職人芸術家による感受性の刻印 《十八金製クロワ・ド・マルト 手作りによる大きなマルタ十字 30.0 x 24.5 mm》 フランス製アンティーク 十九世紀中頃から二十世紀初頭
重量 3.1 g
突出部分を含むサイズ 縦 30.0 x 横 24.5 mm ※ 可動式の環を除く。
厚み 1.5 mm
フランスで制作されたクロワ・ド・マルト(仏 une croix de Malte マルタ十字)。金細工師による十八カラット・ゴールド(十八金)無垢の手作り品で、表裏とも同じ意匠、同じ丁寧さで仕上げられています。十八カラット・ゴールドを示すフランスの検質印が、上部の環に刻印されています。
高純度の金は変色、変質しないので、本品は近年の品物のようにも見えますが、歴としたアンティーク品です。本品の制作年代はおそらく十九世紀中頃から二十世紀初頭までの間です。
クロワ・ド・マルト(マルタ十字)は十字軍の頃にエルサレムで設立された聖ヨハネ騎士団(仏 les Hospitaliers de l'ordre de Saint-Jean de Jérusalem)の象徴です。騎士団は聖地から撤退後にロードス島、さらにマルタ島に本拠を移し、これに伴って聖ヨハネ騎士団の十字架もロードス十字、マルタ十字の別名を得ました。
聖ヨハネ騎士団は修道会でありながら、一般の国家と同様に領土を伴う国家主権を有し、貨幣を発行しました。ナポレオン軍のマルタ島攻略によって領土を喪った結果、現在の聖ヨハネ騎士団は宗教・慈善団体の性格が強いですが、主権国家に相当する地位は未だ失わず、領土なき国家として百十二か国と外交関係を有し、通貨と郵便切手を発行しています。同騎士団を象徴する十字架は、マルタ島を領土にしていた時代と同様に、マルタ十字という別名が定着しています。
聖ヨハネ騎士団の十字架は、時代によって形状が変遷しています。設立当初の騎士団は、通常のラテン十字を用いていました。その後聖ベネディクト十字と同様のクロワ・アンクレを経て、現在の意匠に近いが幾分曲線的なボルニシ型十字となりました。現在のマルタ十字は直線で構成された鏃(やじり)型腕木が、中央から四方に発出します。現在の意匠によるマルタ十字は、十六世紀頃から使われています。
本品は 1.5ミリメートルの厚みがある十八金の板を、マルタ十字の形に截り出しています。1.5ミリメートルと書くと薄いように感じられるかもしれませんが、金無垢の十字架のほとんどは、本品よりもずっと薄い金板を立体的に打ち出したり、中空の膨らみができるように張り合わせたりして作られています。本品は厚みがあるので容易に変形しませんし、中空ではないので表面がへこむこともありません。無垢の金板を截り出した本品が、他の金製十字架よりもしっかりとした品物であることは、実物を手に取るとお分かりいただけます。
すぐ下に示した二枚の写真は、他の写真に写っているのとは反対側の面を撮影しています。金板の縁を曲げて厚みを出した十字架の場合、着用中に裏返るとみっともないですが、本品は二面とも同じく丁寧かつ重厚に制作されていますので、どちらの面を表にして着用しても構いません。
本品クロワ・ド・クゥ(仏 une croix de cou 十字架型ペンダント)の最上部には、マリアの頭文字エム(M)が透かし細工になっています。透かし細工によるマリアのエムはフランス製シャプレ(仏 un chapelet 数珠、ロザリオ)のクール(仏 le cœur 心臓、センター・メダル)にあしらわれるのと同じ意匠であり、とりわけ十九世紀から二十世紀初頭頃までの作例に多用されます。
(上) Michelangelo Buonarroti, "Il Giudizio universale"(dettaglio), affresco, 1536 - 1541, Cappella Sistina, Musei Vaticani, Città del Vaticano
シャプレ(ロザリオ)を爪繰りつつ唱える天使祝詞は、聖母に執り成しを求める祈りです。マルタ十字の上部にあって、本品を身に着ける人と十字架を繋ぐマリアの頭文字を見て、筆者(広川)はミケランジェロがシスティナ礼拝堂に描いた「最後の審判」を思い浮かべました。この有名なフレスコ画において、聖母は怒れるキリストの傍らで、最後まであきらめずに罪びとを執り成しておられます。本品にあしらわれたマリアの頭文字は、シャプレにおけると同様に、地上を歩む人々を常に庇護して執り成し給う聖母の愛を象徴しています。
