ジョン・コルコット・ホーズリー作 「見つかったヤドリギ」 ヴィクトリア時代のクリスマス 名手ラム・ストックスによる愛らしい作品 1876年

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原画の作者 ジョン・コルコット・ホーズリー(John Callcott Horsley, R.A. 1817 - 1903)

版の作者 ラム・ストックス(Lumb Stocks, R.A. 1812 - 1892)


版元 フィラデルフィア、ゲビー・アンド・バリー(Gebbie and Barrie, Philadelphia)


画面サイズ  縦 185 mm  横 235 mm


1876年



 母親とふたりの娘がクリスマスの飾りつけを準備しているところに、騎士の装いをした若者がやってきました。女性たちとは以前からの付き合いですが、今日は予告無しの来訪であるようです。若者はおとなしそうな様子で伏目がちに立っています。母親は作りかけのリースをエプロンに置いたまま、思いがけない訪問者を迎えるために立ち上がろうとしています。





 よく見ると、若者は後ろに何かを隠し持っています。ヤドリギです。ヤドリギはガリア人やアングロ・サクソン人にキリスト教が伝わる以前の時代から平和と繁栄をもたらす聖なる木と見なされていて、イギリスのクリスマスの習慣では、この木の下にいる女性にはキスをしてもよいことになっています。若者はお目当ての少女の上にこのヤドリギをかざしてキスをしようとたくらんでいるようです。





 少女はというといたずらっぽい表情でハサミをチョキチョキいわせています。「変なことしたら髪を切ってしまうわよ」ということでしょう。少女の姉はたくらみに気づいたのか、母親の服を引っ張ってヤドリギを指差しています。戸口のところではメイドがエプロンで口許を隠して、どうなることかと様子を見守っています。メイドはどうやら若者の計画に加わっているようです。





 少女の表情の愛らしさ、若者のとぼけた様子のおかしさ、母親と姉の優しい上品さ、はらはらしているメイドの表情など、とても楽しい絵です。壁に掛けられた立派な肖像画さえもがほほえんでいるように見えます。






《原画の作者について》

 ジョン・コルコット・ホーズリー(John Callcott Horsley, 1817-1903)はイギリスの画家で、ナイトにも叙せられた当時の風景画家 A. W. コルコット(Sir Augustus Wall Callcott, 1779-1844)の甥にあたります。ホーズリーの親類には画家や作家が何人もいます。

 ジョン・コルコット・ホーズリーは肖像画家として出発し、のちに文学に題材を取った作品を発表するようになります。また国会議事堂の上院に "The Spirit of Religion" (1847)、ウエストミンスター・ホールに "Satan Wounded by Ithuriel's Lance" (1848) というフレスコ画を描いています。1875年から 1890年まで、王立アカデミーのレクターを務めました。

 現代の感覚で見れば、ヴィクトリア時代は肉体や性に関して病的なまでに潔癖な時代でしたが、ホーズリーはこの点でまさにヴィクトリア時代人で、画家でありながら裸婦像を決して描かず、裸婦が画家のモデルをすることに反対して、ザ・タイムズに意見広告まで出しました。画家が女性である場合でさえ、裸の女性がその前でモデルをすることに反対したのでした。この過剰な潔癖さゆえに、彼はからかいの的になって、「着衣のホーズリー」 Clothes Horsley とあだ名されました。(Alison Smith, The Victorian Nude - Sexuality, morality and art, Manchester University Press, 1996)

 ホーズリーは最初のクリスマスカードをデザインした人としても知られています。今日私たちが交換しているようなクリスマスカードは、ホーズリーが友人ジョン・ヘンリー・コール(Sir Henry Cole, R.A., 1818-1874)の依頼で1840年にデザインしたのが最初で、1843年にロンドンで1000部が発売されました。カードは13 x 8センチメートルの厚紙に、ダークブラウンでリトグラフ印刷し、その上から手彩色したもので、中央にパーティーを楽しむ人たち、左側に食べ物を配る慈善の行ない、右側に服を配る慈善の行ないを描き、絵の下には「楽しいクリスマスと幸せな新年を」("A Merry Christmas and a Happy New Year to You")と書かれていました。パーティーに酒が描かれているという理由でピューリタンはこのカードを非難しましたが、一般の人々の人気は上々で、《クリスマス・カード》はイギリス人の間に普及してゆきました。


 ホーズリーがデザインした世界最初のクリスマス・カード


《版の作者について》

 版の作者ラム・ストックス(Lumb Stocks, 1812-1892)はたいへん優れたエングレーヴァーで、王立アカデミー会員でもあります。ヨークシャーに生まれ、15歳のときから6年間、高名なエングレーヴァー、チャールズ・ロウルズ(Charles Rolls, fl c. 1820-55)のもとで学びました。

 ストックスの作品は様々な本やアニュアル、イラストレイテッド・ロンドン・ニューズ(1842)、ジ・アート・ジャーナル((1849 - 1912)、ザ・ポートフォリオ(1883)、またフィンデン(William & Edward Finden)監修の「ロイヤル・ギャラリー・オブ・ブリティッシュ・アート」 (Royal Gallery of British Art, 1838-40, 15 vols.)でも目にすることができます。


《額装について》



 当店では無酸のマットと無酸の挿間紙を使用し、美術館水準の保存額装を提供しています。上の写真は額装例で、外寸 40 x 31センチメートルの木製額に、赤色ヴェルヴェットを張った無酸マットを使用しています。この額装の価格は 24,800円です。

 額の色やデザインを変更したり、マットを替えたりすることも可能です。無酸マットに張るヴェルヴェットは赤や青、ベージュ等に変更できますし、ヴェルヴェットを張らずに白や各色の無酸カラー・マットを使うこともできます。


 版画を初めて購入される方のために、版画が有する価値を解説いたしました。このリンクをクリックしてお読みください。


《参考 ヤドリギについて》

 ヤドリギ(英 mistletoe 仏 gui 学名 Viscum album)はブナ、ナラ、ケヤキなどに寄生する常緑の植物で、成長すると球形になります。落葉樹に寄生したヤドリギは、特に冬にはよく目立ちます。キリスト教を受容する以前のドルイドたちは、ナラにヤドリギが寄生しているのが見つかると、ナラを聖木とする神に二頭の牡牛を捧げてヤドリギを採集し、万能の霊薬として珍重しました(プリニウス「博物誌」十六巻)。

 近世以前のヨーロッパ大陸は日本の森林とは比べ物にならないぐらい深い原生林に覆われていました。紀元千年頃以降の時代、ヨーロッパの森を構成する主要な樹種はナラ(英 oak, 仏 chêne, 独 Eiche)とブナです。オークをカシと訳すことがあるようですが、オークは落葉樹ですので、常緑のカシではなくて、落葉するナラです。

 ナラにヤドリギが寄生し、冬になってナラが葉を落とすと、緑のボールのようなヤドリギが冬枯れの森に浮かび上がります。すべての生命が死に絶えたように見える冬の森に浮かび上がる鮮やかな緑、それがヤドリギです。古代人がヤドリギを聖なる木、生命の木として崇めたのも無理はありません。


 ヤドリギ Viscum album

 ヤドリギ Viscum album





エングレーヴィングの価格 35,800円 (額装別)

電話 (078-855-2502) またはメール(procyon_cum_felibus@yahoo.co.jp)にてご注文くださいませ。




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