リジューの聖テレーズ(幼きイエスの聖テレジア)の遺体に触れさせた布の小片を、第三級聖遺物として封入したルリケール。リジューのカルメル会修道院で、丁寧な手作業により、修道女たちがひとつひとつ制作したものです。
サシエ(小袋)の一方の面には次の言葉をフランス語で記し、銘板を思わせる長方形の枠で囲んでいます。
Étoffe ayant touché à SAINTE THÉRÈSE DE L'ENFANT JÉSUS 幼きイエスの聖テレジアに触れた布地
テレーズの実姉たちを含むリジューのカルメル会員たちが、二枚の布を赤い糸で丁寧に縫い合わせ、この小袋を手作りしています。
もう一方の面には中央に跣足カルメル会の紋章を置き、これを囲む楕円の帯にはカルメル会修道院(仏 Monastère des Carmélites)、カルヴァドス県リジュー(Lisieux,
Carvados)の文字がフランス語で書かれています。北フランスのリジューはノルマンディー地域圏カルヴァドス県の町で、聖テレーズが属したカルメル会修道院の所在地です。
聖遺物が入っていることは、袋を触ればわかります。上は本品を透過光で撮影した写真で布の小片が確認できます。
小袋上部の環には、クラシカルな様式の真鍮製メダイが取り付けられています。メダイは八角形ですが、一方の面には花弁状の縁が造形され、内部の画面にテレーズ像が浮き彫りにされています。
テレーズの実姉ポーリーヌ(Pauline, 1861 - 1951)、修道名アニェス・ド・ジェジュ(仏 Agnès de Jésus イエスのアグネス)はカルメル会リジュー修道院の院長となりましたが、トラピスト会の彫刻家マリ=ベルナール修道士はアニェス院長の依頼により、薔薇とクルシフィクスを抱くテレーズ像をリジュー修道院の中庭に制作しました。本品メダイに浮き彫りにされたテレーズはこの像をモデルにしています。
テレーズの浮き彫りには、青色半透明ガラスによりエマイユ・シュル・バス=タイユが施されています。聖テレーズは人を驚かせるような奇跡によらず、小さき花のような聖徳によって聖人とされました。本品エマイユの青は限りなく深い天空の色です。青色エマイユによって奥行を増した浮き彫り像は、小さき花テレーズの崇高な精神を視覚化しています。
メダイのもう一方の面にはリジューにある聖テレーズのバシリカ(仏 La Basilique Sainte-Thérèse de Lisieux)が浮き彫りにされています。バシリカ(仏 une basilique)とは特に重要な地位にあると認められる聖堂のことです。
聖テレーズのバシリカの建設はテレーズ列聖の四年後である 1929年9月30日に始まり、1937年に献堂されました。バシリカが最終的に完成したのは第二次世界大戦を挟んで
1954年7月11日のことです。聖テレーズのバシリカは二十世紀最大の教会建築の一つで、フランスの巡礼地としてルルドに次ぐ地位にあります。
上の写真は本品を男性店主の手に乗せて撮影しています。女性が本品の実物をご覧になれば、写真で見るよりもひと回り大きなサイズに感じられます。
本品はリジューのカルメル会修道女がおよそ七十年前に手作りした古い品物ですが、布に破れはなく、糸も切れておらず、極めて良好な保存状態です。当時はテレーズの姉たちをはじめ、テレーズを直接知っている人たちが存命していました。本品ルリケールの制作を誰が担当したのかは分かりませんが、一目で手縫いとわかる作りには、修道院内で心を一つにした修道女たちの祈りが籠められています。