【上】 ここまでの五枚は、一方の面の写真。


【下】 次の四枚は、もう一方の面の写真。二面は同様の丁寧さで制作されています。















両面を彩るエマイユ・クロワゾネ 《死に打ち勝つ生命樹 光を放つ十字架型ペンダント 50 x 38 mm》 日本趣味のアール・ヌーヴォー、または明治期の日本製 十九世紀末から二十世紀初頭


突出部分を含むサイズ 縦 50 x 横 38 mm   厚さ 5 mm

重量 11.8 g


十九世紀末から二十世紀初頭



 中空に制作した真鍮製十字架に、乳白色のガラス・エマイユを被せたクロワ・ド・クゥ(仏 une croix de cou 十字架形ペンダント)。大きなサイズの作例で、重厚な厚みがあります。制作地と年代はアール・ヌーヴォー期のフランス、または明治期の日本です。





 本品のエマイユはクロワゾネによりますが、同技法は制作に手間がかかるため信心具に用いられることは稀で、美しく且つ稀少な工芸品となっています。両面は同じ意匠で、細工の丁寧さも同様です。

 エマイユ・クロワゾネ(仏 émail cloisonné)という名称は、フランス語で「仕切り」「隔壁」を表すクロワゾン(仏 cloison)に由来します。エマイユは七宝焼きのことですから、エマイユ・クロワゾネは「仕切り七宝」という意味です。エマイユ・クロワゾネの制作は、ごく薄い真鍮板を切って、ちょうど腕時計の主ぜんまいのような、長くて幅の狭いリボン状にします。これを用いて土台となる銅板の上に絵の輪郭を描き、輪郭の内外に異なる色のフリット(ガラス粉)を入れて焼成し、多色のエマイユを得ます。本品に使われているフリットは、青、白、赤、緑、黄の五色です。





 本品はフランスにあったもので、制作時期は十九世紀末から二十世紀初頭です。蔓(つる)植物を主要モティーフとした曲線のみの意匠、十字架中央交差部に描かれた花の形状と配色に、日本の七宝工芸の強い影響が見られます。フランス製であるとすれば、おそらくリモージュで制作されたアール・ヌーヴォー期の作品ということになります。アール・ヌーヴォー期のフランスでは、ファリーズ・フレールの作品に見られるように、輸入品と見紛う日本趣味の品物が制作されていました。

 しかしながら本品のシルエットは十字架の横木が長いうえに、かなり下がった位置に付いており、西ヨーロッパのラテン十字にしては変わった形です。それゆえ筆者(広川)は本品の制作地について判断を迷っています。本品は日本趣味のフランスで制作された物かもしれませんし、明治時代の日本で制作されてフランスに輸出されたのかもしれません。


 本品十字架は五ミリメートルの厚みがあり、側面にも乳白色のエマイユが施されています。両面のエマイユにも側面のエマイユにも、ひび割れや剥落等の問題は何もありません。





 本品の制作工程は、次の通りです。

    1.    真鍮の薄板を二本の十字架形に打ち抜く。
2.  幅広リボン状の真鍮を曲げて十字架形の枠を通り、1.を溶接して中空の十字架とする。上部に環状の突起を溶接する。
3.  中空の十字架の両面に、リボン状の仕切りを立てて模様を描く。
4.  中空の十字架の両面に、各色のフリット(粉末ガラス)を置く。両面を隔てる部分にも、フリットを厚めに塗布する。
5.  窯に入れて焼成する。
6.  窯から出して冷却した後、十字架の両面を研磨して、完全に平坦な表面を得る。






 本品のクロワゾネは五か所に花の意匠があり、キリストの五つの傷を想起させます。赤は愛を、青は智を、緑は生命を、金(黄)は栄光を象徴します。キリストの体の位置にある植物は、生命樹と見ることができます。蔦(つた)や蔓(つる)草が石造物を覆うように、本品の生命樹は十字架に這い登り、その表面を覆います。十字架が死の象徴であるとすれば、十字架を覆い尽くす蔓状の生命樹は、死に対するキリストの勝利、すなわち死に打ち勝つ生命を象徴的に可視化しています。

 本来死の象徴であったはずの十字架は、本品において純白に輝いています。本品が制作された十九世紀は聖母マリアの無原罪性がとりわけ強く意識された時代で、聖画像に描かれる聖母の衣の色も青や赤から純白に変わりました。真っ白いエマイユを施された本品の十字架は、受難のイエスを抱きしめるピエタの聖母を思わせます。このように考えれば、本品の十字架は罪の象徴ではなく、むしろ罪無き聖母の象徴となります。

 これら二つの解釈は互いに矛盾するものではありません。本品の白い十字架は、生命樹に覆われて聖化され、再生する人の魂を表すとともに、救い主を抱く無原罪の聖母の象徴でもあります。このような意味の重層性は、多くの信心具に見られる特質です。





 上の写真では本品を男性店主の手に載せて撮影しています。女性が本品をご覧になると、もうひと回り大きなサイズに感じられます。

 本品のようなクロワ・ド・クゥ(仏 une croixde cou 十字架型ペンダント)はキリスト教を文化的背景としつつも、信心具ではなく装身具ですので、どなたにも気軽にお使いいただけます。





 本品は十九世紀末ないし二十世紀初頭に制作された真正のアンティーク品ですが、古い年代に関わらず、保存状態はきわめて良好です。エマイユを施した十字架は、曲がると胎(下地の金属)からガラスが剥離し、エマイユが破損するので注意が必要ですが、本品は丈夫に作られており、曲がらないので安心です。11.8グラムの重量は百円硬貨二枚と一円硬貨二枚の合計に等しく、手に取ると心地よい重みとともに重厚さを感じますが、ペンダントとして重すぎることは無く、日々ご愛用いただだけます。

 信心具のエマイユはシャンルヴェ(champlevé)が多いですが、本品は時間と手間がかかるクロワゾネによって複雑なパターンを制作しており、珍しい作例です。お買い上げいただいた方には必ずご満足いただけます。





28,800円

電話 (078-855-2502) またはメール(procyon_cum_felibus@yahoo.co.jp)にてご注文くださいませ。




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