ガリアにおけるヤドリギの象徴性 ― 大プリニウス「ナートゥーラーリス・ヒストリア」 第十六巻 百十三章から百十五章
VISCI in sexto decimo libro NATURALIS HISTORIAE, capites 113 - 115





(上) ヤドリギのメダイヨン 突出部分を除く直径 25.0ミリメートル 厚さ 6.5ミリメートル フランス 1900 - 1910年頃 当店の商品です。


 大プリニウス(Gaius Plinius Secundus, 23/24 - 79) は「ナートゥーラーリス・ヒストリア」(羅 "LIBRI NATURALIS HISTORIAE" 「博物誌」)第十六巻百十三章から百十五章で、ヤドリギ(羅 VISCUM)に関する記述を行っています。この箇所を 1906年のトイプナー版(Karl Friedrich Theodor Mayhoff, Lipsiae, Teubner, 1906)によって全訳し、原テキストと共に示します。トイプナー版はドイツの古典語学者カール・フリードリヒ・テオドール・マイホフ(Karl Friedrich Theodor Mayhoff, 1841 - 1914)の校訂による版で、「ナートゥーラーリス・ヒストリア」の標準テキストとなっています。日本語訳は筆者(広川)によります。

 なお筆者の訳はラテン文の意味を伝わり易くするために適宜語句を補い、説明的に訳すとともに、こなれた日本語になるようにも心がけたため、逐語訳にはなっていません。逐語的な訳文は、註において示しました。訳文において補った語句は、ブラケット [ ] で示しています。


   113   visci tria genera.     ヤドリギには三種がある(註1)。
     namque in abiete, larice stelin dicit euboea nasci, hyphear arcadia,     すなわち樅、カラマツに着生するヤドリギを、エウボエアではステリス(στελίς)と呼んでいる。同じヤドリギをアルカディアではヒュペアル(ὕφεαρ)と呼ぶ(註2)。
     viscum autem in quercu, robore, ilice, piro silvestri, terebintho, nec non et aliis arboribus adgnasci plerique.    ヤドリギはナラ(Quercus robur)、ヒイラギガシ(Quercus ilex)、野生の梨の木(pirus silvestris)、テレビン樹(terebinthus)にも着生するが、他のさまざまな木々には着生しないと言う(註3)。
     copiosissimum in quercu quod hyphear vocant.    ヤドリギが最もよく着生するのはナラであり、ナラに着生したヤドリギをヒュペアルと呼ぶ(註4)。
     in omni arbore, excepta ilice et quercu, differentiam facit odor virusque,    ヒイラギガシに着生するヤドリギとナラに着生するヤドリギは、同一である。しかしながら他の樹種に着生するヤドリギは、宿主となる樹種ごとに匂いと粘液が異なる(註5)。
     et folium non iucundi odoris, utroque visci amaro et lento.    葉は快い匂いではない。[また]ナラに着生するヒュペアルも、他の樹種に着生するヤドリギも、ともに苦く、粘着する(註6)。
     hyphear ad saginanda pecora utilius. vitia modo purgat primo, dein pinguefacit quae suffecere purgationi;    家畜を肥やすのに一層適しているのは、ヒュペアルのほうである。[ヒュペアルは]まず第一に[家畜の体内の]毒を排出し、次いで毒の排出に耐えた家畜を太らせる(註7)。
     quibus sit aliqua tabes intus, negant durare.    体内に何らかの悪疾を有する家畜は、ヒュペアルの食餌療法に耐えることができない(註8)。
     ea medendi ratio aestatis quadragenis diebus.    この治療法は、夏の間に、四十日をかけて実施される(註9)。
         
     adiciunt discrimen: visco in iis, quae folia amittant, et ipsi decidere, contra inhaerere nato in aeterna fronde.     ヤドリギには[二種が]区別される。すなわちヤドリギが落葉樹に着生している場合、そのヤドリギも葉が落ちる。これに対してヤドリギが常緑樹に着生している場合、ヤドリギの葉は落ちない(註10)。
     omnino autem satum nullo modo nascitur nec nisi per alvum avium redditum, maxime palumbis ac turdi.    しかるに二種のヤドリギのいずれも、鳥たち、とりわけジュズカケバトまたはツグミに種子が食べられ、排出されるのでなければ、決して芽生えない(註11)。
     haec est natura, ut nisi maturatum in ventre avium non proveniat.    鳥たちの腹でのみ成熟して生え出るのが、ヤドリギの本来有する性質である(註12)。
     altitudo eius non excedit cubitalem, semper frutectosi ac viridis.    ヤドリギの高さは一キュービット(四十四センチメートル)を超えない。多数の株が常に叢生する。また緑色である(註13)。
     mas fertilis, femina sterilis, nisi quod et fertilis aliquando non fert.    雄株は実を付けるが、雌株は実を付けない。雄株には実を付ける能力があるが、実際には実を付けないこともある(註14)。
         
