エミール・ドロプシ及びテラック作 アール・ヌーヴォー様式によるカフリンクス ベル・エポックのアンティーク 直径 14.6 mm


円形部分の直径 14.6 mm  紡錘形部分のサイズ 20.7 x 6.4 mm

フランス  19世紀末から20世紀初頭


 女性の美しい横顔を浮き彫りにしたアール・ヌーヴォー様式のブトン・ド・マンシェット(仏 boutons de manchette カフリンクス)。いまから百年あまり前の十九世紀末から二十世紀初頭、ベル・エポック期のパリで制作されたものです。





 二個のブトン(カフリンクス)は同じジュエリー工房が制作した同じシリーズの作品で、材質もサイズも全く同じです。図柄が異なるので、本来は別々の組だったのかもしれませんが、まったく違和感がありません。上の写真の左側はテラック(Tairac)の作品、右側はエミール・ドロプシの作品です。


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 テラック(Tairac)は二十世紀初頭頃の作例が多いフランスのメダイユ彫刻家で、愛らしい少女像を得意とします。信心具のメダイも多く手掛けており、上の写真はその一例です。





 上の写真の右側には留め金が写っています。本品の留め金は可動式で、紡錘を縦に割ったような膨らみのある形状です。二個のブトン(カフリンクス)の留め金は、形状、サイズ、意匠とも同一です。

 留め金には左右非対称の曲線枠が打ち出され、中央のスペースを囲んでいます。このような意匠をロカイユ(仏 rocaille)といいます。ロカイユは摂政時代(la Régence, 1715 - 1723)に始まったロココ様式の意匠で、「ロック」(仏 roc 岩)と「カイユ」(仏 caillou 小石)を語源とします。語源からも推察されるように、十八世紀のロカイユは硬質の貝殻のような無機的な感じを見る者に与えます。しかしながら本品の文様は、十八世紀のロカイユを発展させたものでありつつも、極めて有機的な植物文様となっており、日本美術がアール・ヌーヴォーに及ぼした強い影響を見て取れます。





 上の写真の右側に写っている女性像は、ジャン=バティスト・エミール・ドロプシ(Jean-Baptiste Émile Dropsy, 1848 - 1923)の作品です。


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 ジャン=バティスト・エミール・ドロプシは 1880年代から二十世紀初頭のフランスにおいてメダイユ彫刻界を代表する人物のひとりで、数々の美しい聖母像をはじめ、カトリック信仰をテーマとした作品群が特によく知られています。上の参考写真はその一例です。





 本品において、典雅な衣をまとった女性は、肩のあたりに右手を挙げています。女性を慕うように飛んできた小鳥が、いままさに女性の右手に留まろうとしています。小鳥を愛しげに見守る女性のまなざしには、優しく包み込むような愛が籠められています。

 背景に彫られた葉の形から、女性がマロニエ(marronnier 和名 トチノキ)の木蔭にいることがわかります。フランスでもわが国でも、マロニエは校庭によく植えられます。堂々たる巨木に育ち、実が食用ともなるマロニエは、子供を見守り恵みを与える守護の象徴です。本品の浮き彫りにおいて、小鳥に優しいまなざしを注ぐ女性は、マロニエと重なるように彫られて、子供を守る「マテルニテ」(maternité フランス語で「母性」)を象徴しているようにも思えます。


 鶸(ひわ)の一種、シメ。当店のマスコットです。


 フランス語の「マテルニテ」には「聖母子像」という意味もありますが、この作品における女性と小鳥の組み合わせも、聖母子像の変形と捉えることができます。すなわちもしもこの小鳥がゴシキヒワだとすれば、女性と小鳥の組み合わせは聖母子像に他なりません。またこの小鳥が「小さき者」の象徴(「マタイによる福音書」6章26~30節)であるとすれば、小鳥を慈しむ女性像は「マドンナ・デッラ・ミゼリコルディア」(Madonna della misericordia イタリア語で「憐れみの聖母」)の変形に他なりません。







 本品にはどちらのブトン(カフリンク)にも同じ刻印があります。上はその一方を撮影した写真で、ジュエリー工房サヴァール(SAVARD)の名前と、材質を示す「ドゥブレ」(仏 DOUBLÉ)の文字が読み取れます。


 サヴァールの広告 1907年


 サヴァール・エ・フィス(Savard et fils)は、フランソワ・サヴァール(François Savard)という職人が興したパリのジュエリー工房です。フランソワ・サヴァールは、1829年、ブロンズの表面に金を張った素材「ドゥブレ・ドール」を発明し、その技法が息子オーギュスト(Auguste Savard)に受け継がれて、1893年以降、「ティトル・フィクス」(TITRE FIXE) または「フィクス」の商標で、サヴァールは全盛期を迎えました。本品は金ではなく銀を張ったドゥブレ・ダルジャン(仏 doublé d'argent 銀張り)、英語で言えばシェフィールド・プレイトですので、「ティトル・フィクス」の表示はありませんが、「ティトル・フィクス」と同時期に制作された品物です。

 上の参考写真はパリのビジュトリ(宝飾品商)E. ブリエ(E. Boullier)によるアール・ヌーヴォー期の広告で、サヴァールの「ティトル・フィクス」が掲載されています。本品もちょうどこの頃の作品です。





 本品は百年あまり前のパリで制作された真正のアンティーク品です。この頃のパリはアール・ヌーヴォーが華やかに開花し、ベル・エポック(la Belle Époch フランス語で「美しい時代」の意)と呼ばれる繁栄のただなかにありました。高名な二人の彫刻家による典雅な女性像は古き良きパリの香りを今に伝え、愛すべき工芸品に仕上がっています。

 ふたつのブトン(カフリンク)はいずれも良い状態です。百年の歳月を経てようやく獲得された美しい古色が、レプリカには真似ができない趣きを本品に与えています。美観上、実用上とも、特筆すべき問題は何もありません。日々ご愛用いただけるアンティーク・ジュエリーです。





28,800円

電話 (078-855-2502) またはメールにてご注文くださいませ。




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