手作業による透かし細工 《ノートル=ダム・ド・ラ・ガルド 21.9 x 18.9 mm》 マルセイユの守護聖女 銀無垢の高級品 フランス 1870 - 1900年頃


突出部分を含むサイズ 縦 21.9 x 横 18.9 mm



 マルセイユの象徴、バジリク・ノートル=ダム=ド=ラ=ガルドの鐘楼頂上にそびえ、ラ・ボンヌ・メール(仏 La Bonne Mère 優しい聖母さま)として市民に親しまれる聖母子の巨像、ノートル=ダム・ド・ラ・ガルド(仏 la Notre-Dame de la Garde 守護の聖母)の銀無垢メダイ。十九世紀後半から二十世紀初頭のフランスで制作されたもので、手作業による透かし細工が施された美麗な一点です。浮き彫りを囲んで十字架型に配された菊花は、十九世紀後半のフランスを席捲したジャポニスム(仏 le japonisme 日本趣味)の影響です。





 本品の全体的意匠は、円形の小メダイを植物文で取り巻いています。円形小メダイの直径はおよそ十ミリメートルで、鐘楼上の聖母子像ノートル=ダム・ド・ラ・ガルドは小メダイの天地いっぱいに浮き彫りにされています。聖母子像の背景は魚子(ななこ)になっていて、メダイを観る者を柔らかな光で包みます。

 メダイをはじめとする浮き彫りは、絵画的彫刻とも呼ばれます。伝統的なヨーロッパ絵画では、必ず背景が描かれます。ノートル=ダム・ド・ラ・ガルドの背景にはマルセイユの遠景が描かれそうなものですが、本品の背景は魚子によるベタ塗りとなっています。これは浮世絵をはじめとする日本美術の影響です。





 ノートル=ダム・ド・ラ・ガルドは高さ 11.2メートルの巨大な聖母子像で、マルセイユを見霽かす聖堂バジリク・ノートル=ダム=ド=ラ=ガルドの鐘楼上に設置されています。聖母子像を制作したのはパリのクリストフル社(Christofle & Cie)で、1870年9月24日に祝別式が行われました。

 フランス語の女性名詞ガルド(仏 la garde)はフランク語ワルデーン(再建形 wardēn)に由来し、「守ること、守護」という基本義から「見張ること、見守ること」を表します。見ることが守ることに通じる理由は、邪視を見返し無力化するからです。バジリク・ノートル=ダム=ド=ラ=ガルドの鐘楼は最上部のテラスまで 33.8メートルの高さがあり、テラスの上には十六本の花崗岩柱に取り巻かれた高さ 12.5メートルの円柱があり、その上に高さ 9.72メートルの聖母像が据えられています。ノートル=ダム・ド・ラ・ガルドがこれほどの高所に据え付けられている理由は、聖母の優しい眼差しがマルセイユを守ってくださるようにと願うゆえに他なりません。


 適者生存を唱える進化論や、階級闘争に基づく共産主義等、殺伐とした近代思想が力を得て、カトリック教会が危機感を募らせた十九世紀後半は、あたかも近代思想に立ち向かうかのような聖母子の巨像がフランス各地に建立された時代でした。ノートル=ダム・ド・ラ・ガルドの祝別に先立つ 1860年には、ル・ピュイ=アン=ヴレ(オーヴェルニュ)の聖母像ノートル=ダム・ド・フランス(高さ 16メートル)が祝別されています。

 ノートル=ダム・ド・フランスやノートル=ダム・ド・ラ・ガルドは、「ヨハネの黙示録」十二章において竜すなわち暴力的な近代思想と戦う力強い女性です。幼子を腕に抱く聖母の姿は、ノートル=ダム・ド・ラ・ガルド(守護の聖母、見守りの聖母)の名にまさにふさわしく、情愛細やかな母子の姿を通して、像を見る者すべての心に神の愛を力強く響かせます。





 円は始まりも終わりも無い完全図形であり、神がます天上界を象徴します。それゆえ本品メダイ中央の円内に彫られたノートル=ダム・ド・ラ・ガルドは、聖母子が天上界の存在であることを表します。

 本品メダイをよく見ると、中央部の小円がしっかりとした輪郭を有するのに対し、その背景には細い輪郭の正方形が刻まれていることに気付きます。中国思想における天円地方の考え方は、我々東洋人にとって馴染み深いものです。しかるにこれと同様の考え方は西洋にもあって、ロマネスク以降の聖堂建築が四角い建物に円形の穹窿(きゅうりゅう ドーム)を戴くのは、建物の下部が地上界を、上部の穹窿が天上界を表しています。本品メダイの中央部は方形の上に円形を重ねています。方形は地上の都市マルセイユを、円形は聖母子の住まう天上界を、それぞれ象徴的に表しています。

