マルタ十字、クロワ・ド・マルト
la croix de Malte
(上) 大きなサイズのマルタ十字 十八金でできたクロワ・ド・クゥ(十字架型ペンダント) 30.0 x 24.5 mm 重量 3.1 g
当店の商品です。
マルタ十字(仏 lacroix de Malte クロワ・ド・マルト)は聖ヨハネ騎士団(仏 les Hospitaliers de l'ordre
de Saint-Jean de Jérusalem)の象徴です。騎士団名の聖ヨハネは、
洗礼者ヨハネのことです。
【聖ヨハネ騎士団の歴史】
ジェノヴァやヴェネツィア、ピザが中世ヨーロッパの地中海貿易の立役者であったことはよく知られていますが、これら北イタリアの諸都市が海洋国家として興隆する以前は、アマルフィ共和国(伊
,la Repubblica di Amalfi, 839 - 954)及びアマルフィ公国(伊 Ducato di Amalfi, 958 -
1137)が地中海貿易の覇者でした。アマルフィがセルジオ一世の下で公国となったのは 958年で、その後まもなく公国は最盛期を迎えました。
アマルフィ公国が隆盛を誇った十世紀後半は第一回十字軍(1096 - 1099年)よりも前の時代であって、西ヨーロッパの巡礼者たちは聖地エルサレムを平和裡に訪れることができました。アマルフィの商人たちは
1048年、エジプトのカリフから認可を得て、エルサレムに聖ヨハネ修道院を開設しました。この修道院はあらゆる巡礼者のための救護所(羅 HOSPITALE 伊
oppedale 仏 hôpital)が併設されていました。
やがて十字軍の時代となってエルサレム王国が成立すると、聖ヨハネ修道会は巡礼者や病者を守るために、武力による備えを必要とするようになりました。さらにキリスト教徒側が占領獲得した領土を守る必要も生じました。このような経緯で生まれたのが武装修道士の団体、すなわち騎士修道会である聖ヨハネ騎士団です。
地中海貿易で栄えたアッコン(Saint-Jean-d'Acre)は 1104年の第一次十字軍でキリスト教徒側に占領され、その後もイスラム側との争奪が繰り返されたのち、1192年にエルサレム王国の首都になりました。さらに
1229年、アッコンは聖ヨハネ騎士団領となりました。しかしながら 1291年、マムルーク朝エジプトはアッコンを奪い返し、聖ヨハネ騎士団はキプロスに逃れました。
1310年にロードス島に本拠を移し、ロードス騎士団とも呼ばれるようになった聖ヨハネ騎士団は、強力な船団を保有してイスラム教勢力を相手に戦い続けました。また教皇の認可によって各国から独立した主権を有し、各国と対等の外交関係を結びました。独自の貨幣の発行も行いました。しかしながら1523年、オスマン帝国のスレイマン一世(Soliman
le Magnifique, 1494 - 1566)がロードス島を六か月に亙って攻囲し、騎士団の抵抗も虚しくロードス島は陥落しました。トルコとの停戦交渉の末、騎士団はロードスから退去しました。
長靴のようなイタリア半島の爪先には、シチリア島が浮かんでいます。シチリア島の南には、マルタ海峡を隔てて、三つの島から成るマルタ諸島があります。当時シチリアはスペイン領で、スペイン王はカルロス一世(Carlos
I, 1500 - 1516 - 1556 - 1558)すなわち神聖ローマ皇帝カール五世でした。1530年、カルロス一世(カール五世)は教皇クレメンス七世の同意の下、聖ヨハネ騎士団にマルタ諸島を与えました。この時以来、聖ヨハネ騎士団はマルタ騎士団とも呼ばれるようになりました。聖ヨハネ騎士団はオスマン・トルコによる
1561年のマルタ攻囲にも耐え、その海軍力を以てレパントの海戦(1571年)の勝利にも貢献しました。聖ヨハネ騎士団はヨーロッパ諸国に広まりましたが、宗教改革を経てプロテスタントを受け入れた諸国では、聖ヨハネ騎士団もプロテスタント化しました。そのためドイツ、オランダ、スウェーデンをはじめとする数か国の聖ヨハネ騎士団はプロテスタントです。
1798年、ナポレオン軍はマルタ島を攻撃し、騎士団長はトリエステに逃れて、聖ヨハネ騎士団は再び領土を失いました。このとき多数の騎士がサンクトペテルブルクに逃れましたが、ロシアおける騎士たちは皇帝パーヴェル一世(Павел I, 1754 - 1796 - 1801)を騎士団長としたために、トリエステとサンクトペテルブルクに二人の騎士団長が並び立つ事態となりました。1799年にトリエステの騎士団長が辞任するとパーヴェル一世が唯一の騎士団長となりましたが、パーヴェル一世が騎士団長に選ばれた際の手続きはカトリックの教会法に則っていなかったので、カトリック教会はパーヴェル一世を正式な騎士団長と認めませんでした。1806年にはスウェーデンが聖ヨハネ騎士団にゴトランド島を与えようとしましたが、これを受け入れるとマルタ島の主権を放棄する事になると考えた騎士団は、スウェーデンの申し出を断りました。これらの事情を背景に、十九世紀初頭から 1870年代に至るまで、聖ヨハネ騎士団の活動は大幅に縮小しました。
