清楚で可憐な少女のように、無垢の美しさを見せるふたりの天使。額にマウントする必要上、背面が平たく作られてはいますが、ほとんど丸彫りと言ってよいほどの立体性を持った彫刻作品です。
天使たちはふたりとも目を閉じ、慰め合うかのように寄り添い、右(向かって左)の天使は十字架を胸に当て、左(向かって右)の天使は荊の冠を膝の上に置いて、神のひとり子イエズス・キリストの受難を悲しんでいます。
スコラ哲学において、天使は肉体を持たない霊的被造物、自存する知性であると考えられています。肉体を持たない天使は、悲しみに顔をゆがめることはありませんが、清澄な悲しみに沈んでいます。
左(向かって右)の天使の左翼先端部裏側に、彫刻家サルヴァトーレ・マルキ (Salvatore Marchi) による署名があります。このような彫刻作品は鋳型に流し込んで作ることができず、彫刻家が一点一点を手作業で製作しています。第二帝政期、カトリック信仰が復興した時代に、「悔悛のガリア」(GALLIA POENITENS) なるフランスが生み出した、優れた芸術作品といえましょう。
ガラスの内側をクリーニングするために額を開封しました。二体の天使は19世紀に制作されたままの状態で、百数十年のあいだ額に密閉されて守られ、コンディション上の問題は一切ありません。