すみれのクロワ・ジャネット ヴィーナスの涙の下げ飾り付き 大型の作例 82.0 x 47.5 mm


十字架の突出部分と下げ飾りを含む全体のサイズ 縦 82.0 x 横 47.5 mm

十字架と下げ飾りを含む最大の厚み 5.0 mm


十字架と下げ飾りを含む重量 20.6 g (紐またはチェーンを除く)


フランス  1950年代



 十九世紀のクロワ・ジャネットを、二十世紀によみがえらせた作品。十九世紀の単なる復刻ではなく、フランスにおけるキリスト教ジュエリーの伝統に現代の命を吹き込んだクレアシオン(仏 création 創造的作品)です。


 当店の販売済み商品


 ガロ=ロマン期以降、中世、近世に至るまで、フランスに住む一般の人々が、ジュエリーをはじめとする金製品を所有することはありませんでした。フランス革命後しばらく続いた混乱期には、金製品の所有は死に値する罪とされました。しかしながら 1814年に王政が復古して社会が安定したこと、この頃以降にイギリスから産業革命が伝わって経済が発展したことにより、豊かになった諸地方(パリ、ノルマンディー、アルザス、プロヴァンス)では、それぞれの地域に固有の意匠に基づくジュエリー、ビジュ・レジオノ」(仏 bijoux régionaux 「地域のジュエリー」の意)が発展しました。

 いっぽう、経済発展が遅れた諸地方では、「ビジュ・レジオノ」が発達する時間的余裕が無かったので、パリやニオールで作られたクロワ・ジャネット(仏 croix jeannette 「ジャネット十字」の意)が普及しました。上の写真は当店の販売済み商品で、パリまたはニオールで作られた典型的なクロワ・ジャネットです。このタイプのクロワ・ジャネットは、十九世紀後半のフランスで最も普及したクロワ・ド・クゥ(首飾り用十字架)であり、ベル・エポック頃までの古き良きフランスを思い起こさせる品物といえます。


 当店の販売済み商品


 クロワ・ジャネットはどれも同じ形をしているわけではありません。クロワ・ジャネットにはっきりとした定義はありませんが、十九世紀においては「クロワ・ド・クゥ」とほぼ同義です。「クロワ・ド・クゥ」(仏 croix de cou)とは首に懸ける十字架形ペンダントのことで、信心具よりもむしろビジュ(仏 bijoux ジュエリー)の性格が強い品物です。クロワ・ド・クゥ、あるいはクロワ・ジャネットには貴金属や宝石を使った豪華な作例もあります。上の写真はそのようなもののひとつです。十字架の各末端に小さな飾りが突出した形状は、フランスのクロワ・ド・クゥ、あるいはクロワ・ジャネットの特徴です。





 本品はブロンズを鋳造した十字架に、ブロンズ製の花と下げ飾りを取り付けて作られています。十字架の各末端近くが円盤状に広がり、その外側に小さな飾りが突出した形状は、クロワ・ド・ジャネット、すなわち十九世紀フランスのクロワ・ド・クゥの特徴です。また本品の最下部には下げ飾りがありますが、これもクロワ・ド・ジャネットによく見られる特徴です。

 十字架に取り付けたキリスト像を、ラテン語で「コルプス」(羅 CORPUS)といいます。十九世紀のクロワ・ジャネットはコルプスを有しませんでした。本品も、一見したところ、コルプスを持たないように思えます。しかしながら本品においては十字架上に並ぶ六輪の花がちょうどコルプスの位置を占めており、これらの花がキリストを象(かたど)ると考えることもできます。なぜならば本品に咲く六輪の花はすみれ色ですが、青が天の色、赤が地の色であるのに対し、青と赤の中間色である紫は天地をつなぐ色であるゆえに、すみれ色(紫色)の花は、神・人二性を有するキリストを象徴するのにふさわしいからです。

 すみれの花の中心、及び十字架末端に突出した飾りには、明色のルビーのように華やかなピンクのストラス(ラインストーン、ペースト)が取り付けられています。ストラスはいずれもラウンド・カットですが、近年のブリリアント・カットよりもファセット数が少ないシングル・カットです。したがって本品の制作年代は 1950年代以前と考えられます。





 下げ飾りのストラスはペア・カット(洋ナシ型のカット)で、ブロンズの台座にプロング・セット(爪留め)されています。写真では分かりづらいですが、ラウンド・カットのストラスが明るいピンク色であるのに対し、下げ飾りのストラスは貝紫の色をしており、下の写真のアメシストに似ています。