   114   viscum fit ex acinis, qui colliguntur messium tempore inmaturi. nam si accessere imbres, amplitudine quidem augentur, visco vero marcescunt.     鳥黐(とりもち)は[ヤドリギの]漿果から作られる。鳥黐用の漿果は未熟な時期の収穫から得られる。というのは、雨季が近くなると実は大きくなるが、粘度が減るからである(註15)。
     siccantur deinde et aridi tunduntur ac conditi in aqua putrescunt duodenis fere diebus, unumque hoc rerum putrescendo gratiam invenit.    収穫後の漿果は乾燥され、水気が無くなると破砕される。そして水に浸され、通常は十二日のあいだ[放置されて]腐敗する。さまざまな物のなかで、鳥黐用のヤドリギの実のみは、腐敗することで有用になる(註16)。
     inde in profluente, rursus malleo tusi, amissis corticibus interiore carne lentescunt.    次に流水の中で再び杵で砕かれ、皮が取り除かれると、内部の果肉が粘着するようになる(註17)。
     hoc est viscum pinnis avium tactu ligandis oleo subactum, cum libeat insidias moliri.    これにオリーヴ油を加えると、鳥黐が完成する。鳥の翼が鳥黐に触れると、くっついて取れない。このような鳥黐は、鳥を待ち伏せて獲るのに好都合であろう(註18)。
         
   115   non est omittenda in hac re et galliarum admiratio. nihil habent druidae - ita suos appellant magos - visco et arbore, in qua gignatur, si modo sit robur, sacratius.     ヤドリギに関しては、ガリア人たちによる崇拝にも言及しなければならない。ドルイドたちは ― ガリア人は自分たちの祭司をこう呼ぶのだが ―、ヤドリギと、ヤドリギが生ずる樹木 ― ただしその樹木はナラ(Quercus robur)に限る ― を、何よりも神聖視する(註19)。
     iam per se roborum eligunt lucos nec ulla sacra sine earum fronde conficiunt, ut inde appellati quoque interpretatione graeca possint druidae videri.    さらに[ドルイドたちは]ナラの森を自ら選び、ナラの葉を使わずに如何なる聖事も行わない。それゆえギリシア語で[この風習を]説明して、[彼らが]ドルイダエと呼ばれるとも考えられる(註20)。
     enimvero quidquid adgnascatur illis e caelo missum putant signumque esse electae ab ipso deo arboris.    確かに[ドルイドたちは]ナラの木々に着生する物は何であれ、天から送られたと考えている。また[ヤドリギを着生させることは、]そのナラが、[ナラの]神自身によって選ばれた印であるとも考えている(註21)。
         
     est autem id rarum admodum inventu et repertum magna religione petitur et ante omnia sexta luna, quae principia mensum annorumque his facit et saeculi post tricesimum annum, quia iam virium abunde habeat nec sit sui dimidia.     しかしながらヤドリギが発見されるのは極めて稀であり、見つけられれば大いなる敬神を以て収穫される。ヤドリギの収穫はすべてに先んじて、月齢六日の夜に行われる。ドルイドたちにとって、月の初め、年の初め、さらに三十年を以て数える世紀の初めは、いずれも月齢六日の夜である。それは月齢六日の月が、未だ半月にも至ってはおらずとも、既に力を豊富に有しているからである(註22)。
     omnia sanantem appellant suo vocabulo. sacrificio epulisque rite sub arbore conparatis duos admovent candidi coloris tauros, quorum cornua tum primum vinciantur.    [ドルイドたちは、ヤドリギを]彼らの言葉で「全てを癒すもの」と呼ぶ。供犠が為され、また決まった様式に従って木の下に料理が用意されると、それまで角を括られたことがない二頭の真っ白な牡牛を、[ドルイドたちは木のところに]連れて行く(註23)。
     sacerdos candida veste cultus arborem scandit, falce aurea demetit, candido id excipitur sago.    真っ白な衣を身に着けた祭司(ドルイド)が木に登り、金色の鎌で[ヤドリギをナラから]切り離す。切り取られたヤドリギは、真っ白な毛織りの布に包まれる(註24)。
     tum deinde victimas immolant precantes, suum donum deus prosperum faciat iis quibus dederit.    それから次に、神がその恵み深い賜物を、[神ご自身が]贈るを良しとする人々に与え給うように祈りつつ、[祭司たちは]生贄を捧げる(註25)。
     fecunditatem eo poto dari cuicumque animalium sterili arbitrantur, contra venena esse omnia remedio.    ヤドリギ[から作った薬]を飲ませれば、どのような不妊の動物にも繁殖力が与えられ、あらゆる毒の治療薬にもなると、[ドルイドたちは]考えている(註26)。
         