金板の截断面を見ると、本品が金細工師の手作り品であり、産業的方法で製造された品物ではないことがわかります。フランスの美術史家ルネ・ユイグ(René
Huyghe, 1906 - 1997)は 1955年の著書「見えるものとの対話」("Dialogue avec le visible", Flammarion, 1955)において、手仕事による実用品が生得的・本性的な美を有することに注目し、美の起源と本質を論じています。
ユイグによると、手作業で作られた物品が生得的に有する美は、職人の手の動きから自然に生まれてくるのであって、知性がもたらすのではありません。
美とは、生きた芸術を求める職人の感受性が品物に残した刻印にほかなりません。美はそのような品物に自然に備わり、見出されるものであって、意図的に追求され、機能の上に付加されるものではありません。金細工師が手作りした本品には、高級ブランドの大量生産品が喪った原点の美を見出すことができます。
エムの上部に突出する環には、フランスにおいて十八カラット・ゴールド(仏 l'or K18, le titre 750 純度 18/24の金、十八金)を示す鷲の頭の検質印(ホールマーク)が打刻されています。鷲の頭の検質印は、1838年から使われています。この環状部分に外付けされた可動式の撥環(ばちかん)も、十八金でできています。
上の写真は本品を男性店主の手に載せて撮影しています。女性が本品の実物をご覧になれば、写真で見るよりもひと周り大きなサイズに感じられます。
既に述べたように、本品は規格化され産業的に生産された品物ではなく、職人と芸術家が未だ分化していなかった時代と同様の方法に従い、手仕事で産み出された工芸品です。先ほどはルネ・ユイグを引用しつつ、このような品物が有する精神性、すなわち品物に刻印された職人芸術家の感受性について述べました。
本品が有するいま一つの魅力は、アンティーク品ならではの歴史性です。ここで言う歴史性とは、個別の品物がたどった歴史のことでもありますし、品物の意匠に内在する歴史のことでもあります。聖ヨハネ騎士団の歴史は一千年近くに及び、本品と同意匠によるマルタ十字に限っても、およそ五百年の歴史があります。
本品が有するさらにもうひとつの魅力は、他の人が同じものを持っていないということです。金の十字架は市中に数多く出回っていますが、それらはすべてラテン十字です。金にせよ他の材質にせよ、筆者(広川)はマルタ十字が市中で売られているのを見たことがありません。また透かし細工によるマリアの頭文字は、十九世紀中頃から二十世紀初頭までにフランスで制作された信心具の特徴です。アンティーク品の最大の魅力は特定の時代と地域を色濃く反映していることですから、本品はこの点で最もアンティーク品らしいジュエリーとなっています。これに加えて本品はおそらく一点ものとして制作されており、この意味においてもたいへん魅力的な品物です。
クロワ・ド・クゥ(croix de cou 十字架形ペンダント)は信心具から派生したジュエリーですが、キリスト教が浸透したフランスの伝統文化を背景としつつも、信心具ではなく装身具と見做される品物です。本品は十八金の華やかな輝きのうちに、信心具に由来する清楚な上品さを兼ね備え、どのような服装にも合うペンダントに仕上がっています。
本品は百数十年前のフランスで制作された真正のアンティーク品ですが、古い年代にもかかわらず、保存状態は極めて良好です。金の板に厚みがあるため、ゆがみや曲がり、破断等、特筆すべき問題は何もありません。本品は高純度(18/24 750パーミル)の金製品であるゆえに変色することもなく、永遠に美しい状態のまま、末長くご愛用いただけます。金無垢の十字架は小さなものが多いですが、本品は可動式の環を除いても縦
30.0ミリメートル、横 24.5ミリメートルとたいへん大きなサイズです。お買い上げいただいた方には必ずご満足いただけます。
本体価格 85,000円
電話 (078-855-2502) またはメール(procyon_cum_felibus@yahoo.co.jp)にてご注文くださいませ。
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