1879年、教皇レオ十三世(Leo XIII, 1810 - 1878 - 1903)の下で、七十五年ぶりに新しい騎士団長が選出されました。これが画期となって、聖ヨハネ騎士団は設立当初の任務に立ち返り、慈善宗教団体として再生への道を歩み始めます。二度の世界大戦時、聖ヨハネ騎士団は救援活動に大規模に携わり、評価を高めました。2013年、聖ヨハネ騎士団は創立九百周年を迎え、教皇ベネディクトゥス十六世臨席の下、ヴァティカンのサン・ピエトロで記念ミサが行われました。聖ヨハネ騎士団の現在の正式名は、エルサレム、ロードス、マルタの聖ヨハネ救護者主権軍事修道会(羅 Supremus Militaris Ordo Hospitalarius Sancti Ioannis Hierosolymitani Rhodiensis et Melitensis)です。
【マルタ十字の歴史と形状】
(上)
ヌルシアの聖ベネディクトゥスのメダイユ。クロワ・アンクレ(クロワ・モリーヌ)が大きくあしらわれています。
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十字軍時代の聖ヨハネ騎士団は通常のラテン十字を使っていました。各末端が二つに分かれた十字架が同騎士団において最初に使われ始めた当初は、ベネディクト会の紋章に使われるクロワ・アンクレ(仏
la croix ancrée 錨状十字架)別名クロワ・モリーヌ(仏 la croix moline 臼の十字架)と同様の形状で、鏃(やじり)状に開大する現在の形とは異なりました。
(上) ボルニシ・シオニ司教座聖堂の壁面装飾
ボルニシ・シオニ司教座聖堂(Bolnisi Sioni)は 478年から 493年にかけて建設された石造りのバシリカで、.ジョージア(グルジア)に現存する最古の聖堂です。当聖堂にはマルタ十字に似た装飾があって、この十字架はジョージア国旗にも採用されています。
(上) 一方の面にフィリップ・ヴィリエ・ド・リーラダム、もう一方の面に洗礼者ヨハネを刻んだ聖ヨハネ騎士団の貨幣。
マルタ貨幣協会のウェブサイトから。
聖ヨハネ騎士団とジョージア正教会の間に関係はありませんが、フィリップ・ヴィリエ・ド・リーラダム(Philippe Villiers d'Isle
Adam 1305 - 1319年に在任)が騎士団長であった時代に鋳造された聖ヨハネ騎士団の硬貨には、ボルニシ・シオニ式十字架が刻まれています。上の写真の硬貨がそれで、一方の面には
総主教十字にひざまずく騎士団長が、もう一方の面には
アーグヌス・デイーを抱く洗礼者ヨハネが、それぞれ刻まれています。ボルニシ・シオニ式十字架は、騎士団長の衣の左腕部分に表現されています。1489年の聖ヨハネ騎士団会則は、八つの尖端を有する白い十字架を、全ての会員が身に着けるように定めています。
(上) 四タリ銅貨 直径 33.28 mm 重量 12.70 g 1567年 聖ヨハネ騎士団の貨幣を収集研究する
ジョン・ガット氏のウェブサイトより。
ベネディクト会式十字架やボルニシ・シオニ式十字架の意匠が曲線を含むのに対して、現在のマルタ十字は直線で構成されます。マルタ十字が現在のように直線的意匠となったのは、十五世紀から十六世紀にかけて徐々に変化した結果と考えられています。上の写真は
1567年に聖ヨハネ騎士団が発行した四タリ銅貨で、現在と同じ意匠のマルタ十字が確認できる最古の例です。銅貨の発行年は 1567年で、1557年から
1568年まで聖ヨハネ騎士団長を務めたジャン・パリゾ・ド・ヴァレット(Jean Parisot de Valette)の時代に当たります。
(上) Alonso Sánchez Coello, "L'archiduc Wenceslas en habit de son ordre",
1577
上の写真はアロンソ・サンチェス・コエリョ(Alonso Sánchez Coello, 1531/32 - 1588)の油彩画で、ハプスブルク家出身の大公ウェンセスラス・ドートリシュ(Wenceslas
d'Autriche, 1561 - 1578)を描いています。ウェンセスラスは神聖ローマ皇帝マクシミリアン二世(Maximilien II
de Habsbourg, 1527 -1576)の第十一子八男で、スペイン王フェリペ二世(Felipe II de España, 1527
- 1598)の下で育てられ、カスティジャの聖ヨハネ騎士団修道院長に任じられましたが、十七歳で夭逝しました。
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