     tanta gentium in rebus frivolis plerumque religio est.     [ヤドリギについては、][ガリア人以外の]多くの人々(諸民族)においても、生活の中の細かな点に関して、これに似た宗教的・迷信的観念が見られる(註27)。


 上に引用したうちの最後の部分(百十五章)には、ドルイドがナラからヤドリギを採取する祭儀が記述されています。プリニウスはここで言及しているのは、ガリア人が十一月に行う祭儀と考えられます。ガリア人の習俗において、十一月は年が改まる月でした。太陰暦を使用するガリア人たちは月のリズムに合わせて生活していましたが、十一月の始めは月の始めであるとともに年の始めであり、再生する月の力が極大に達するときでした。したがって新年に際して採取されるヤドリギは、ガリア人の宗教的コスモスにおいて月と同化し、月が有する再生の力、不死性そのものとなっています。ガリア人の文化においてヤドリギが持つこの宗教的な力は、ヤドリギが家畜の繁殖を促し、またすべての病気を癒すと考えられたことによっても裏付けられます。




(上) ジョン・コルコット・ホーズリー作 「見つかったヤドリギ」("Detected") ラム・ストックスによるエングレーヴィング 185 x 235 mm 1876年 当店の商品です。


 ちなみに少なくとも十七世紀に遡るイギリスのクリスマス独特の風習では、クリスマスのとき、この木の下にいる女性にキスをしてもよいことになっています。男性は女性にキスをしながらヤドリギの実をひとつづつ摘んでゆき、実が無くなれば唇を離します。この面白い風習において、ヤドリギは冬至に復活するコスモスの生命力、子孫繁栄の呪力の象(かたど)りとなっています。




 註1 visci tria genera.
         直訳 ヤドリギの類は三つである。
         
          プリニウスはヤドリギを次の三類に分けている。
          第一の類は、樅及びカラマツに生えるヤドリギである。これはエウボエアでステリス(στελίς)と呼ばれる。ただしアルカディアではこれをヒュペアル(ὕφεαρ)と呼んでいる。
          第二の類は、ナラに着生するヤドリギである。通常ヒュペアル(ὕφεαρ)と呼ぶのは、このヤドリギのことである。ヒイラギガシに着生するヤドリギも、おそらくこれと同一である。
          第三の類は、ナラとヒイラギガシ以外の樹種に着生するヤドリギである。
         
 註2 namque in abiete, larice stelin dicit euboea nasci, hyphear arcadia,
         直訳 すなわちエウボエアでは樅、カラマツにステリス(στελίς)が生えると言い、アルカディアではヒュペアル(ὕφεαρ)[が生えると言う]。
         
         abies, etis, f.  樅(もみ)、樅材;船;槍
         larix, icis, f. カラマツ
         στελίς, ίδος, ἡ 樅及びカラマツに生えるヤドリギ(Viscum album)の、ボイオティアにおける名称
         ὕφεαρ, αρος, τό ケルメスガシ(Quercus coccifera)に生えるヤドリギ(Viscum album)の、アルカディアにおける名称
         
 註3 viscum autem in quercu, robore, ilice, piro silvestri, terebintho, nec non et aliis arboribus adgnasci plerique.
         直訳 さらにヤドリギはナラ(Quercus robur)、ヒイラギガシ(Quercus ilex)、野生の梨の木(Pirus silvestris)、テレビン樹(terebinthus)にも[着生する]が、他のさまざまな木々には着生しない[と言う]。
         
         quercus, us, f. ナラの木;ナラの実;コロナ・キーウィカ
         ilex, ilicis, f. ヒイラギガシ
         pirus, i, f. ナシ
         terebinthus, i, f. テレビン樹
         
