせることにより、聖女に執り成しを求める人を聖セシリア伝の世界に参加させ、神への祈りと賛美を聖セシリアと共に捧げさせているのです。


 聖画は良質な中性紙に刷られており、変色は見られません。百数十年前のアンティーク紙製品としては十分に良好な保存状態です。





簡易な額装付 本体価格 6,800円 販売終了 SOLD

電話 (078-855-2502) またはメール(procyon_cum_felibus@yahoo.co.jp)にてご注文くださいませ。




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