(下) カラー・チェンジ・アメシスト 22.38カラット 23.7 x 14.7 mm 当店の商品




 大プリニウス (Gaius Plinius Secundus, 23 - 79) は「博物誌」(NATURALIS HISTORIA) 第37巻40節でアメシストについて論じています。該当箇所のラテン語原文を、和訳を付して下に示します。和訳は筆者(広川)によります。分かりやすい訳文にするために補った語は、ブラケット [ ] で囲いました。

     causam nominis adferunt quod usque ad vini colorem accedens, priusquam eum degustet, in violam desinat fulgor, alii quia sit quiddam in purpura illa non ex toto igneum, sed in vini colorem deficiens. perlucent autem omnes violaceo decore, scalpturis faciles.    [アメシストという]名の由来は、その輝きが葡萄酒の色へと向かいつつも、葡萄酒の色に至らず、すみれ色に留まるからだと説明される。他の人々の説明では、アメシストの紫にはあまり強い輝きが無く、暗い葡萄酒の色をしているからである。しかしながらすべてのアメシストは美しいすみれ色で、彫刻しやすい石である。
     Indica absolutum Phoenices purpurae colorem habet. ad hanc tinguentium officinae dirigunt vota. fundit [colorem] autem aspectu leniter blandum neque in oculos, ut carbunculi, vibrantem [colorem].    インド産アメシストは「フェニキア紫(訳者註 貝紫のこと)」の完全な色を有する。染色業者たちの仕事場は、この「フェニキア紫」を得ようと努めている。インド産アメシストを眺めると、魅惑的[な色]を柔らかく注ぎ、カルブンクルス(訳者註 ルビー)のように、眩ませる[色]を目に注ぐことはない。
     ... quando praecellens debeat esse in suspectu velut ex carbunculo refulgens quidam leniter in purpura roseus nitor. tales aliqui malunt paederotas vocare, alii anterotas, multi Veneris genam.    (中略) 優れたアメシストは[宙にかざして]仰ぎ見られたとき、あたかもカルブンクルスからのように、薔薇色のある種の光輝が、紫のうちに柔らかく照り返すのでなければならない。このような石を「プラエデローテース」(訳者註 「偏愛」「お気に入り」の意)、あるいは「アンテロース」(訳者註 「報われた愛」「愛に対して返される愛」の意)と呼びたがる人たちもいるが、多くの人は「ウェネリス・ゲナ」(羅 Veneris gena 「ウェヌスの目(あるいは頬)」の意)と呼んでいる。




(上) Léon Bazille Perrault (1832 - 1908), "Vénus à la colombe"


 プリニウスによると、薔薇色の光輝が紫のうちに柔らかく照り返す最上のアメシストは、「ウェヌスの目」(VENERIS GENA ウェネリス・ゲナ)と呼ばれます。ウェヌスは、愛と美の女神ヴィーナス(アフロディーテ)のことです。本品の下げ飾りはストラスであってアメシストではありませんが、ヴィーナスの目からこぼれ落ちた涙のようにも見えます。


  Louis-Marie Le Leuxhe, "Joséphine Noël (1853 - 1934)", huile sur toile, 1892, L'écomusée de l'île de Groix, Île de Groix, Bretagne


 十九世紀のフランス人女性たちは、ペンダントを首に懸ける際、金をはじめとする金属製チェーンを使うことはめったに無く、黒いリボンを愛用しました。クロワ・ジャネットをはじめ、十九世紀のビジュ・レジオノも、黒いリボンと組み合わせて用いられるのが普通です。上の写真は 1892年に描かれた肖像画です。モデルの女性はクロワ・ジャネットに黒いリボンを合わせています。





 本品は二十世紀中頃の作例ですが、十九世紀の伝統に基づいて制作されたクロワ・ジャネットですので、黒を始めとするリボンが良く似合います。十字架のサイズが大きめですので、首元よりも下、胸のあたりに下げるのが良いと思いますが、その場合はリボンが頭から被れる長さになりますので、留め金を付ける必要もありません。黒、ブラウン、白、レース素材、ベルベット素材など、季節や気分に合わせてリボンを取り換えればコーディネイトの幅が広がります。





 金属製チェーンが必要であれば、当店の商品を取り合わせてお譲りすることも可能です。上の写真に写っているチェーンは本品と同時代のフランスのもので、素材も十字架と同じブロンズ製です。このチェーンの長さは46センチメートルで、四か所にロザリオの珠のようなガラス・ビーズが挿入されています。このチェーンは別売りですが、本品(クロワ・ジャネット)をお買い上げいただいた方には 1,000円でお譲りいたします。





 本品はおよそ六十年以上前のフランスで制作された真正のヴィンテージ品ですが、保存状態は極めて良好です。特筆すべき問題は何もありません。クロワ・ジャネットの面影を濃く留める、フランスならではのビジュ(ジュエリー)です。





25,800円 販売終了 SOLD

電話 (078-855-2502) またはメール(procyon_cum_felibus@yahoo.co.jp)にてご注文くださいませ。




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