 さらに円形部分に彫られた聖母の立ち姿は、上下いっぱいのスペースを占めています。これはマルセイユを神に執り成し給うノートル=ダム・ド・ラ・ガルドが、天地を繋ぐ恩寵の器であることを示します。





 本品メダイの外周は、擺線(はいせん サイクロイド)を思い起こさせるシルエットの枠となっています。枠を彩る植物文は、菊あるいはマルグリット(マーガレット)の間にアカンサスを配しています。アカンサス文は西洋の伝統的装飾ですが、装飾美術に菊(仏 chrysanthème)を使うのは、東洋とりわけ日本の影響です。

 あるいはこれをマルグリット(マーガレット)と見るならば、マルグリット(仏 marguerite)はギリシア語マルガリーテース(希 μαργαρίτης 真珠)がラテン語マルガリータ(羅 MARGARITA 真珠)を経てフランス語に入った言葉であるゆえに、本品において十字架型に配された四つの真珠は、ノートル=ダム・ド・ラ・ガルドが腕に抱く幼子イエスの象(かたど)りと解することもできます。





 上の写真に写っている定規のひと目盛りは、一ミリメートルです。聖母子像は突出部分が摩滅して、優しい丸みを帯びています。

 本品外周の枠部分は細心の手作業で鋸引きされ、軽やかな透かし細工となっています。フランスのメダイには時折このような作例が見られますが、その細かさにはいつも驚かされます。メダイユ彫刻は縮彫機を利用できますが、鋸引きは小さなメダイを直接的に加工するしかありません。それにもかかわらず鋸引きによる切断面は、菊の花弁や鋸歯状のアカンサスを正確になぞり、擺線状の輪郭も一定の幅を保っています。

 百数十年前のフランスでは版画家たちがダンテル・メカニーク(グラヴュールによるカニヴェ)に腕を振るっていましたが、それ同様に打刻後のメダイに関しても、繊細な加工を行う熟練職人がいたことがわかります。





 上の写真は本品の裏面です。ビュラン(彫刻刀)による流麗な文字で、スヴニール・ド・ノートル=ダム・ド・ラ・ガルド(仏 Souvenir de la Notre-Dame de la Garde ノートル=ダム・ド・ラ・ガルドからの到来品)と刻まれています。

 メダイをペンダントとして肌身離さず愛用すると、メダイの裏面が肌や服地と擦れ合って摩滅します。本品の裏面は平坦で突出部分が無いにも関わらず、刻まれた文字の一部が摩滅で消えかかっています。鋸引きによる断面の縁も、表(おもて)面は鋭角的に切り立っていますが、裏面では摩滅により優しい丸みを帯びています。本品が日々愛用されたメダイであることが、これらのことからわかります。





 めっきではない銀でできた製品を、銀無垢製品と呼びます。第一次世界大戦前のフランスは貧富の差が激しく、高価な銀無垢メダイをふつうの人が手にするのは滅多に無いことでした。また十九世紀の銀無垢メダイは、大抵の場合たいへん薄く作られています。しかるに本品はしっかりとした厚みがある銀無垢メダイで、聖母を恃(たの)む信仰の篤さを感じることができます。

 上部の環には、二つの窪みがあります。三角形の窪みはメダイユ工房のマークです。長方形の窪みはモネ・ド・パリ(仏 la Monnaie de Paris パリ造幣局)の検質印で、純度八百パーミル(八十パーセント)の銀を表します。





 上の写真は本品を男性店主の手に載せて撮影しています。女性が本品の実物をご覧になれば、写真で見るよりもひと回り大きなサイズに感じられます。







 第一次世界大戦期までのヨーロッパは貧富の差が極端に大きく、富の大半が富裕層に集中していました。1910年のフランスにおいて、上位一パーセントの富裕層が富の七十パーセント近くを所有していました。富裕層の範囲を上位十パーセントに広げると、この階層が富の九割を独占し、残りの一割を九十パーセントの国民が分け合う状況でした。一部の富裕層以外は、全員が下層階級というように、社会が極端に二極化していたのです。

 本品はそのうような時代に制作され、現代まで大切に伝えられた銀無垢メダイです。商品写真は大きな倍率で拡大しているゆえに突出部分の摩滅が判別できますが、メダイの実物は写真で見るよりもはるかに綺麗です。特筆すべき問題は何もありません。美しいものが多いフランスアンティークメダイのなかでも、本品は深い象徴性、目に心地よい均整の取れたデザイン、手間をかけた透かし細工、良好な保存状態と、すべてが揃った優品です。





本体価格 18,800円

電話 (078-855-2502) またはメール(procyon_cum_felibus@yahoo.co.jp)にてご注文くださいませ。




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