アンティークアナスタシア　神戸北野町　フランスのカトリック教会、修道院、聖地に関するレファレンス　Églises, abbayes et autres sanctuaires et lieux de pèlerinage en France　サントル　イスダン　聖心の聖母　ノートル＝ダム・ド・サクレ＝クール　バシリカ　バジリカ

イスダン　ノートル＝ダム・ド・サクレ＝クール　聖心の聖母のバシリカ
La Basilique de Notre-Dame du Sacre-Cœur, Issoudun

（上）　イスダン、聖心の聖母のバシリカ

　イスダン (Issoudun) はフランスの中心部、サントル地域圏アンドル県にある巡礼地で、聖心の聖母（ノートル＝ダム・ド・サクレ＝クール）に捧げられたバシリカがあります。

【ジュール・シュヴァリエ神父と聖心布教会】

　世の人々に神の愛を知らせるために、イエズスの聖心への信心を広めることに一生を捧げたカトリック司祭として、フランスのジュール・シュヴァリエ神父 (Jules Chevalier, 1824 - 1907) が知られています。

　シュヴァリエは子供の頃から神父になりたいという望みを持っていましたが、家庭が貧しかったために神学校に進むことができず、12歳のときに靴屋の徒弟になりました。しかし後に靴屋の親方の援助を得て神学校に進み、1851年6月14日、カトリック司祭に叙階されました。

　P. Jules Chevalier, 1824 - 1907

　この世にはびこる他者への無関心とエゴイズムに心を痛めていた若き日のシュヴァリエは、すべてを捧げて聖心の信心の普及に尽力しました。

　1854年、30歳でイスダンの教区司祭になったシュヴァリエは、聖心を広める宣教師会を設立したいと考えましたが、必要な資金がありませんでした。シュヴァリエが聖母にノベナを捧げると、ちょうど9日目、1854年12月8日、奇しくも無原罪の御宿りが教義と宣言されたまさにその日に、匿名の人物から 20,000フランの寄付がありました。

　シュヴァリエは 1855年、廃屋付きのイスダンの土地を購入し、ここを拠点に、たったふたりの神父をメンバーにして、聖心布教会 La Société des Missionnaires du Sacré-Cœur (Missionarii Sacratissimi Cordis, MSC) のもととなる活動が始まりました。シュヴァリエは「聖心の聖母」への崇敬を深め、後日この拠点には聖心の聖母のバシリカが建つことになります。また1874年8月30日には聖心の聖母会（修道会）が正式に設立され、同年6月にはローマ教皇ピウス9世の認可を得ることができました。

　聖心の聖母像とジュール・シュヴァリエ師

　フランス第三共和政において、1879年、ジュール・グレヴィ (Jules Grévy, 1807 - 1891) が第4代大統領、ジュール・フェリー (Jules Ferry, 1832 - 1893) が教育相に就任し、1880年には共和国政府の許可を受けていない宗教団体を強制的に解散させる等の法律、いわゆるジュール・フェリー法を施行しました。この動きを受けて、1880年以降の聖心布教会はフランス国外のヨーロッパ各地に拠点を移し、ローマ教皇レオ13世の命を受けてメラネシアとミクロネシアに宣教師を送ったのをはじめ、全世界へさらに布教活動の場を広げることになります。今日シュヴァリエ神父の聖心布教会の流れを汲む宣教師たちは 5000人を超え、その活動は世界の 55ヶ国で行われています。

【イスダンの聖心の聖母のバシリカ】

　1859年6月26日、シュヴァリエは 4年前に購入した廃屋付きの土地に礎石を置いて、ノートル＝ダム・ド・サクレ＝クール（聖心の聖母）のバシリカ建設に着手します。1861年には建設中の建物の一部で礼拝が行われるようになり、1864年7月2日にバシリカ全体が献堂されました。またバシリカの延伸部分には聖心の聖母の礼拝堂が建設され、1869年9月8日に教皇ピウス9世の手で聖母像の戴冠と礼拝堂の献堂が行われました。

　シュヴァリエ師の意匠に基づく「聖心の聖母」像

　聖心の聖母のバシリカはネオゴシック式の聖堂で、瞑想的な静寂に包まれています。堂内にはフィリップ・シャンボー (Philippe Chambault) の手によるブロンズと木のカルヴェール（キリスト磔刑のジオラマ）が設置されています。

　Philippe Chambault, Le Grand Calvaire, Issoudun, 1987

　身廊は聖心への信心、およびキリストと聖母の生涯をテーマにしたステンドグラスで飾られ、巡礼者から寄贈された多数のエクス・ヴォートー（感謝の捧げ物）がはめ込まれています。身廊にある十字架の道行きは19世紀末のもの、大壁画は 1968年のものです。