          ヤドリギ(Viscum album)はここに列挙されている以外の多様な樹木にも寄生するので、プリニウスの記述は正確ではない。ヤドリギにはいくつかの亜種があって、それぞれ異なる科、属の樹木を宿主とする。
         
 註4 copiosissimum in quercu quod hyphear vocant.
         直訳 [ヤドリギは]ナラにおいて最も豊富であり、[人びとはこれを]ヒュペアルと呼んでいる。
         
 註5 in omni arbore, excepta ilice et quercu, differentiam facit odor virusque,
         直訳 ヒイラギガシとナラの場合を除いて、[ヤドリギの]臭気と粘液は相違を為す。
         
          "excepta ilice et quercu" は、絶対的奪格。"excepta ilice et (excepta) quercu" と解した。
          この部分は、要するに、「ヒイラギガシに着生するヤドリギとナラに着生するヤドリギは同一であるが、他のヤドリギは着生する樹種ごとに性質が異なる」という意味。
         
 註6 et folium non iucundi odoris, utroque visci amaro et lento.
         直訳  [ヤドリギの]葉は、快い匂いを有さない。[また]ヤドリギのいずれ[の類]も苦く、粘着する。
         
          "utroque visci amaro et lento" は絶対的奪格。"uter" は「二つの物のいずれも」という意味であるから、ここで言う "utro" は、「ナラに着生するヒュペアル」と「他の樹種に着生するヤドリギ」を比較して、そのどちらも、の意である。
         
 註7 hyphear ad saginanda pecora utilius. vitia modo purgat primo, dein pinguefacit quae suffecere purgationi;
         直訳 家畜を肥やすのに一層適しているのは、ヒュペアルのほうである。[ヒュペアルは]まず第一に[家畜の体内の]毒を排出し、次いで排出に耐えた物どもを太らせる。
         
         sagino, are, avi, atum, v. a. 飼養する、肥やす(pinguefacio)
         sufficio, cere, feci, fectum, v. a., v. n. 或る物の下に置く;能力がある(c. inf.);足りる、間に合う、匹敵する(c. dat; ad alqd; c. inf)
          ※ "sufficere" は直説法過去完了。(= suffecerunt)
         
 註8 quibus sit aliqua tabes intus, negant durare.
         直訳 [体の]内に何らかの悪疾がある物どもは、[ヒュペアルの食餌療法に]耐えることを拒む。
         
         tabeo, ere, bui, v. n. 溶解する、消耗する、消える;滴る
         tabes, is, f. 腐敗;汚水、泥土;悪疾、毒物;消滅
         
 註9 ea medendi ratio aestatis quadragenis diebus.
         直訳 この治療法は夏の四十日間に[行われる]。
         
         medeor, eri, v. dep.. n. a. 癒す(c. dat);正す、救う、軽くする(c. dat.)
         ratio, nis, f. 組織的方法 ratio bellum gerendi 兵法  vitae rationes 処世術  ratione 組織的に
         
 註10 adiciunt discrimen: visco in iis, quae folia amittant, et ipsi decidere, contra inhaerere nato in aeterna fronde.
         直訳 [人々はヤドリギに]区別を与える。すなわちヤドリギが葉を落とす物ども(木々)のうちにある場合、そのヤドリギにとっても、[葉は]落ちる。これに対してヤドリギが常緑の葉のうちに生まれている場合、[そのヤドリギにとって、葉は]留まる。
         
         adicio, icere, jeci, jectum, v. a. 投げつける;向ける;添える、付加する;増す、大きくなる;侵入する、突進する
         decido, ere, cidi, v. n. [cado] 落下する;離れ去る
         
          二つの句 "visco in illis quae folia amittant" 及び "[visco] nato in aeterna fronde" は、絶対的奪格。与格に置かれた "ipsi"(i. e. visco)は限定補語として「所有」を表す与格に近い用法であるが、これに限定されるべき "folia"(ヤドリギの葉 自動詞 "decidere" 及び "inhaerere" の対格主語)は、ここでは省略されている。
          なおヤドリギは常緑樹である。落葉樹に寄生した場合であっても、ヤドリギ自体は落葉しない。
         
