グリーン・ゴールド
green gold






【金属光沢はどのようにして生まれるか】

 正に帯電した粒子と負に帯電した粒子が同等の密度で存在している状態を、プラズマ(英 plasma 註1)といいます。プラズマという物理学用語はもともと気体に関して用いられます。しかるに金属の固体においては密集した金属原子から価電子が遊離し、自由電子として動き回っています。すなわち金属の固体には正孔と自由電子が同等の密度で存在するのであって、これを固体プラズマと看做すことができます。

 金属を含むプラズマは、元素ごとに固有のプラズマ振動数を有します。或る金属に光が当たった場合、光の振動数がその金属固有のプラズマ振動数よりも大きければ金属に吸収されます。しかるに光の振動数がプラズマ振動数よりも小さい場合、自由電子は光のエネルギーをいったん受け取って高エネルギー準位となりますが、直後に元のエネルギー準位に戻り、受け取った光と同じエネルギーの電磁波(すなわち、同じ周波数の光)を放出します。結果だけ見れば、金属表面の自由電子が光を反射したのと同じことになります。

 金属のプラズマ振動数は可視光の振動数よりも大きくて紫外線領域にあるゆえに、どのような色の可視光も金属表面の自由電子に跳ね返され、金属の表面は鏡面光沢を有することになります。これが金属光沢の仕組みです。

 金属元素のプラズマ振動数は紫外線領域にありますが、銅や金のプラズマ振動数は銀やアルミニウムに比べて小さく、可視光に近いところにあります。それゆえ白色光(太陽光)が金属に当たった場合、銀やアルミニウムは可視光の全領域に亙り同等の割合で光を反射しますが、銅や金は振動数(周波数)が大きい可視光、すなわち紫から緑までの光をある程度吸収します。逆に言えば、銅や金は可視域の中ほど(黄色)から赤外域の光を反射しやすい性質があります。その結果、銅や金は金属光沢を有しつつも、黄味がかった色や赤味がかった色に見えます。


【各種の金合金とその色】

 純粋な金 (Au) はモース硬度(ひっかき硬度)2.5とたいへん軟らかく、展延性に富んで変形しやすいので、時計やジュエリーのような実用品に使うことができません。金の強度を増して実用できるジュエリーを作るには、金に他の金属を混ぜて純度を落とし、合金とします。たとえばわが国でよく使われる金の純度は 18/24(すなわち 75%)で、この純度の金合金を「18カラット・ゴールド(18K, K18)」「十八金」と呼んでいます。

 金合金の色は、添加する金属の種類と配合によって変化します。主な合金における主要成分を簡易に示すと、下表の通りです。

イエローゴールド .. 金+銅+銀
ピンクゴールド 金+銅
ホワイトゴールド 金+ニッケル
グリーンゴールド 金+銀


 グリーン・ゴールドの緑色が最も強くなるのは、合金に含まれる金 (Au) と銀 (Ag) がモル数においてほぼ等しいとき、すなわち金原子と銀原子の数がほぼ一対一であるときです。いま金の原子量を 196.9666 g/mol、銀の原子量を 107.8682 g/mol とすると、最も緑色が濃いグリーン・ゴールドを作るには、合金中に含まれる金の重量パーセントを約 64.61パーセントとすればよいことがわかります。これをカラットに置き換えると、15.51カラット・ゴールドとなります。すなわち

  Auの原子量 ÷ (Auの原子量 + Agの原子量) × 100 = 64.61

  また、 24 × 0.6461 = 15.5064


【古代の金】

 純金は可視域の中ほどから赤外域の波長の光をよく反射するので黄色がかって見えます。ところが古代の金は純度が低く、概ね20%以上の銀との合金となっています。銀は可視光の全域にわたってほぼ偏り無く光を反射しますから、銀が混じった金の反射は本来よりも短波長側にずれて、必然的に緑色がかった色になります。

 緑色がかった古代の金は、ギリシア語起源のラテン語で「エーレクトルム」(ELECTRUM) と呼ばれますが、これは本来「琥珀(こはく)」(ギリシア語で「エーレクトロン」 ἤλεκτρον)のことです。琥珀には緑色がかったサンプルが多くあります。(註2)


【アンティーク・ジュエリーに使われるグリーン・ゴールド】

 グリーンゴールドは自然金(天然に産出する金)に多く見られますが、金製品では珍しい色で、現代ではほとんど目にしません。19世紀のアンティーク・ジュエリーや懐中時計ケースの彫刻において、植物の色を表現するためにグリーンゴールドを用いる場合があります。

 下の写真は1880年代頃にスイス、ラ・ショー=ド=フォンのクルヴォワジエ・フレール (Courvoisier Frères) が制作した懐中時計です。ケースには日本風の植物文様を取り入れたアール・ヌーヴォー様式の彫刻を施し、葉の部分にグリーン・ゴールドを使用しています。当店の販売済み商品。

 


 下の写真は19世紀末頃のフランスで制作されたペンダントで、「レジナ・チェリ」(Regina Coeli 「天の元后」 聖母マリアのこと)の浮き彫りをグリーン・ゴールドの帯で囲んでいます。当店の商品です。




註1 英語プラズマの語源は、古典ギリシア語プラスマ(希 πλάσμα 形状)である。プラスマは動詞プラッソー(希 πλάσσω)の語幹に、結果や産生物を表す接尾辞マ(希 -μα)を付けた名詞である。

註2 ギリシア語エーレクトロン(琥珀)は電気の語源である。琥珀をこすると静電気が起きる。



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