多色ドゥブレ・ドールのトレフル アール・ヌーヴォー様式によるベル・エポックのブローチ 手間をかけた石留めの作品 23 x 28ミリメートル フランス 二十世紀初頭


突出部分を含むサイズ  横 23 x 縦 28 mm

 フランス  二十世紀初頭



 百年以上前の二十世紀初頭、ベル・エポック期のフランスで製作された上品なブローチ。多色の金による金張りです。左右非対称の植物意匠は、当時の流行であるアール・ヌーヴォー様式によります。





 本品は、裏側の針や針受けを含めると、七個の金属製部品、及び七個のストーンを組み合わせて作られています。このうち植物モチーフの金属部分は三個のパーツを手作業で溶接し、三枚の花びらまたは葉のトレフル(仏 trèfle 三つ葉模様)が、環状枠の内部に浮かぶ意匠となっています。

 本品は二十世紀初頭に製作された品物で、デザインはアール・ヌーヴォー様式によります。アール・ヌーヴォー(仏 l'art nouveau)とは日本美術の強い影響によって生まれた装飾美術の様式で、草花やキノコ、昆虫、魚など、小さな生き物の写実的描写を大きな特徴とします。本品がモチーフとする植物も、種類を同定できるほど写実的ではありませんが、ヨーロッパの伝統的工芸品くらべて様式化の度合いが小さく、自然の植物に近い左右非対称の造形となっています。





 本品は金の薄板をベース・メタルに鑞付け(ろうづけ 溶接)した良質の素材でできています。このような素材を、ドゥブレ・ドール(仏 doublé d'or 金張り)、またはプラケ・ドール・ラミネ(仏 plaqué d'or laminé ロールド・ゴールド・プレート)と呼びます。二十世紀初頭のドゥブレ・ドール(プラケ・ドール・ラミネ)には、しばしば多色の金が用いられます。本品もそのような作例のひとつで、トレフル部分にローズ・ゴールド(ピンク・ゴールド)、環状の茎にイエロー・ゴールド、下部に添えられたヨモギのような葉にグリーン・ゴールドが使用されています。

 本品に用いられている三色の金は、一見して分かるほど色が大きく違いません。グラン・メゾンの非常に高価なジュエリーならばいざ知らず、普通の女性が気軽に身に着ける本品のようなジュエリーにも、微妙な違いの表現に手間を惜しまない作り方は、時間がゆったりと流れていた時代のアンティーク品ならではの贅沢さです。





 トレフルの中心は覆輪留め(ベゼル・セット)による緑色石で、三枚の花弁または葉の先は爪留め(プロング・セット)による模造のケシ真珠で、それぞれ装飾されています。

 緑色石は古い時代のシングル・カットを施したストラス(仏 strass ガラス製の模造石)で、グリーン・トルマリンのように美しい緑色をしています。

 ケシ真珠はフランスのアンティーク品によくみられるペルル・ド・ジャカン(仏 perles de Jacquin)ではなく、マジョリカ式の模造真珠が使われています。ペルル・ド・ジャカンは糸や針金を通すには便利ですが、爪留めには不向きです。マジョリカ式の模造真珠、すなわち真珠光沢を模したエッセンスをガラス玉の外側に塗布した模造真珠は、フランス南西部に隣接するスペイン・バスク地方のバルセロナで、二十世紀初頭から製造されていました。本品はバルセロナの模造真珠を使用しており、パリでなければ、おそらくニオールで作られたブローチでしょう。ニオール(Niort アキテーヌ=リムザン=ポワトゥー=シャラント地域圏ドゥー=セーヴル県)はビスケー湾に面したフランス西部の町で、十九世紀から二十世紀初頭にかけて、クロワ・ジャネットをはじめとするジュエリーが盛んに製作されていました。


 二十世紀半ば以降に作られるビジュ・ド・ファンテジー(コスチューム・ジュエリー)は、接着剤でストーンを留めることが多くなります。覆輪留めは全く行われません。爪留めは行われますが、台座の材料となる金属の薄板を打ち抜く際に、ストーンの四隅に突起ができる形状に打ち抜き、突起を曲げてそのまま爪にする簡易な方式が採られます。しかるに本品は、緑色ストラスの覆輪留め、模造真珠の爪留めとも、ファイン・ジュエリーとまったく同じ方法で石を留めています。手間を厭わないこのような作りは、二十世紀初頭以前に作られたビジュ・ド・ファンテジーの特徴です。





 本品のトレフルは打ち出し細工で、曲がった茎による環状枠の直径(ブローチの幅)は、百円硬貨の直径と同じ二十三ミリメートルです。したがって本品はそれほど小さなサイズではありませんが、透かしのデザインは視覚的にも軽やかであり、着用した際には透かし部分から布が見えるゆえに、服の襟や帽子等どのようなところに着けてもよく調和します。洋服や小物と互いに引き立て合う美しいブローチです。

 針はスプリング式ではありませんが、着用中に自然に外れる心配はありません。上の写真では針が錆びているようにも見えますが、実物の針は表面が滑らかです。私は本品をカッターシャツに着けて試しましたが、針は引っかからずに布を通りました。実用するうえで特筆すべき問題はありません。





 本品は百年以上前、アール・ヌーヴォー期のフランスで制作された真正のアンティーク品ですが、保存状態は良好で、特筆すべき瑕疵(かし 欠点)はありません。針も問題無く機能し、充分に実用可能です。日々ご愛用いただける本物のアール・ヌーヴォー作品です。





15,800円 販売終了 SOLD

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