 註11 omnino autem satum nullo modo nascitur nec nisi per alvum avium redditum, maxime palumbis ac turdi.
         直訳 しかるに、一般に、種子を蒔かれたヤドリギは、鳥たち、とりわけジュズカケバトまたはツグミの腹を通して排出されるのでなければ、決して生まれない。
         
         sero, ere, sevi, satum, v. a. 種子を蒔く、植える、惹き起こす
         omnino, adv. 全く、完全に;概して;要するに;決して、絶対に…ない
         alvus, i, f. 腹;胃
         palumbes, is, f. ジュズカケバト
         turdus / turda ツグミ
         
 註12 haec est natura, ut nisi maturatum in ventre avium non proveniat.
         直訳 [ヤドリギの]自然本性はこのようであって、すなわち、鳥たちの腹で成熟させられるのでなければ、生え出ることはない。
         
 註13 altitudo eius non excedit cubitalem, semper frutectosi ac viridis.
         直訳 ヤドリギの高さは[一]キュービット(四十四センチメートル)を超えない。[複数のヤドリギが]常に叢生する。また緑色である。
         
         cubitum, i, n. 肘;腕尺(約四十四センチメートル)
         cubitalis, e, adj. 肘の;腕尺の
         frutex, ticis m. 灌木、藪
         frute(c)tum, i, n. 灌木の多い場所
         frute(c)tosus, a, um, adj. 茂みの多い、灌木の叢生する
         
 註14 mas fertilis, femina sterilis, nisi quod et fertilis aliquando non fert.
         直訳 雄株は実を付ける能力を有するが、雌株は実を付けることができない。[雄株は]実を付ける能力があっても、実を付けないこともある。
         
         mas, maris, adj. 男らしい;力強い
         mas, maris, n. 男
         nisi quod ... …を除いては、ただし…であるが
         
          雌雄異体の生物において種や卵を生ずるほうを雌、生じないほうを雄と定義するならば、「雄株は実を付ける能力を有するが、雌株は実を付けることができない」との記述は意味を為さない。プリニウスがなぜこのように書いたのかは不明であるが、おそらくは単なる書き間違いであろう。
         
 註15 viscum fit ex acinis, qui colliguntur messium tempore inmaturi. nam si accessere imbres, amplitudine quidem augentur, visco vero marcescunt.
         直訳 鳥黐(とりもち)は[ヤドリギの]漿果から作られる。未熟な時期における収穫物から、[鳥黐となる漿果が]集められる。というのは、もしも雨が近づいてしまうと、分量に関しては確かに増すが、鳥黐[としての有用性]に関してはだめになるからである。
         
         acinus / acina 漿果、葡萄の実
         messis, is, f. 収穫すること;収穫期;収穫物  ※ ここでは「部分の属格」になっている。
         accedo, ere, cessi, cessum, v. n. 近づく  ※ accessere = accesserunt (直説法完了)
         marceo, ere, v. n. 萎びている、色褪せている、無力である
         
 註16 siccantur deinde et aridi tunduntur ac conditi in aqua putrescunt duodenis fere diebus, unumque hoc rerum putrescendo gratiam invenit.
         直訳 [収穫に]次いで[ヤドリギの漿果は]乾燥され、水気の無い実が破砕される。そして水の中に加えられ、通常は十二日のあいだ腐敗する[ままに放置される]。諸事物のなかで、このひとつの物(鳥黐用のヤドリギの実)は腐敗することによって恩恵を見出すのである。
         
         tundo, ere, tutundi, tu(n)sum, v. a. 押す、突く、打つ;踏み砕く、打穀する;うるさくせがむ
         condio, ire, ivi/ii, itum, v. a. 薬味を入れる、美味に調理する;味を付ける、趣を加える;和らげる;封入する
         putresco, ere, putrui, v. inch. n. 腐敗する、弱くなる
         fere, adv. 通常
         
 註17 inde in profluente, rursus malleo tusi, amissis corticibus interiore carne lentescunt.
         直訳 次に流水の中で再び杵で砕かれ、皮が取り除かれると、[ヤドリギの漿果は]内部の果肉において粘着するようになる。
         
         lentus, a, um, adj. 粘着質の;曲げやすい;鈍重な、緩慢な;強靭な;平静な、落ち着いた;冷淡な
         lentsco, ere, v. inch. n. 粘る、粘着するようになる;減じる、弱まる
         
 註18 hoc est viscum pinnis avium tactu ligandis oleo subactum, cum libeat insidias moliri.
         直訳 これが、オリーヴ油で仕上げられ、接触によって鳥の翼を取れなくする鳥黐である。[このような鳥黐は]待ち伏せを企てるのに好都合であろう。
         
         subigo, ere, egi, actum, v. a. 上へ駆り立てる」;追いやる、強制する;征服する、屈従させる;完成する、仕上げる;仕込む、訓練する;衰弱させる、苦しめる
         ligo, are, avi, atum, v. a. 結び付ける、繋ぐ  ※ "pinnis avium (tactu) ligandis" は動形容詞の句による絶対的奪格。"pinnas avium (tactu) ligandum" と同義。
         insideo, ere, sedi, sessum, v. n., v. a. 或る物に座る、じっとしている;或る物に付着している;或る場所を占める、占有する、居住する
         insidiae, arum, f. pl. 待ち伏せ;奸計、陰謀;詐欺
         moles, is, f. 量、塊;努力、苦労
         molior, iri, moltus sum, v. dep. 移動させる、押し進める;成就させる、完成する;生じさせる;企てる
         
 註19 non est omittenda in hac re et galliarum admiratio. nihil habent druidae - ita suos appellant magos - visco et arbore, in qua gignatur, si modo sit robur, sacratius.
         直訳 このこと(ヤドリギ)において、ガリア人たちの崇拝も[記述が]省略されるべきではない。ドルイドたちは ― ガリア人は自分たちの祭司をこう呼ぶのだが ―、ヤドリギと、ヤドリギが生ずる樹木 ― その樹木がナラ(Quercus robur)である場合に限って ― よりも神聖とされる何物をも有さない。
         
         modo, adv. ただ、単に
         
 註20 iam per se roborum eligunt lucos nec ulla sacra sine earum fronde conficiunt, ut inde appellati quoque interpretatione graeca possint druidae videri.
         直訳 さらに[ドルイドたちは]ナラの森を自ら選び、ナラの葉を使わずに如何なる聖事も行わない。それゆえギリシア語で[この風習を]説明して、[彼らが]ドルイダエと呼ばれるとも考えられ得る。
         
         lucus, i, m. 森;神苑
         ullus, a, um. (gen. ullius, dat. ulli) adj., subst., [unus] ある(人・物) ※ 形容詞としては主に否定文に
         quoque, adv. …もまた
         δρῦς, δρῠός, f. ナラ  ※ ラテン語 "druidae / druides" はゴール語(ガリアのケルト語)由来と考えられている。
         
 註21 enimvero quidquid adgnascatur illis e caelo missum putant signumque esse electae ab ipso deo arboris.
         直訳 確かに[ドルイドたちは]ナラの木々よりも後に生ずる物は何であれ、天から送られたと考えている。また[ヤドリギを着生させた木々が、][ナラの]木の神自身によって選ばれた印であるとも考えている。
         
         enimvero, adv. 確かに
         a(d)gnascor, i, a(d)gnatus sum, v. dep. [ad + gnascor/nascor] 後に生まれる、遺言の後に生まれる
         ※ ここで "ipso deo" と言っているのは、「ナラの木の神自身」の意。喬木であるナラの木は、落雷に遭うことが多い。それゆえにナラの木は、多くの文明において、稲妻と雷を操る天空神の聖木と考えられるようになった。ゼウス・ドードーナイオス (Ζεὺς Δωδωναῖος ドードーネーのゼウス)はその一例である。ユピテル、トール、ドナー、ペルンも、いずれもナラを聖木とする。
         
 註22 est autem id rarum admodum inventu et repertum magna religione petitur et ante omnia sexta luna, quae principia mensum annorumque his facit et saeculi post tricesimum annum, quia iam virium abunde habeat nec sit sui dimidia.
         直訳 しかしながらそれ(ヤドリギ)は発見において非常に稀であり、見つけられれば大いなる敬神を以て求められる。それはすべてに先んじて、第六の月[の夜] ― この者たちにとって、第六の月[の夜]が「月々」及び「年々」の始まりを為し、さらに三十年が経過した後の「世紀」の始まりをも為す ― に[行われる]。というのも、[第六の月は][未だ]自らの半分ではないが、既に力を豊富に有しているから。
         
         admodum, adv. ちょうど、まさしく;全く、完全に;少なくとも;多くとも;非常に
         inventus, us, m. 発見、発明
         
         ※ この "sexta luna" は奪格。「第六の月に」とは、「月齢六日目の夜に」の意。月齢六日の月は上弦の半月であり、地上のあらゆる生命を栄えさせる月の力が充分に強くなる頃と考えられたのであろう。金色の光を放つ鎌は、地上に降りた月齢六日の月に他ならない。ドルイドは月(鎌)をヤドリギに当てることで、地上のあらゆる生命を強めようとしたのであろう。
 月齢と降雨と植物の成長に相関関係があることは、農耕以前の時代から知られていた。フランスの農夫は新月のときに種蒔きを、下弦のときに木の伐採や野菜の収穫を行う。これは月が植物を成長させる力が増し始めるときに種を蒔き、月の力が弱まるときに植物を殺しているのだと解釈できる。同様の習俗はイングランドにもみられる。
         ※ "virium abunde" における "virium"(vis の複数属格)について。充満や欠乏を意味する形容詞の限定補語には、属格が用いられる。副詞 "abunde" を限定する "virium" の用法も、これに準ずる。直訳すると、「力において豊富に」の意。
         
 註23 omnia sanantem appellant suo vocabulo. sacrificio epulisque rite sub arbore conparatis duos admovent candidi coloris tauros, quorum cornua tum primum vinciantur.
         直訳 [ドルイドたちは、ヤドリギを]彼らの言葉で「全てを癒すもの」と呼ぶ。供犠が為され、また決まった様式に従って木の下に料理が用意されると、[ドルイドたちは]二頭の真っ白な牡牛を[木のところに]連れて行く。その[牡牛たちの]角は、このときに初めて括られるのである。
         
         epulae, arum, f. pl. 料理;食事;ごちそう、宴会;娯楽
         epulum, i, n. 祝宴
         ritus, ritus, m. 典礼、宗教的慣習;慣習、風習
         rite, adv. 習慣に従って;正しく、適切に;幸いにも、うまく、成功して
         
 註24 sacerdos candida veste cultus arborem scandit, falce aurea demetit, candido id excipitur sago.
         直訳 真っ白な衣を身に着けた祭司(ドルイド)が木に登り、金色の鎌で[ヤドリギをナラから]切り離す。[そして]それ(ヤドリギ)は、真っ白なサグム(粗い毛織の毛布)で受け取られる。
         
         colo, ere, colui, cultum, v. a. 手入れする;(身を)飾る、めかす
         aureus, a, um, adj. 金の;金色の
         falx, falcis, f. 大鎌、鎌
         sagum / sagun, i, n. ローマ人がガリア人から採り入れた戦闘用の小マント;掛け布、外被
         sagus f. / sagun n. ガリア人が使う粗い毛織の毛布またはマント、特に兵士のマント
         excipio, ere, cepi, ceptum, v. a. 捕える;受け取る、引き受ける
         
 註25 tum deinde victimas immolant precantes, suum donum deus prosperum faciat iis quibus dederit.
         直訳 それから次に、神がその恵み深い賜物を、[神自身が]贈るを良しとする人々に対して為し給うように祈りつつ、[祭司(ドルイド)たちは]生贄を捧げる。
         
         mola, ae, f. 臼」;挽き割りの供え物
         prosperus, a, um, adj. 幸福な、願い通りの;好意ある、恵み深い
         dederit "do" の接続法完了
         
 註26 fecunditatem eo poto dari cuicumque animalium sterili arbitrantur, contra venena esse omnia remedio.
         直訳 [ヤドリギは、]動物たちのうち、不妊であるどのような個体に対しても、その飲用によって繁殖力が与えられるとも、[また]治療においてあらゆる毒に対抗するとも、[ドルイドたちは]考えている。
         
         venenum, i, n. 薬剤、薬液;化粧品、香料、(特に紫色の)染料;媚薬;毒物、災害、破滅
         
 註27 tanta gentium in rebus frivolis plerumque religio est.
         直訳 [ヤドリギについては、][ガリア人以外に]多くの人々(諸民族)も有する、些事に関するこのようなレリギオー(宗教的感情、敬虔、畏怖、迷信)が在る。




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